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避暑地の恋 / チェリッシュ

実は…チェリッシュのシングルで、私が最も好きな曲です:

避暑地の恋ジャケ.jpg

♪赤い屋根の時計台が…♪
この曲に限らず、当時の歌謡曲の歌い出しはア行の音で始まるものがとても多いのです。
曲の頭から歌手の声質の特徴を表現しやすい事も、その理由の一つでしょう。

「避暑地の恋」はチェリッシュの6枚目のシングルとして昭和48年(1973年)4月に発売され、
オリコンシングルチャートで「ひまわりの小径」と並んで自身の最高位である3位をマーク。
同100位内の登場週数は22週で、売上枚数は33.1枚に達しました。

発売は4月なのに、オリコン3位に達したのは7月の第1週であり、
アルバム「春のロマンス」(同年3月発売)の収録曲「てんとう虫のサンバ」が大きな話題となり、
ビクターが慌ててシングルカットし発売した時期と重なります。
それほど、当時のチェリッシュは絶大な人気がありましたし、
同年6月に発売されたベスト盤「スーパー・デラックス」はオリコンLPチャートで1位、
100位内の登場週数が何と73週にも達するロングセラーLPになりました。

チェリッシュは担当ディレクターが前作「若草の髪かざり」から、「走れコウタロー」の大ヒットで
知られるフォークグループであるソルティー・シュガーのメンバーだった高橋隆氏となり(*1)、
高橋氏が作・編曲に馬飼野俊一氏を起用してから急速にチェリッシュの人気が上昇しました。

その流れで、「避暑地の恋」も作・編曲は馬飼野俊一氏。 馬飼野康二氏のお兄さんですね。
作詞は、それまでにも「だからわたしは北国へ」「ひまわりの小径」、
以後も「白いギター」から「哀愁のレイン・レイン」まで続けて手掛けた林春生氏です。
林氏は以前にも書きましたが元フジテレビのディレクターで、「サザエさん」の作詞者でもあります。

オリコンでの成績を見ると、馬飼野俊一氏を起用してから人気急上昇、林春生氏が作詞を下りてから
人気が急下降…と、チェリッシュの人気は適切な作家の起用によって支えられていたようです。

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キーは「だからわたしは北国へ」と同じ、Eマイナー(ホ短調)。
リズムはシンプルな8ビートで、Aメロではバスタムが4拍目にアクセントを入れて特徴づけています。
各番あたりの構成は A→A'→B→A”と、これまたシンプル。
全体は2コーラス+エンディングでBメロをスキャットで、と言った構成になっています。

コードは難しいものが殆ど使われておらず、進行も単純で流れの良いものになっています。
Bメロに移る時の ♪そっと…♪ やBメロ中の ♪いつか…♪ で E7→F#m7-5→E7/G# と進行するのが、
コード進行についての数少ないアクセントと言えるでしょう。

「手紙」(由紀さおり)のようなタータタタータタタータタ…と流れるようなメロディーで
Aメロは作られ、ここの歌唱は女性のソロ状態です。

転じて男性が加わるBメロでは、前半が女性とのオクターブ差ユニゾン、後半がハーモニーで、
この曲の最大の聴かせどころとなっています。

そのハーモニーも、6度差で2小節歌って下準備してから3度差に迫って寄り添うように…
と、そこで聴く人はキュン!と来るような仕掛けになっています。


歌唱が女性・男性とも実にストレートで、まさに譜面通りと言ったものなので、
そこに一つインパクトを追加するためなのか、演歌(ほど派手ではないが)のようなコブシが
入るのが面白いところです。
こんな感じに…:


もっとも、チェリッシュが崩したりせずに譜面に忠実に歌うのは、
元々コーラス(後にデュオ)グループである事が大きいのでしょう。
メンバー各人が好きなように歌っていたらハーモニーは構成できませんし、ね。

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歌詞の2番にあるように、この曲では軽井沢が舞台となっています。
心情的な表現が全くと言って良いほどなく、
その場所での景色や行動をそのまま表現、その羅列のような歌詞で、
例えば登場する二人はそこで出会ったのか、それともどこかから旅行で来ているのか…とか、
お互いにどのように想っているのかとか、
そのあたりがすべて、聴く人に丸投げされているような歌詞に感じられます。

それを想像させる要素がチェリッシュの二人の歌声、歌い方、そしてオケのサウンドで、
何かが始まる事を知らせるようなイントロのチェンバロとハーモニカのメロディー、
うねりが大きく主人公の心情の動きを代弁するようなストリングスの流れで最低限の表現がなされ、
押し付けがましさを排除し、聴き手の想像力と作り手側との距離感を大切にした作りだったんだ…
と言うのが、今回しばらくぶりにこの曲を聴き直してみて私が感じた事です。
そのあたり、これも想像の域を出ませんが、林春生氏が若い頃に親しんだ文学、
馬飼野氏が若い頃に親しんだ古典的な音楽などがベースになっているのかも知れません。

そういった事、即ち聴き手と作り手の距離感や想像の余地の大きさなどは、
1970年代の歌謡曲では他にも感じられる曲が多く、
今の若い年代にも当時の歌謡曲を好む人が多いと言われる理由の一つでしょうか(^^)

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この曲のイントロはちょっと変わっていて、バスタムを1回ドン!と鳴らしてから2拍空き、
もう一度バスタムを鳴らして次の小節からベースも加わり…と言った感じなのですが、
私が当時聴いていたFM東京の歌謡ランキング番組では、
最初のドン!が必ず省かれて放送されていたんですね。

またその番組では、1時間ほどの間に10曲とゲストとのトーク、また11位から20位までの発表
と言ったコーナーもあるために、編集で曲によって2番がカットされたり、
曲のエンディングが次の曲とクロスフェードになっていたりしたのですが、
「避暑地の恋」は毎回1番だけで次の曲に移ってしまい、私は結局、
その番組中でこの曲をフルコーラスで聴いた事が全くありませんでした。

なので、この曲のヒットからしばらくしてから先述のベスト盤「スーパー・デラックス」を買い
(翌年のお年玉で、でした)、初めて全長を聴いた時にはとても感動したのを憶えています。
そんな事もあり、私にとっては、数あるチェリッシュのヒット曲の中でも、
とりわけ忘れられない1曲となっているワケです(^^)


ところで…
この曲は1番と2番、両方のAメロに ♪小さな胸に…♪ と歌詞が乗ったフレーズがありますが、
1番はともかく2番のその部分の歌唱に「小さい、小さいって…ヤーネー」みたいな気持ちが
乗っているような気がしてしまうのは私だけでしょうか(^^;)


「避暑地の恋」
作詞 : 林春生
作曲 : 馬飼野俊一
編曲 : 馬飼野俊一
レーベル : ビクター
レコード番号 : SF-49
初発売 : 1973年(昭和48年)4月25日

*1 参考文献:「ヒットソングを創った男たち」(濱口英樹・著 シンコーミュージック刊)
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久々に「オリカラでピアノ」

ぽぽんたです。
平素よりご贔屓のほど、心よりお礼申し上げます。

数年ぶりに「オリカラでピアノ」の新作、です。



これを観て「南沙織、聴いてみよう」「キーボード、やってみようかな」
なんて思ってもらえると嬉しいです(^^)

編集は全くしていないので2、3箇所ほどミスタッチがありますがご容赦をm(_ _)m

次回は27日に記事をアップする予定です。
またよろしくです(^^)/

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ボーイの季節 / 松田聖子

すみません!アップロード、一日遅れましたm(_ _)m

ボーイの季節ジャケ.jpg

「ボーイの季節」は松田聖子さんの21枚目のシングルとして1985年5月に発売され、
オリコンシングルチャートで最高1位(同年5月20日付)、35.6万枚の売り上げでした。
ほぼ同時期に菊池桃子さんも「BOYのテーマ」を発売し、少年をめぐって1位争い
…と言った変わったチャートアクションが展開されていました(^^;)

また「ボーイの季節」は、松田聖子さんの独身時代最後のシングルであり、
その発売後1年ほど休業状態となり、翌年6月にアルバム「Supreme」で復帰となるんですね。
個人的には、「8時だヨ!全員集合」(TBS)にゲスト出演してこの曲を歌った時、
歌い終わりに「どうもありがとう」と、声は入りませんでしたが口を動かしていたのが
強く印象に残っています。


作詞・作曲は、前作「天使のウィンク」に引き続き尾崎亜美さん。
編曲はそれまで同様、大村雅朗さんですね。

レコーディングエンジニアが「天使のウィンク」共々、内沼映二さんだそうで、
それはデビュー曲「裸足の季節」のレコーディング以来、5年ぶりの起用だったんですね。
正直なところ、私には「内沼サウンドだ、やっぱり違うなぁ」
なんて言えるほどにはわからないのですが(^^;)、
何となくボーカルの存在感のようなものをより感じる、そんな気はします。


アップテンポな「天使のウィンク」と違い、派手さの全くないスローなバラードです。
歌詞にもありますが、私には風、それも街中ではなく荒野のような場所での風を感じる楽曲です。
松本隆さんの歌詞に出てくる風とは強さも温度も違う…。

リズムはシンプルな8ビート、全体の構成は2ハーフです。
変わっているのが、他の楽曲だと2コーラス目に向けて派手になりがちな間奏が、
この曲では全体を通じて最も静かな部分となっている事、かな。

また各コーラス(この場合は1番、2番の事です)が素直に「Iの和音で、ドまたはラ」
で終わらず「Vの和音で、ソ」で終わっていて、まだ次の展開を予感させるような感じです。

キーはE(ホ長調)。 松田聖子さんのシングルA面曲では、このキーは「ボーイの季節」だけです。

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では、曲の流れと特徴などを書き出してみますね。

イントロはキーボードとギターで F#m7/B の和音打ち、続いてキーボードがそれに9thを付けて
下ってくるフレーズで始まり、その動きはこのブログでも以前紹介した「愛されたいの」
(「野ばらのエチュード」)B面)のイントロと同じであり、大村雅朗さんの好きな音の組み合わせ・
流れ、なのでしょう。

♪革のカバンひとつだけなの…唯一の地図よ♪ と来て次の ♪空が…♪
までの間にタメ(ごく短い時間的空間)が感じられ、それは2コーラス目の同じ部分も同様です。
この時代ではテンポは指揮ではなくリズムボックス(ドンカマ)で機械的に保っているはずなので、
「萩田光雄さんって曲中でドンカマいじってテンポ変えてるみたいだぜ…ここでもやってみるか」
(大村さんの声です)なんて感じでごく微妙に操作してたり、かもですね(完全に推測です)。

ここのコード進行は大雑把には E→A/E→E→C#m →A→B7→G#m→C#m→ AMaj7→B7で、
実際にはEからC#mに移る時にはD#、C#mからAに移る時にはBを経由していて、
その動きが歌メロにシンクロしているのが特徴です。
そのベースの動きが歌メロとは3度のハーモニーの関係(実際には1オクターブ離れていますが)で
ある事にも要注目!ですね。

♪(空が)…約束のSunset♪ の歌メロは、上の♪唯一の地図よ♪ の部分と同じメロディーを
1オクターブ上に持って来ただけのものですが、次の展開に向けての重要な架け橋になっていますね。

♪夢よいかないで♪ でのコード進行は E→Eaug。
augとはオーギュメントの略で、+5と表記される事もあります。
それは何かと言うと、ドミソの和音でソ、つまりドから数えて5つ目の音であるソを#しなさい、
と言う意味です(ドを含めて5つ目、ですね)。
次のコードが ドファラ なので、ソ→ソ#→ラ と半音ずつのスムーズな流れを作っているワケです。

♪強い風が吹く丘で♪ でのコード進行は F#m→B7→G#m7-5→C#7。
またややこしいコードを…この中の G#m7-5 は m が付いているマイナーコードですから、
-5とはラドミのミを♭しなさい、と言う意味です(7はマイナーコードの場合ソの事ですね)。
ハーフ・ディミニッシュとも呼ばれるこのコードは、次の C#7 とのつながりを美しくするだけの役割
と思っていいでしょう(何が「ハーフ」なのか、今も私にはよくわかりませんが)。
なので G#m7-5 の替わりに EやC#m と普通のコードを入れてもコード進行としては成り立ちますし、
場合によってはその方がきれいに聞こえるかも知れません…あとは作家(またはアレンジャー)が、
トータルでどんな雰囲気にしたいかによって決める事なのでしょう。

因みに同じようなコード進行は「水色の恋」(天地真理)の ♪…お別れの言葉だから~♪
の部分にも使われています。

♪少年の頃に見た♪ でのコード進行は、哀愁感表出についての伝家の宝刀 A→Am(Ⅳ→Ⅳm)、
テンションまで細かく表記すると AMaj7→Am6 で、これも聴いた感じの美しさ重視の進行でしょう。

その次の ♪夏に逢える♪ ではコードは E→F#m7/B となりますが、従来の歌謡曲ではここは、
その前の A からの流れで E/B→F#m7/B と、ベースを先にBに固定してから次のコード、と
していたはずです。
例えば筒美京平さんのアレンジの楽曲では、そのようになっているものが多いんです。
「雨の日のブルース」(渚ゆう子)の歌い終わりのあたりなど、その良い例です。
なので、それに聴き慣れていた耳にはただの E が来たのが新鮮に聞こえた事と思います。

以上は色々ある中の一部ですが、コード進行をちょっと見ただけでも色々な配慮が
感じられる、繊細な作りです。


全体のサウンドはキーボードとギターが中心の、シンプルなようでかなり複雑なアレンジで、
それに尾崎亜美さんによるコーラスが彩りをより豊かにしている印象です。
ストリングスも多く使われていますが、必要な部分を狙って思い切り張り出させるようなアレンジで、
決してそれが主役的存在とはなっていないのが、従来の歌謡曲と違うところではないでしょうか。

さらにいくつかのシンセサイザーの音色が混ざり合って絵画的なサウンドを構築していて、
サウンドコラージュのようなイメージも感じられます。

ボーカルをよく聴くと薄くフィードバック(エコー)がかかっているようで、
その処理は松田聖子さんの楽曲では珍しい事です
(「Eighteen」のようにハッキリそれとわかる曲もありますが)。

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松田聖子さんはよく「作家と作品に恵まれて…」と言われます。
オリコンで必ず1位を獲得していた頃の一連の作品を見ると確かにその通りと思いますし、
今ではそれらの多くがスタンダード化している事は実に素晴らしいと思います。

が…

1981年夏の「白いパラソル」以降、それまでさほどメジャーではなかった元はっぴいえんどと
ナイアガラのメンバーが、松田聖子の人気を利用して自分達の音楽を大衆に広めていた…
とも解釈できるわけで、それが顕著になってきたのが1983年夏の「天国のキッス」からに思えます。

特に1984年の「時間の国のアリス」「ピンクのモーツァルト」など、これと言ったインパクトもない
ような作品が、楽曲の良さ云々よりあくまでも松田聖子さんの人気の勢いによってオリコン1位に
なっていた気がしますし、それに大衆が薄々気づきやや食傷気味になってきたのを制作陣が察知して、
尾崎亜美や小坂明子と言った才能ある女性ミュージシャンに方向転換して作品を依頼したのでは…
というのが、私の「穿った」見解です。

「天使のウィンク」「ボーイの季節」が松田聖子さんのキャラクターや歌唱をフルに生かしているか、
と考えると疑問も残りますが、マンネリは明らかに脱している気がします。


YouTubeに興味深い、音声のみの動画(ん?)が上がっていて、
それは「ボーイの季節」の頃の松田聖子さんのDJ音声なのですが、
「私の歌声はデビューの頃が一番大人っぽくて、新曲が出るたびにだんだん幼くなっていってる」
と言った内容なのですが、恐らくその頃にも、歌声についてあれこれと言われていたのでしょう。

「ボーイの季節」での聖子さんの声は、完成されている気がします。
どのフレーズを聴いても、神経が行き届いているんですよね。
無意識で歌っているのではない、完璧に自分をコントロールしている歌唱に感じられます。


去る6月24日は、美空ひばりさんが天に召されて32年目の日でした。

そこでふと気づいたのですが、美空ひばりさんの現役時代(病気等で休業している期間を含めて)は
トータルで42年間(昭和22年~平成元年)。

松田聖子さんは昭和55年デビューですから、今年で歌手生活が41年。
キャリアではもうすぐ、美空ひばりさんに追いつくわけです。

それって、結構凄くないですか?


「ボーイの季節」
作詞 : 尾崎亜美
作曲 : 尾崎亜美
編曲 : 大村雅朗
レーベル : CBSソニー
レコード番号 : 07SH1640
初発売 : 1985年(昭和60年)5月9日

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