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太陽は泣いている / いしだあゆみ

季節的に少し早いですが… ↓ 字体がサイケデリックですね:

太陽は泣いている ジャケ.jpg

ビクターレコードからデビューしたいしだあゆみさんが、知名度のわりには楽曲がなかなか
大ヒットとならず、心機一転でビクターの宿敵・コロムビアレコードに移籍しての第一弾です。

前回の「新元号deクイズ」のヒントについて…。
1971年、イギリスの歌手エンゲルベルト・フンパーディンクが、今ではスタンダードとなった
「太陽は燃えている」をヒットさせました。
この曲、その前の1964年(昭和39年)に、レイ・チャールズ・シンガーズが同邦題で
日本でもすでにヒットさせていたんです。
その当時、日本グラモフォンに入社し洋楽ディレクターとなっていた筒美京平氏も
その曲は間違いなく知っていたはずで、「太陽は泣いている」もそのつながりでつけられた
題名だと思われます(作詞は橋本淳氏なので、協議はあったでしょうが)。


一聴してわかるように、当時(1968年)全盛だったグループサウンズのサウンド、
と言っても実際にはかなり多彩だったのですが、そのイメージを歌謡曲に転化して制作された
のは明らかで、移籍第一弾を必ずヒットさせる狙いだったのでしょう。

作詞・橋本淳、作曲:筒美京平。 後に大ヒットを連発するコンビの最も初期の作品ですが、
シーンが思い浮かぶような歌詞に流れの良いメロディーをつけ(筒美氏はその「流れの良さ」を
重視していたそうです)、覚えやすくインパクトの強いイントロで開始し、ストリングスを
強化したオケでグングンと押しまくるような曲構成は、この頃にすでに完成していたんですね。

そのストリングスは速くて複雑なフレーズが次々に出てきてカッコ良くドラマチックなのですが、
もしかすると制作の現場では演奏者から「こんな難しいの弾けないよ~!ギャラを倍にしてくれ」
などと嫌味を言われながら録音していたのかも知れませんね。

当時を象徴する楽器の音の筆頭なのは12弦のエレキギターでしょう。
その時代の歌謡曲、特に東芝レコードの楽曲にはどれにも入っていた気がします
(「サザエさん」(宇野ゆう子)、「ある日突然(トワ・エ・モア)、「手紙」(由紀さおり)、
「天使の誘惑」(黛ジュン)等々。そのどれも、イントロから使われています)。
きっと当時は最新のサウンドとして多用されたのでしょうが、そういう音色は時間が経つと
突然「古いサウンド」と思われるようになってしまう運命なんですね…。
「太陽は泣いている」も、今ではそのギターサウンドのためによりレトロ感が増しています。


ちょいと音楽的なお話を…。

とにかくノリが命です。 いしだあゆみさんはまさに声を振り絞り(やや無理が感じられる
ほどです)、最高音がハイBに達する音域を体全体で熱唱しています(キーはG#m)。

しかしこの曲はそれだけではありません! 筒美氏はどの曲にも実験的な要素を採り入れる
傾向がありますが、この曲では特にコード進行にそれが感じられます。

筒美氏はⅣの和音に6thの付加音を多用する…と言われていますが、
この曲ではサビの ♪太陽は~♪ の部分に「♭Ⅵ7-5」と言うコードを使用しているのです。
短調なのでIはラドミで、それに対する♭Ⅵ7の和音はファラドミ♭となります。
で、-5とはそのドを半音下げる、即ちファラシミ♭となるんですね。

しかしそうするとラとシが1音(正確には全音)の関係なので、不協和音となります。
それらの音だけでは確かにその通りで不快な響きとなるのですが、
その前後のファとミ♭が加わる事で何とも不可思議な、不安定な響きに聞こえるようになります。
その音は長くは続けられず、すぐにⅤ7に移行する(解決する)のですが、
♭Ⅵ7-5のハーモニーはどこか力強く、それが楽曲全体のインパクトにもつながります。
和音、コードって、不思議です。

筒美氏の楽曲には同じように♭Ⅵ7-5のコードを効果的に使った楽曲が他にもあって、
「色づく街」(南沙織)の ♪(あの日別れた駅にたたずみ)あ~♪ の部分、
「あなたに賭ける」(尾崎紀世彦)の ♪はげしく(愛し合う)♪ の部分など、です。

それは実に細かい事ですが、筒美氏の楽曲の多くが強く深く記憶に残るのは、
そういった操作をさりげなく採り入れている事も大きいのでは、と思うのです。


「太陽は泣いている」はカバーが多いようですが、私が知っているのは
山内恵美子ver.と原由子ver.です。

山内恵美子ver.は「センセーション'78」のサブタイトルが付けられ、
アレンジを筒美氏自身が行っています。
フラメンコのようなイントロに続いて、まるで西部劇のような疾走感のあるサウンドが展開し、
オリジナルのGSっぽさを根本から否定しているような仕上がりです。
シャープな声質で無理のない歌唱のボーカル、勇ましいストリングスが聴きものです。
全体にエコーの少ないドライなサウンドで、南沙織さんの「GET DOWN BABY」にも通じる
ものを感じます。

原由子ver.は2002年に発売されたアルバム「東京タムレ」のトップに収録されています。
こちらはアルバムのコンセプトに従ってオリジナルに忠実に作られています。
キーはGmでオリジナルより半音低く設定されていますが、先述の12弦エレキを初め、
オリジナルのGSっぽいサウンドが細かい所まで再現されていて、
全体の構成やサウンドを含めプロが本気を出した完コピ、と言って良いような仕上がりです。
原由子さんのボーカルはダブルトラック録音ですが、明らかにオリジナルを意識している
(いや、リスペクトしている、でしょうか)ような歌唱に感じられます。
このバージョンには筒美氏も「カバーしてくれてありがとう」とコメントを寄せています。


そしてB面「夢でいいから」もまた、影響力の強い1曲です。
70年代前半にデビューした女性アイドル歌手の多くがカバーしていて、
誰が歌ってもその人なりの個性を引き出す、柔軟性の高い楽曲です。
いしだあゆみさんの歌唱はどこか気だるく、A面とは全く違う表情で聴かせています。
以前にも書きましたが、私はカバーでは浅田美代子ver.が特に素晴らしいと感じています。
1998年に発売された「GOLDEN J-POP/THE BEST 浅田美代子」(ソニーSRCL4411)にも
収録されていますので、ぜひご一聴をお薦めします。


「太陽は泣いている」はオリコンで18位どまり(1968年8月19日付)でしたが、
その後の筒美氏の作品で聴かれる様々なエッセンスが詰め込まれたような1曲であり、
発売から半世紀以上経った現在でも多くのファンがいるんですね。


「太陽は泣いている」
作詞 : 橋本淳
作曲 : 筒美京平
編曲 : 筒美京平
レコード会社 : コロムビア
レコード番号 : LL-10058-J
初発売 : 1968年(昭和43年)6月10日

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もとまろ

ぽぽんたさん、おはようございます。

この歌はかなり前から知っていて、ラジオでよくかかりました。
あゆみさんのあの声を振り絞る歌い方とイントロのかっこよさだと思います。一人GSの女性歌手は何人もいたけど、他の誰にもない太陽そのもののギラギラした世界観があるように見えます。黛ジュンさんとも違うんですよね。
歌詞はかなり切ないですが、それをあまり感じさせないパワフルな歌です。自分以上に「太陽は泣いている」、この海はそれくらい暑いのかな、と。筒美先生のアレンジが冴えまくってます。

あ、先日のクイズでは、フンパーディンクの「太陽は燃えている」よりも、イエモンの「太陽が燃えている」が先に浮かびました。

「夢でいいから」は、後の「みんなの知ってるあゆみちゃん」の雰囲気で聴ける歌だなぁと思います。すぐに気に入るというより、ジワジワ来ますね。
浅田美代子さんのカバーが良かったとのことですが、あゆみさんの妹のゆりさんが歌ってもしっくりくるかなと思います。ゆりさんの「悲しみのアリア」を初めて聴いたとき、美代子さんみたいだなぁと感じたものでした。

この機会に、「ふたりだけの城」を聴きました。「太陽は泣いている」の次のシングルでしたがオリコン100位にも入らず、どんな歌だか気になっていた歌です。
「ゆうべの秘密」「恋のしずく」の二番煎じで、なんかあゆみさんに合ってないんですよね。何でイメチェンしたのかなと思いました。徐々にGS衰退が始まってきた頃で、筒美先生がブルコメに「さよならのあとで」を書かれたことがヒントになったのかなと思ったりして。

「ブルー・ライト・ヨコハマ」がミリオンセラーになる前に、スタッフさん諸先生方が試行錯誤された様子が浮かびます。
by もとまろ (2019-04-14 09:07) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは! お返事が遅くなり申し訳ありません。

確かにこの歌でのいしだあゆみさんは、かなり体力を使って全身で絞り出す
ように歌っていますよね。
それまで歌で大きな実績がなかったために力んでいたのか、それとも歌唱指導で
そのようになったのか…当人達にしかわからない事ですが興味があります(^^)
しかしその後のシングルで絶叫型の歌唱は全くと言えるほど無いので、
もしかすると筒美氏を含む制作陣は「太陽は…」が失敗作と判断して
次のシングルで違う路線にしたのかも、と思います。
私には、「太陽は…」での歌唱はすごく無理があるように聞こえます。
でもそれが切なさにも聞こえるから、歌って面白いんですね。

ただこの曲って、いしだあゆみさんの移籍第一弾だからという事よりも、
筒美氏の最初期の作品だからもてはやされている、という感じもしますね。
いい曲だけど名曲ではないな…と私は思っています。

by ぽぽんた (2019-04-16 23:21) 

もっふん

最近あちこちで、ぽぽんたさんこんにちは。

私は何度も書いたように歌謡曲を聴き始めたのが遅かったので'70以前の楽曲となるとクイズはお手上げでした。ぱっと聴きで安西マリアさんの「涙の太陽」を思い出しましたが、いかんせんアレンジが一昔前のGS仕様。確か「涙の~」は昔の曲のカバーだったな、と記憶を辿ってエミー・ジャクソンの音源を当たってみましたがこれもハズレ。

正解を聞いて「あ、こりゃ分からんはずだ」と思いました。「太陽は泣いている」を初めて聴いたのはピチカート・ファイヴの「モナムール東京」が実は「太陽は泣いている」をリスペクトした「本歌取り」で、GS風の楽曲をミニマルに持って来てもハマるんだよ、と言う後年の話題からでしたので、リアルタイムでは全くインプットされておりませんでした。

加山雄三さんが弾厚作名義で書かれていた「蒼い星くず」などの一連の楽曲も「GS風歌謡曲」としてはかなり近いサウンドであったのではないかと思います。

さて、などと言い訳しながらいまさらコメントする理由はやっぱりコード。

★「♭Ⅵ7-5」とは

古典音楽系の理論ではメジャー3rdを持った「7-5」と言うのは基本的にセカンダリー・ドミナント(古典なんだからドッペル・ドミナントと書くべきですが)としてドミナントコードにのみ進行すると言うのが通り相場です。

本曲の当該部分でもすぐ後にはドミナントコード(V7)である D#7 が続いていますから、これに先行するセカンダリドミナントは実はⅡ7-5(A#7-5)なんですね。構成音はシレ#(=ミ♭)ファラ、と、なんと♭Ⅵ7-5と全っっったく同じである事をご確認下さい。

俗に「増六の和音」と言われ、シレ#ファラとボイシングするとレ#とファが二度でぶつかるので、ここが主音と属七であるかのように聴こえてしまうため、上声部のファラをドロップした第二展開形(ファラシレ#)を使う、と言うところまでがクラシックの楽典のお約束であるようです。楽譜に書けば♭Ⅵ7-5であるように見えてしまうのは当然ですね。「増六」の名前の由来は、ドロップした -5 の音(ファ)と上声部に残した 3rd(レ#)の間の音程から来ています。

クラシックの世界では楽譜に書かれた事が全てで、演奏者が勝手に音を足したりしませんが、これに対してジャズの楽典は与えられたコードネームの上で自由にフレーズを作るのが基本ですから、コードネームを見ればそこで使えるスケールが分かるようになっていなければなりません。「C=ドミソ」と規定してあってもフレーズがシの音を通過する時にシを使うのかシ♭を使うのかと言う情報が必要になってくるため、ジャズの音楽理論ではトライアドでは情報不足とされ4音以上の和音である事が必須とされます。

ジャズの世界で♭Ⅵ7-5と書くと、この部分ではルートから完全5度の5thであるドの音はスケールに含まないでくれと指示している事になります。もしこのコードが鳴っている時に「シシドド・シドシラ」のようなフレーズを許容するのであれば、ここは「♭Ⅵ7#11」と表記してシをテンション(#11)として扱うのが妥当であると言う事でもあります。#11と書くと少し分かりにくいですが、これは元々が♭5thなのですから、要するにブルーノートスケールでフレージングしてくれと言う意味である場合が多いようです。

およそ音楽理論と言うのはクラシックかジャズのものを指し、厳密にはポピュラー音楽理論と言うのは存在せず、クラシックとジャズの都合の良い部分を場合に応じて使い分けているだけであったりもします。

ポピュラー的にはこのコードは「ファシ」と「ミ♭ラ」と言う2組のトライトーンで構成されているので、4つの構成音それぞれの半音上をルートとするコードに進行出来そうに見えます。2組のトライトーンの間隔が短三度であれば綺麗なdimなのに一全音と二全音と言う中途半端なインターバルで配置されている事が、独特の危ういサウンドを生んでいると言えるでしょう。ぽぽんたさんの感じられる力強さは長三度音程が2つ含まれていて、dimコードのように陰にこもらない性質によると思われます。

一つの思考実験として、このコードを演奏した後でファとミ♭をそれぞれ半音下げてトライトーンを解消してやると V7sus4 が出来ると言うのは、このコードの役割を示唆しているようにも思います。

とまあ、長々と書いては来ましたが、ギター小僧であれば「ここは♭Ⅵ一発の伴奏でも充分歌えるから#11だと解釈するべ」「しかも♭Ⅵ7は、V7のセカンダリードミナントⅡ7の裏コードだから流れもバッチリ☆」くらいの事しか考えなくても充分OKで、難しく考えれば音楽が良くなると言うものでもなかったりします(笑
_
by もっふん (2019-04-30 07:20) 

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