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妖精の詩 / アグネス・チャン

この頃のアグネスは本当に可愛かった(*^^*)

妖精の詩.jpg

アグネス・チャンさんの第2段シングル「妖精の詩」は、一聴するとデビュー曲にして
オリコン5位の大ヒットとなった「ひなげしの花」の二番煎じのように
思えてしまいがちなのですね。

しかしそれはイントロなどでの高い音の多用や、楽曲全体から受ける可愛らしいイメージ
のためであって、どちらかと言うと編曲によるものが大きいと言って良いでしょう
(いや、それを指示したであろうナベプロ、プロデューサーの責任、かな)。

「ひなげしの花」とは作詞者と作曲者が全く異なります。
当時のヒットメーカー(天地真理さんの制作チームでもありますね)であり、
もろ歌謡曲路線の作家である山上路夫・森田公一両氏による作品「ひなげしの花」に対し、
「妖精の詩」はフォーク畑の松山猛・加藤和彦両氏を起用しての作品です。
この4年ほど前にヒットした「白い色は恋人の色」(ベッツイ&クリス)がベースに
なっているようにも思えますね(そちらは作詞が北山修氏ですが)。

今となると、当時は1曲ヒットが出ると同じ作家を続投させるのが普通だったのに、
よくその人選をしたものだな、と思います(^^)

同コンビの作品はアグネス・チャンさんと相性が良かったようで、
その1年後に発売されたアルバム「アグネスの小さな日記」にも2曲収録されています。

余談ですが、そのアルバムには松本隆・馬飼野俊一・キャラメルママと言った
珍しい組み合わせによる「想い出の散歩道」が収録されていて、
その曲には何と、後に矢野顕子さんがカバーしたバージョンが存在します。
アグネスver.でピアノを弾いているのも、恐らく矢野顕子さん(当時は鈴木顕子)でしょう。

「妖精の詩」は、オリコンでは「ひなげしの花」と同じく5位まで上昇しています。

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眉間にシワを寄せて必死にレコーディングしたと言う「ひなげしの花」と違い、
「妖精の詩」ではリラックスして本来のアグネス・チャンさんらしいと思える
歌唱を聴く事ができます。

それを最も感じるのは2コーラス目の ♪…磨き出す 今日からが~♪ のところで、
が~の嬉しそうな発声はアグネス・チャンさんにしか出来ない、似合わないものでしょう。
まだ日本語をよく理解していなかったからこその歌い方とも思えますが、
あ、人形のように可愛いだけじゃない、何となく主張を感じる…
と思わせる効果もあったのではないでしょうか。

最後のサビ ♪春がめぐり来た…♪ の「はァ~」の発声はまさに、当時のアグネスですよね(^^)
そのあたりはものまねでもキモになるようで、
特に森昌子さんは実に巧く表現していたものでした。


音楽的な事に目を向けると…

キーはE♭メジャーです。
アグネス・チャンさんの初期の楽曲は、「ひなげし」がB♭、「草原の輝き」がG♭、
「小さな恋の物語」がDmと、いわゆる「♭系」のキーが多く、
文字通りシャープなイメージと言われる#系ではなく、ふくよかで穏やかと言われる♭系を
意識して使っているのかも知れません。

歌メロが、サビ ♪春がめぐり来たしるしです… 季節の扉のすきまから♪ 以外が
ファとシを抜かした素朴な四七(よな)抜き音階で作られているのは、
そのサビを引き立たせる目的もあるのでしょう。


コード進行は極めてシンプルで、

Aメロ: E♭→Gm→A♭→Gm→A♭→Gm→Fm→B♭7
サビ: E♭→Gm→A♭→B♭7 E♭→Gm→A♭→B♭7
サビ後: Cm→Gm→Fm→B♭7
Bメロ: E♭→Gm→A♭→Gm→A♭→Gm→Fm→B♭7→E♭

…と、何の仕掛けもございません!と言った感じですね(^^)
Gm⇔A♭を執拗に繰り返しているのに何ら違和感がないのが面白いところです。


アレンジとサウンドは「ひなげしの花」以上に幼いと言うか、
少々わざとらしいほど子供っぽいイメージにしているのは否めませんが、
当時の若者や子供がアイドルに求めていたイメージと合致しているのは確かで、
アグネス・チャンさん自身のキャラクターとも見事に合致し、
人気上昇の一助にもなったものと思います。

録音・ミックスのエンジニアは吉野金次さんと思われます。
確か当時の天地真理さんの楽曲も担当していたのではないかな。
吉野金次さんの作る音は一つ一つがクリアで、各楽器やボーカルの音色をほぼ原音のまま
出すようなサウンドである事が多いのですが、
ミックスは左・中央・右の3点のいずれかに適当に楽器を放り込んでいるように聞こえる
作品が多く(勿論計算されているのでしょうが)、時に乱暴にさえ思えるのですが、
殆どの作品でそれがより主役のボーカルを引き立たせているのが凄いところです。


実は私、この「妖精の詩」で、何よりも好きなのが歌詞、でして(^^)。
メルヘン、ですよね。
そのまま絵本になってしまいそうな、そんな歌詞だと思うんです。
特に好きなのが2コーラス目で、「太陽のガス燈を 星の靴はく少年が磨き出す…」
のくだりは、聴くたびに不思議な光景が脳裏に浮かんできて、しかもそれは、
私が初めてこの曲を耳にした小学6年の時から今まで、全く変化がないんです。
才能のある人が書く歌詞って、そういうものなのかも知れませんね。

****************************************

昨年10月末に、私の住んでいる地域のコンサートホールに
アグネス・チャンさんがとあるテーマの講演に来たんです。
土曜日の午後&入場無料と言う事で私も足を運びました。
そして38年ぶりにご本人を、しかもかなりの至近距離で見る事ができました
(前回アグネス・チャンさんを観たのは、町田の大丸デパート屋上で公開録音されていた
ラジオ番組「ハロー・ヤング・ラブ」に出演した時で、1980年2月です)。

かつての、無垢なアイドルのイメージではなくなっていましたが(当然ですね)、
清楚な雰囲気は変わらず、少しだけ聴かせてくれた歌声はとてもパワフルでした。

そう言えば以前、アイドル時代の楽曲を集めたCDボックスを発売する際に
「今の私とは別人と思ってもらって構わないから、ぜひ聴いてほしい」
とコメントしていましたっけ。
確かに別人っぽいですが(^^;)、デビューから数年間に発売された楽曲は、
本当に素晴らしいものが多く、私からもオススメです。

特にアルバム「アグネスの小さな日記」「あなたとわたしのコンサート」(ライブに非ず)、
そして「はじめまして青春」の3作品は、末代まで楽しめる事うけあいです。
しかしできれば(私はまだ持っていませんが)CDボックス・セット「Always Agnes~
アグネス・チャン ワーナー・イヤーズ・コレクション 1972-1978」でしたら、
それらのアルバムの主要曲を含めた傑作を一気に入手できます(私もほしい~!)。


「妖精の詩」
作詞 : 松山猛
作曲 : 加藤和彦
編曲 : 馬飼野俊一
レコード会社 : ワーナー・パイオニア
レコード番号 : L-1130
初発売 : 1973年(昭和48年)4月10日

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もっふん

いまさら明けましてでもない中、今年も「イチャモン言っちゃうもん!」なもっふんです(ばき

いや、決してイチャモンではないのですが(笑)、こういう見方もありませんかと言うお話は今年もして行きたいと思っておりますので、よろしくお付き合い頂けると幸甚です。


★良く計算された二番煎じ~コード進行編~★

ぽぽんたさんが示して下さったコード進行を例によってKey=C/Amで書き直すとこうなります。

 Aメロ:|C  Em |F  Em |F  Em |Dm G7 |(イントロ同じ)
 サビ: |C  Em |F  G7 |C  Em |F  G7 |
 サビ後:|Am Em |Dm G7 |
 Bメロ:|C  Em |F  Em |F  Em |Dm G7 |C   |

ぽぽんたさんが指摘されたように Gm⇔A♭、ここでは Em⇔Fの執拗な繰り返しがやはり目立ちますね。
では何故そこに違和感が無いのでしょう。更に言えば素の Em と言うのは相当に暗い響きの和音であって部分的に平行調である Key=Am に転調していると見なしても良いくらいなのに、本曲では頑としてマイナートニックである Am を避け続けて、サビ後にようやく一回登場するだけです。そもそもメロディが四七抜きで作られていてファの音が含まれていないのに都度都度ファをルートとする F を持って来る必然性もあったのでしょうか。

私はここに現れる F は「隠れ Am」であると思うのです。

歌い出しの C(ドミソ)からEm(ミソシ)にコードが変わった時、聴いている人には両者に共通するミとソはそのままで「ド⇒シ」と言う変化が起きたように聴こえます。ド、シと来たら次にラを期待するのが人情と言うもので、ぽぽんたさんが各記事で繰り返し解説されているベースのクリシェ進行はそうしたリスナーの気持ちに応える事で心地良さを醸し出す手法です。

果たしてここでもラは登場します。するのですが、ラを根音とする Am(ラドミ)ではなく F(ファラド)のパーツとして持って来たと言うのが本曲の工夫ポイントと言えます。と言うのもこの部分のメロディはラドレドであって歌パートの最低音がラであるのに伴奏もラドミでは些か屋上屋な印象を与えるとするのも一つの解釈ですし、経過音のレを含めると Am の 11th と解釈するよりは Dm7 や F6 の方が緊張感が低いと言う狙いもあったかも知れません(音価が小さいので普通は問題にしない所ですが)。

更には F の後に再び演奏される Em にソが含まれるため、冒頭2小節でいわば「隠れクリシェ」を構成しているとも言え、聴き慣れた和声進行としてまとめてワンセットに聴こえる場合が多いでしょう。ですので、ここの執拗な同じコードの繰り返しも

 アイウエオの、カキクケコ♪ カキクケコったらサシスセソ♪

と言うニュアンスで伝達され、この程度であれば音楽としてクドイと言うほどの反復には聴こえないものと思われます。

ではもし、ここで何の工夫も無く流れのままに Am を用い、万人受けのするベースクリシェで伴奏していたらどうなったでしょう。

 |C  Em/B |Am Em/G |F  Em |Dm G7 |・・・<1>

たぶんこんな感じで充分歌えると思います。途中、Em/G は Am7/G や C/G が使われるケースの方が多いかも知れません。

ここで一方ですが、「ひなげしの花」はこれも C/Am で書き換えると

 イントロ:|C  Am |F  G7 |Em Am |Dm7 G7 |
 Aメロ:  |C  G  |C    |※Am Em |Dm  |Dm7 |G7  |
 サビ以降:|C  Am |F  G7 |Em G7 |F  G7 C|

となります。

イントロやサビで俗にイチロクニーゴーと言われる C→Am→Dm7→G7(F は Dm7 の、Em は C の代理コード)がこれでもかと繰り返されるのとバランスを取るかのように Aメロの入りではコードの展開が抑えめになっていますね。

Aメロ後半(※以降)の Dm→Dm7→G7 3小節を Dm7→G7 1小節に置き換えると「妖精の詩」のサビ後と同じになりますがたかだか2小節の一致は良くある事です。しかし、この意図的にプログレッションが抑制されたと思われる Aメロ全体をベースに下降クリシェを当てはめ、歌える範囲で少し音の出し入れをすればこのように書く事も出来ます。

 |C  Em7/B|Am7 C/G|Fmaj7 Em |Dm |Dm7 |G7 |・・・<2>

「ひなげしの花」のシンプルで混じり気の無いポップな和声進行を一旦<2>に発展させ<1>を骨格とした上で、「ひなげし」のイントロやサビのイチロク進行で多用される Am を極力排した(F に置き換えた)形となっているのが「妖精の詩」の一つの側面である、と私には思えます。

これはけなしている訳でも何でもなくて、「ひなげし」が成功しているのに制作陣の座組をがらりと変えた訳ですから、まるで違う物を作って冒険する無謀を避けつつ「似て、しかし異なる物」を作ろうと言う中でのギリギリの判断(と言うよりも多くの場合は作り手の直感)だったのだと思うのです。が、勿論本当のところは当事者でなければ分からない話と言う事になります。
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by もっふん (2019-01-22 17:37) 

もっふん

★良く計算された二番煎じ~歌詞編~★

アグネスのデビュー当時のキャッチフレーズは「香港から来た真珠」だったようですが、実際にデビューした後はいつしか「香港から来た妖精」と呼ばれるようになったようです(アグネスチャン・オフィシャルサイトの記述より)。

日本のリスナーがかつて経験した事の無いパンフルートの音色のようなハイトーンの歌唱、日本語に不自由なさまも本来人語を話さない妖精が人間に合わせて喋っているようでもあり、容姿ともあいまって私の記憶でも「もはや人ならぬ者=妖精」と言うイメージが普通に定着していたように思います。

と言う訳でセカンドシングルでさっそく妖精をコンセプトに取り込んだのでしょう。

加藤和彦氏もそうですが松山猛氏も当時は既にサディスティックミカバンドでフォークとは対極にあるような実験的な音楽制作をされていたので、お二方をフォーク畑のスタッフと言う表現は当たらないかも知れません。

Wikipediaで松山氏の作品を眺めてみると、フォークにありがちな生身の人間の体温や湿度、心情を感じさせる作風ではなく元々ファンタジー(時にナンセンス)寄りの詞作が得意であられたようです。

その筆を存分にふるわれた一節がぽぽんたさんお気に入りのガス燈の一節に代表されるかも知れません。たぶんですが、星、少年と言われたら東京の街角にガス燈が並んでいた大正時代の感性で創作を行った作家である宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を想起して欲しい、と言うのが松山氏の注文であったのではないかと想像します。

でまあ、メルヘン世界の住人である妖精で詞作されたわけですが、コード進行の考え方と同じく、「ひなげし」から継承すべきものはきちんと織り込んでありました。

その一つは「ひなげしの咲く丘」のイメージを引き継ぐ「草原」であり、それは中国と言う大陸国家から来た少女のイメージとも合致した事から(香港自体は崖が切り立った街ですが・笑)次作「草原の輝き」ではタイトルにまで大々的に引き継がれる事となりました。

もう一つの要素は「絶賛恋愛中には数歩前」の、どちらかと言うと「恋に恋している」ウェイトの方が高い夢見る少女のイメージでしょうか。この微妙な恋愛との距離感は当時のアイドルがアイドルであり続けるためには重要なポイントであったと思います。いくら妖精と呼ばれていても、歌詞の世界では「妖精を感じる事の出来る少女」以上に人外になられてはファンの気持ちの持って行き先に困るわけですね。

と言う訳で、ぽぽんたさんが言われるような「そのまま絵本になりそうな」世界を描きつつも守るべき所はしっかり守った歌詞となっています。

余談ですが、この当時の歌詞と言うのは本当に短くて1番と2番のAメロが4行ずつ、サビ4行は同じフレーズの繰り返しだったり、本当に選び抜かれたキャッチーな単語とキャッチーなメロディが出会わなければ成立し得ないような作品が多々ありました。

漠然と歌謡曲の歌詞を長くした一番の功労者と言うか戦犯と言うか(笑)は阿久悠氏であると思っていますが、短いフレーズで作品世界を成立させるのは並大抵の事では困難を極めるもので、ネットで散見できる平尾昌晃氏と山上路夫氏や安井かずみ氏の制作風景のように作家間の阿吽の呼吸やワンフレーズ毎にキャッチボール出来るような現場が存在したからこそ実現し得たのかも知れません。

本作においては、私の個人的な感覚ですが、歌詞冒頭の「風の吹く草笛の」と言う部分は日本語として非常に座りが悪く感じてしまいます。一つには風はそれだけでも吹くものなのにここでは「風が草笛を奏でる」と言う内容を「吹く」と書いてしまっている(たぶん字数の制約)ことの分かりにくさ、もう一つは純粋に「の」が重複しているのでどちらかを「が」にしたいと言う本能です。

勿論その辺りは松山氏も充分承知の上で、このメロディならこれしかないと言う判断をされたのだとは思いますが、文字数が減れば減るほど詞作する人間はちょっとした「てにをは」で何日も悩んでしまうものなのだと思います。
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by もっふん (2019-01-22 19:40) 

もっふん

★良く計算された二番煎じ~メロディ編~★

この曲を初めて聴いたリスナーは、たぶんサビに入ったところの16分早口フレーズ、

 ♪は~「るがめぐ」り・き・た  の「るがめぐ」
 ♪こ~「いにめぐ」り・あ・う  の「いにめぐ」

の部分で「ナニゴトっ!」と少し驚かされる事になろうかと思います。曲中最高音を張り上げた後の16分フレーズですからね。同じ早さでも音程が下がったその後の

 ♪き~「せつのと」び・ら・の

では2回聴かされて慣れた事とは関係なくテンションを落ち着かせて聴く事が出来るはずです。

実はこの部分にも「ひなげしリスペクト」が込められているように思います。

「ひなげしの花」と言われると誰もが「♪おっかのう・え~」と言うフレーズが最初に頭に浮かぶはずで、それもそのはず、この曲は頭からいきなり最高音で入って来て16分のフレーズを絡めて来ているのです。サビとされている部分でも同じ高さの音が再び登場はしますが譜割はもっとゆったりした使われ方をしています。

曲中もっともインパクトがあって盛り上がる部分をサビと呼ぶなら、極端な話「ひなげしの花」は頭サビであるのだと言っても良いかも知れません。

「妖精の詩」の Aメロは極めて常識的かつ普通ぅ~に作られていますが、サビ頭に「最高音→16分フレーズ」が置かれているのはやはり「ひなげし」を意識しての事だと思われます。

ここまで「良く計算された二番煎じ」と言う事で書き進めて来ましたが、優れた二番煎じはそれ自身もまた後の作品で再び煎じられる部分を持っていたりします。

この曲は「そっと開くと恋の~い~ろ~」で終わりますが、この部分は次作「草原の輝き」の「私の好きなそう~げ~ん~」と言うメロディを強くインスパイアしている事が明らかです。

いやまあ、曲の終わり方なんてそう何通りもありませんし過去にこんな曲はいくらでもあったでしょう。しかし、平尾昌晃氏が「妖精の詩」の存在を知りながらこのエンディングを採用したのは本曲でアグネスチャンが歌ったこの部分、極端な話、最後の「の~い~ろ~」(レーミードー)のワンフレーズが彼女の声質に余りにもハマっていたからであったと私は思っています。およそ物を創作する人間は余程の事が無ければ他人と似たような物になる事を本能的に避けようとするはずだからでもあります。
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by もっふん (2019-01-22 20:46) 

もっふん

★良く計算された二番煎じ~アレンジ編~★

ぽぽんたさんは馬飼野氏のこの編曲に若干ご不満のようですが、16ビートで跳ねる「ボーンボ、ボーン」を基本リズムにしちゃうと、もうそれだけで曲のカラーが8割方決まってしまう部分もありますよねえ。皆さんが想起し易い楽曲だと「てんとう虫のサンバ」になってしまうと言うか何と言うか。

でも逆にそこを変えてしまうと今度は全く別の楽曲になってしまうので、そこは動かせない決め事であったとしてこの曲のアレンジを見てみたいと思います。

リズムアレンジは約束事を守りながらもサビ後にブレイク部分を作ったりカッコ良くなる方向でやれる事はやってますし、ミックスで少し引っ込められている印象ですが弦もチェロまで書かれていて手数や厚み的に足りない感じはしません。

リズムとコードの通底感を確保しているのは左chのアコギでしょうが、これは特段珍しい事でもなくサウンド上は毒にも薬にもならない堅実で控えめな演奏です。

エレピのフレーズはぽぽんたさんが指摘されている通り少し高い音域を固めの音質で流れていて、私の耳では特定できませんがなんらかの音階打楽器とユニゾンで演奏されている部分は若干国籍不明と言うか所属先不明な印象があります。

その打楽器と別にマリンバか木琴系の音階打楽器、右chにかなり目立つトライアングル。ですが、幼い印象を与えている一番大きな原因は頻繁にオブリガードを入れて来る、これはたぶんパンパイプですかね。オカリナでもケーナでもないけど素朴な木管系の音で、途中たぶん出したくて出したのではないと思われる音が含まれていたところからリコーダーでもなく、音階管が横一列に並んでいるパンフルートではないかと想像します。

全体として木や陶器などのアーシーな素材感を持った楽器が随所で目立つのですが、これらの楽器はマイナーのフレーズを任せるととても哀愁のある響きがするのに対して、本曲のように長調が前面に出て来ると春のお花畑にも似た「何も考えてない感」がにじみ出てしまいます。

でもでも、良く考えると、そういうサウンドこそがぽぽんたさんもお気に入りの「妖精が見えるようなメルヘン世界」を成立させているとは考えられませんか?

「香港から来た妖精」のために書かれた「妖精の詩」ですから全体がメルヘンチックで子供のようにイノセントな雰囲気が出るように、これは狙って書かれたのではないかと思えて来ます。

ここで最初のコメントで書いたコードについて思い返してみると、この楽曲の特徴は「普通なら VIm(マイナートニック)を使う所を悉く IV(メジャーサブドミナント)で代用している」と言う趣旨の事を書きました。

それはひょっとすると、先ほど触れたパンパイプなどのオブリガードがマイナーのフレーズではなく極力メジャーで演奏されるようにすると言う意味合いもあったのではないでしょうか。(ボーカルに対して合いの手を入れられる場所の多くは IIIm ですが全体として四七抜きで進行しているので余りマイナー感は出ないと思います)

イントロも Aメロと同じコード進行ですので、IV と VIm ではかなりメロディが変わっていたと思われます。

何らかの楽器とユニゾンで演奏されているエレピに感じた国籍・所属先不明な感じも、現実的なイメージから離す事でメルヘン世界構築の邪魔をしない工夫だったのかも知れません。

そう考えて来ると、こちらの想像以上に深く考えて組み立てられたアレンジだったのではないかと思わされますが、いかがなものでしょうか。
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by もっふん (2019-01-22 22:19) 

もっふん

★蛇足:#系、♭系★

>シャープなイメージと言われる#系ではなく、ふくよかで穏やかと言われる♭系

この件を真面目に語り始めるとオケを構成する各楽器の構造と奏法や音律の話になってしまうのですが、1970年代にテレビを含めたライブのバックバンドには弦セクションがいない事も多く、管楽器で代用しても伴奏し易いために(何故そうなのかと言う話であるとも言えます)レコードの段階から♭系が多用されたと言うのが実情ではないかと思います。

また良く「ライブでは高い声が安定しないからキーを下げている歌手がいた」とも言われますが、レコードが#系で収録されている(これはこれで具体的にどう言うメリットがあるのかと言う話ですね)楽曲は「伴奏の都合により」♭系に変える必要が出て来て、歌手がいる以上上げるわけには行かないから下げていただけと言うケースもあるかと思います。勿論、本当に生では上が使い物にならない歌い手さんも相当数いたのでしょうけど。

確かピンクレディの楽曲だったと思いますが、トランペット奏者が「こんなもの吹けません」と言って都倉さんが「プロならつべこべ言わずに吹けっ!」とキレたと言う話もどこかで目にした覚えがあります。
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by もっふん (2019-01-23 00:22) 

もっふん

自己レスです

>トランペット奏者が「こんなもの吹けません」

どうやら「カルメン’77」のイントロだったようです(最後の「♪カルメ~ン」の前の三連フレーズでしょうね)。

 都倉氏「スタジオではやったんだからできないわけない」

この曲は Key=Am なのでバックバンドのトランペットが一般的な B♭管だとすると運指が#系の Key=Bm になるとは言え、音楽的には超々(中略)々基本的なキーであるにも関わらずネを上げるプロが出て来ると言うのは(確かに忙しくて息の長いフレーズですが素人でも聴くだけなら聴き取れる旋律と思われたので)私も驚きました。

人間の聴感や楽器の特性を踏まえて周囲と調和する音を出すと言うのは意外と厄介な事であるようです。どこを取っても同じ音間隔とされる平均律代表選手のピアノですら、最低音部では1/3半音程度低くなるように調律されていないと気持ち悪いとかありまして、その辺の融通が利かない古いシンセサイザーでベースパートを演奏すると私のようなアバウトな耳でもシャープして聴こえたりします。いやはや。
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by もっふん (2019-01-23 02:20) 

ぽぽんた

もっふんさん、こんばんは!

詳しい解説をありがとうございます。
今年からこのブログは初心に帰ろうと決めまして、あくまでも自分では、ですが、
キリのない分析はやめよう、書くにしても誰にもわかるように書こうと思っています。
今回のもっふんさんのコメントは、私などより遥かに深く広く分析された上でのものですし、
何と言ってもボリュームが私の本文以上なのが、何だか書き手にとっては
恥ずかしいような気持ちになってしまいました(^^;)
なので、私の書いた本文がパート1、もっふんさんの解説がパート2,
と言ったところでしょうか。
今年もよろしくお願い致します。

by ぽぽんた (2019-01-23 23:26) 

ゴロちゃん

ぽぽんたさん、こんばんは!

この歌、大好きです。歌詞、メロディー、アレンジ、歌い方などすべてにおいてかわいらしく、春の明るい日差しの中にいるようで、聴いていると気持ちがうれしくなってしまいます。当時レコードを買ってもらって、B面の「いじわる雨の日曜日」とともに何回も何回も聴きました。レコードジャケットのアグネスの着ている黄色いモヘアっぽいパフスリーブのサマーセーターもとってもかわいいんです。

歌詞はまさにメルヘンですね。私もぽぽんたさんと同じく、2番の「太陽のガス灯を 星の靴はく少年が磨きだす」のところがいちばん好きです。中2の当時からずっとです。私の貧困な発想では、ピーターパンとかティンカーベルといった絵しか浮かばないのですが、ほんとに絵本の世界ですね。当時、作詞が松山猛さんと知ったときは、意外でびっくりしました。松山さんのことはあまりよく知らないのですが、やはりフォーククルセダーズのイメージがあったものですので・・・それに、この「妖精の詩」はフォークっぽくなく、かわいいアグネスにぴったりの歌だったので、よけいに意外と感じたのだと思います。

さっき、「ひなげしの花」と「妖精の詩」を続けて何回か聴いてみました。確かに「妖精の詩」の方がリラックスして歌っていると感じました。それから、ぽぽんたさんが書かれている2番の「磨きだす 今日からが~」の「が~」のところ、「なるほど!」と思いました。いいですね、この歌い方。

「ひなげしの花」も好きなのですが、「妖精の詩」は、Aメロの最後からサビの「は~るが・・」に続く盛り上げ方がいいなと思います。なんかパーっと明るくなって。(うまく表現できずにすみません。) 2番の終わりからハーフに続くところもそうです。エンディング(後奏)も好きなんです。
「ひなげしの花」は、サビの4小節の繰り返しで1番が終わってしまうし、最後もフェイドアウトしてしまうのであっけないんですよね。(来日したばかりのアグネスのために短い曲にしたと聞いたことがあります。)
それに歌詞の内容も「ひなげし」と「妖精」では違いますものね。

ところで私も、「星に願いを」と「ポケットいっぱいの秘密」が聴きたくて当時「アグネスの小さな日記」のLPを買いました。何度も聴いたのですが、この2曲以外に憶えているのは「歌はともだち」と「TWINKY」だけなのです。「想い出の散歩道」ってどんな歌だっけ?と思い、YouTubeを見てみたら、全曲アップしてくれている人がいたのです。思い出しました。最初の部分を聴いただけで一緒に歌うことができました。「想い出の散歩道」や「雪」はフォークっぽくて眠たくなるような歌でした。(当時もそう思っていたけれど、私にとってはイマイチかな。) でも、このアルバム、懐かしいです。

まとまりのない文になってしまいましたが、アグネスの歌はいいですね。聴いていて楽しい気持ちになります。久しぶりにいろいろ聴いてみようと思います。




by ゴロちゃん (2019-01-26 23:27) 

もとまろ

ぽぽんたさん、こんにちは。

こちらこそ、いつもありがとうございます。
ヒットした当時のことを知らずにお話を読ませていただくのはとても楽しいです。
ただ、コメントについては、最近はコメントを書かせていただくより当時楽しんでこられた皆さんの思い出話を読ませていただくのが楽しくなってきました。
今回の「妖精の詩」は特にそうです。

どうしても、「ひなげしの花」「草原の輝き」「小さな恋の物語」など他の歌のインパクトが強くて、テレビでもラジオでもあまり聴いたことがありません。読ませていただくまでどんな歌かよく覚えてなくて、♪季節の扉の すき間から〜♪以降は、さっきまでメロディーを間違えて覚えていました。
これはどういうことだろう…あるようつべのコメントに、アグネスさんの代表作を表す一言がありました。
「正面突破」
これです。
「妖精の詩」は、正面突破とはいかないけど、何度も通り過ぎながらジワジワ良さが聴こえてくる歌だなぁと思います。こんなにかわいく歌ってたんだなぁと。

確かに、アグネスさんのシングル曲は同じ作詞作曲のペアが続くことはありません。作詞者のみ、作曲者のみの続投はありますけどね。
真理ちゃん、ルミ子さんもだけど、同じアジア系の欧陽菲菲さんとの差別化というのでしょうか、作家を固定しなくてもアグネスさんの持ち味は揺るがない、個性を活かせるとのスタッフとの見立てがあったのかな…と考えてしまいました。
by もとまろ (2019-01-27 17:30) 

ぽぽんた

ゴロちゃん、こんばんは!

このレコードのジャケ写、すごくいいですよね(^^)
何と言っても表情はいいし、仰るように全身黄色でまとめたような服装が春らしく
さわやかで、アグネスのイメージを何倍にもアップしていますね。

いえいえ、ピーターパンやティンカーベルは決して貧相な発想からではないですよ。
私なんて、当時とっさに思い浮かんだのが東京電力のピカちゃんでしたから(^^;)
さすがにそれはすぐに頭の中で変えましたが、それでも私のイメージでは、
その少年は三角っぽい帽子をかぶっているんです。
で、その景色はキラキラを輝いているんです。 本当に、色々な意味で不思議な歌詞です。

「ひなげしの花」は、これはアグネスの著書を読んだからかも知れませんが、
とにかく必死に歌って仕上げたような感じがしてならないんです。
「妖精の詩」はそんな固い歌い方ではなく、アグネスらしさを感じる初めての曲で
ある気がするんですね。
当時、まだ日本語はよく理解できていなかったはずなのですが、その歌い方一つで
歌詞の世界を的確に表現できているのが、今聴いても凄いな、と思うんです。

「アグネスの小さな日記」の1曲目の「歌はともだち」は、アグネスのラジオ番組で
よく掛かっていました。 全く切れ目なく、次の「星に願いを」に続くのが
大胆なんですよね。
このアルバムに入っている「ポケットいっぱいの秘密」はシングルとは全く違う
アレンジとサウンドで、シングルに馴染んでいると少し物足りない感じがしますね。
アルバム「あなたとわたしのコンサート」はお持ちですか? そのアルバム、
ゴロちゃんが気に入る曲が満載!と自信があります。 機会があったらぜひ、
聴いてみて下さいね。

by ぽぽんた (2019-01-28 23:45) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは!

そうですね、仰るようにこの「妖精の詩」は、とにかくインパクトの強かった
「ひなげしの花」と「草原の輝き」の間にはさまれて忘れられがちな曲かも知れません。
当時を知る者としては、「ひなげしの花」がヒットし始めた頃、すぐに「フラワー・
コンサート」と銘打った初めてのコンサートが大成功を収め、その様子を見た
プロダクションとスタッフがとにかくイメージを大切に作った楽曲なんだな、
と言う気がするんですね。

アグネスの場合は、アルバムの作り方を見ると判るのですが、歌謡曲作家ではなく
新鋭の作家を、またミュージシャンも従来の歌謡曲とは違う若い人をどんどん登用して
新しい音楽にしようと言った動きを感じるんですね。
同じナベプロにはひと足早くデビューして成功した欧陽菲菲さんがいましたが、
そちらは筒美京平氏に任せて新しい歌謡ポップス、アグネスは新しいミュージシャンで
特に若い世代に向けた音楽を、と分けていたように思います。

by ぽぽんた (2019-01-28 23:59) 

卓

こんにちは! 

記憶から一時消えていましたが、この楽曲を久しぶりに聴いて思い出しました。アイドル系の歌になりますが、20代後半でブリっこを演じているアルファベット3文字系所属の歌手(?)と違って、純粋にアイドルの歌として安心して聴くことができます。愛情のドロドロ感やメッセージ性が低く、アイドルの王道の曲って感じでしょうか・・・。「オタク」という言葉が無い時代の良き歌謡曲です。

BS-TV系で歌謡番組が増えて、アグネス・チャンさんが歌われる場面も多々ありますが、残念ながらこの曲を歌われることは無いようですね? やはり「ひなげしの花」「草原の輝き」を歌われることが多いようです。

先日録画してあったオリジナルカラオケで歌う「草原の輝き」を聴きましたが、高音部が苦しそうでした。それでも原曲のキーのままでしたから、最近インスタなどで加工写真が話題の40歳の「A.H.」さんよりは、「まともな歌唱」であった気がしました。

新鋭の作家をどんどん登用していた楽曲作りは、どこか中森明菜さんにも当てはまると思うのですが・・・。偶然、同じレコード会社ですけど。


by (2019-02-09 16:42) 

ぽぽんた

卓さん、こんにちは!

アグネス・チャンさんも、デビューして3年目くらいに「もう20歳なのに子供っぽい
イメージが過ぎる」と叩かれていたのを覚えています。
現代はそれこそ何でもあり、何でも許されてしまうような時代ですが、
昔は大人っぽさが尊重され、子供っぽさが卑下される傾向があったのは確かですね。

「妖精の詩」はやはり大ヒット2曲に挟まれた感じで、どうしても地味な印象ですね。
しかしよくぞこれほどアグネスの魅力を引き出してくれた!と、私は個人的には
感謝したいほど大好きな1曲です。
今もってわからないのが、かつてのアグネス・チャンさんの歌声の高音域が
地声なのか裏声なのかと言う事です。 それとも今で言うミックスボイス、でしょうか。

当時はレコード会社よりプロダクションの力が遥かに大きかったようなので、
あの頭の固そうなナベプロがアグネスに対しては先進的だったのが興味深いところです。

by ぽぽんた (2019-02-10 14:38) 

ぼたもち

ぽぽんたさん、こんにちは。

ここを訪れていなかった間の記事は、あれからすぐに読ませていただきました。
リアルタイムでコメントしたかったなぁ、イントロクイズも参加したかったなぁ…特に『赤いハイヒール』はどんな音での出題だったのかしら、と思いを巡らせながら、みなさんのコメントもあわせて拝見しました。

読んでおしまいのつもりでしたが、私もちょっとだけ混ざりたくなってしまいました。
半年近く前の記事ですがコメントさせてもらってよろしいですか。
難しいことは書けないので、ただの個人的感想です(⌒-⌒; ) お返事は結構です。


『妖精の詩』は、デビュー曲『ひなげしの花』と賞レース各新人賞受賞曲『草原の輝き』の合間に発売された曲で、昔から「そんな曲あったっけ?」と言う方が多いイメージがありました。

個人的に『ひなげしの花』は当時から好きではなくて、なぜそんなにも世間がざわついているのか不思議でした。曲もアグネスの良さも全然わかりませんでしたが、初めて「アグネスもいい」と思えたのがこの『妖精の詩』だったんです。

ぽぽんたさんが『眉間にシワを寄せて必死にレコーディングした“ひなげしの花”』と書かれていましたが、やはりそうだったんですね。
余裕なさげに必死に歌っているのを「頑張ってる」「かわいらしい」と受けとめる方も多かったのかもしれませんが、私には「力んでる」「ただ歌ってる」ようにしか映らず受け入れられませんでした。

ところが第2弾『妖精の詩』では、軽やかなメロディーにやわらかなアグネスの声がぴったりで、「デビュー曲はこっちの方がよかった!」と小6ながら批評していたのを今も覚えています。
♪きーせつの扉のすーきまから♪のコード進行がたまらなく好きです。この曲のポイントはここじゃないかと思ってます(笑)

日本語に不慣れなアグネスへの配慮でしょうが、歌詞の文字数が驚くほど少ないですよね。
懐メロでも歌われることのない曲ですが、そのおかげか(いや名曲ならではだと思います)今もソラで全コーラス歌えます。
by ぼたもち (2019-07-07 17:27) 

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