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人として / 海援隊

「贈る言葉」ではなく…

人としてジャケ写.jpg

チャートアクション

「人として」は海援隊の21枚目(複数のレコード会社にまたがっていますが)のシングルとして
1980年11月に発売され、オリコンシングルチャートで最高位25位、同100位内に18週ランクイン、
12.1万枚の売り上げを記録しました。

「3年B組金八先生」第2シリーズの主題歌であり、第1シリーズの主題歌だった
「贈る言葉」(オリコン最高1位、94.5万枚)には売り上げ・影響力等遠く及びませんが、
独特の大らかさを持った曲として記憶しておきたい、そんな1曲です。


作家について

作詞が武田鉄矢氏、作曲が中牟田俊男・千葉和臣氏と、海援隊のメンバーが
総力で作り上げています。

編曲は当時、「青い珊瑚礁」(松田聖子)のアレンジで一気にその名が知れ渡った感のある
大村雅朗氏で、「人として」では歌の内容がストレートに聴き手に伝わるような的確で、
美しいサウンドを作り上げています。


楽曲について

全体にオーソドックスな8ビートのリズムに乗せたフォークソングと言った趣で、
キーはGメジャー(ト長調)、他調に渡る転調はありません。

コードチェンジが頻繁でややせわしい感じも受けますが、
歌詞と照らし合わせると実に的確なコード進行が使われているのがわかりますので、
恐らくこの曲は詞先で作られたものと思われます。

今回も譜面を起こしてみましたのでご参考に…:
人としてscore.jpg
コード進行で絶妙なのがCメロ(♪人として人と出会い…♪)です。
C→G C→D7 Em→G D7→Em
の4つに分けられますが、最初の2つで人生の上昇期、次の2つで下降期を表現し
(「迷い」が上昇期になるかは議論がありそうですが)、
それがメロディー・歌詞と実に気持ちよく合っているんですね。

AからA'に移る時のつなぎに D→C→Bm→Am と入りますが、
翌年にヒットした「夏の扉」(やはり松田聖子)の A→A'でも同じ進行が使われており、
大村氏が好きなパターンの一つなのかも知れませんね。


全体に70年代前半頃によく聞かれたフォークソングのような、
16分音符で畳み掛けるようなメロディー(「神田川」「夕暮れ時はさびしそう」
などが好例でしょうか)で書かれていますが、
「人として」は流麗なオケサウンドのためか、それらとは一線を画すような
洗練されたものを感じます。

歌メロの音域は下のDから上のEまでの9度と言う狭さですが、
リズムに乗ってきちんと歌いこなすのは意外と難しく、
♪人として人に傷つき…♪ のように大きく音が跳躍する部分もあり、
カラオケで挑戦のし甲斐がありそうです(^^)


サウンドについて

大村雅朗氏のアレンジは色彩感が豊かで大らか…と私は個人的に感じているのですが、
「人として」でもそれが言えるようです。

イントロは F#dim→G と繊細なコード進行で始まるのが心地よく、
続くストリングスのゆったりしたサウンドがリラックスさせてくれます。

使われている楽器には弦楽器が多く、しかも多種類です。
「人として」では、
・左右に1本ずつのアコースティックギター(コードのアルペジオを演奏)
・左にエレキギター、右にそのディレイ音(主にオブリガートを演奏)
・中央にリバーブが強くかかったスチールギター
・6・4・2・2構成と思われるストリングス

と4種類も使われています。

その代わり、大村氏のサウンドでよく聴かれるシンセサイザーが、
「人として」では全く使われていません。


ストリングスのフレーズにはテンション(コードの構成音に含まれない音)が
効果的に使われている部分があります。
Bメロ(♪私は悲しみ繰り返す…♪)で、コードがG→C→G→Emと進行する時に
ストリングスがオクターブユニゾンでD音を引っ張っているのが一つ。
そして何よりもイントロ・間奏・コーダで、コードがAmの時にストリングスがD音、
次にコードがD7の時にストリングスがB音が伸ばされていて、
テンションの名の通り、どこか緊張感を持った響きが創出されています。

また、A’(♪思いのままに生きられず…♪)ではバイオリンを追いかけるような
チェロのフレーズが心地よく流れてきます。
「金八先生」のオープニングは荒川の土手で撮影されたものですが、
その風景のオープンな雰囲気が伝わってくるように感じられるんですね。

Cメロではドラムスが休止して ♪人として…♪ と歌われ、
武田鉄矢さんが真正面から話しかけているように感じられます。
Dメロで再びドラムスが入るとホッとしたりして(^^;)


ところで中央にリバーブたっぷりのスチールギター、左右にアコギのアルペジオ…
どこかで聴いたようなパターンだ… と記憶を辿ってみると、ありました。
カーペンターズの1977年発売のアルバム「パッセージ」に収められた
「あの日あの時」(Two Sides)。
その曲ではアメリカの著名なギタリストであるリー・リトナーがアルペジオを演奏しているので、
大村氏はリー・リトナーつながりでカーペンターズのその楽曲を知り、
自分のアレンジに採り入れた…のかも知れませんね。

因みにカーペンターズはアルバム「Voice Of The Heart」に収められた
「二人の想い出」(Two Lives)でも同じようなパターンを使っていて、
そのサウンドがかなりお気に入りだったようです。


「人として」で使われている楽器とその定位は:
左: アコースティックギター エレキギター
中央: ベース ドラムス 電気ピアノ(ローズ) リコーダー2本 スチールギター
右: アコースティックギター エレキギター(ディレイ分)
  左右にストリングスがステレオで定位

この時代はレコーディング環境がアナログ録音からデジタル録音に移行する直前なのですが、
アナログで録音されたと思われる「人として」のサウンドは、歌入り・カラオケともに
音色、音の伸びなど大変素晴らしいもので、
大村雅朗氏の伸びやかなアレンジを大いに生かしていると感じます(^^)


付記

海援隊と言えば、我々の年代ではまず思い出すのが「母に捧げるバラード」ですよね。
私はこの曲はFMのベストテン番組で初めて聴いたのですが、
これほど長いセリフ、そして歌が申し訳程度に少しだけ…と言ったパターンが斬新で、
また博多弁のセリフ自体が面白く、紙に全部聞き取っては真似をしたものです。
でもこのセリフ、レコードとテレビとではかなり違っていたんですよね。

「金八先生」については、私は第2部の方が思い入れがありまして…。
私はその年(昭和55年)高校を卒業していましたが、それでも引き込まれるように観ていました。

当時、毎週木曜の9時からは「ザ・ベストテン」、金曜8時からは「金八先生」と、
TBSに思い切り楽しませてもらっていたんですねぇ(^^)
あの頃のTBSはどこに行ってしまったんだろう…


「人として」
作詞 : 武田鉄矢
作曲 : 中牟田俊男 千葉和臣
編曲 : 大村雅朗
レコード会社 : ポリドール
レコード番号 : 7DX1025
初発売 : 1980年11月5日

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コメント 7

もっふん

お題としてはちょっと難しい曲だったですかねえ。(^o^;

7月に出版された「作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997」がなかなか好調に売れているようで、もはや世間からは「好事家」と言われてしまう昭和歌謡ファンの間ではちょっとした「大村雅朗ブーム」が静かに起きているようで(その中心にいるのは松田聖子ファンみたいですが・笑)、その流れからの選曲なんだと拝察します。

オリコン最高25位だと、金八先生を見ていなかった人は語るほどの思い入れや記憶が無いかも知れません。かく言う私も記憶がおぼろげだったので動画を探しましたので、この際、この曲を知らなかった方も一度お聴きになってみてはいかがでしょうか。

 http://www.nicovideo.jp/watch/sm21489583

Youtube には素人カラオケばかりで音源が無いって言うのがネックですよね。

ついでに「海援隊(フォークグループ)」や「大村雅朗」の Wikipedia 記事も読んでみると、今更のように語れたり味わえる部分があるかと思います。

「母に捧げる」は売れたものの以降鳴かず飛ばずで、武田鉄矢は大晦日に皿洗いをして過ごすようなどん底を経て、「あんたが大将」でなんとかテレビ露出回復。「贈る言葉」のメガヒットでようやくコミックバンドを卒業した海援隊ですが、編曲家に大村氏が起用されているのは「贈る」の実績以外に大村氏自身が海援隊の故郷である福岡出身である事も関係しているのではないかと思ったりもします。

アレンジを抜きにして楽曲を見ると、「贈る」のおかげで「金八先生の曲ならこう作れば失敗は無い」と言う自信のようなものが感じられ、不安の無い安心した曲作りが出来たんだろうなと思います。

個人的には、「それでも」「人しか」「愛せない」の部分で小節の頭を一拍まるまる抜いてるくせに歌メロも早口で一拍分しか無いあたりが、心に余裕が無ければトライ出来ない曲作りだよなあと感じました。
_
by もっふん (2017-09-27 09:39) 

もっふん

と言うわけで、音源を見つけてからまだ余り聴き込んでいないのですが、

・イントロ頭のF#dimは、Cm(6)っぽいニュアンスを感じます。私の耳がおかしいのかなあ(でも Cm だと「青い珊瑚礁」と同工異曲になってしまいますね)。この前置き4小節が終わってイントロ本体に突入する時の弦の駆け上がりも、コードが「E7」なのにフレーズが「♮G」を経由して行くのは「普通」なんでしょうか。そもそも聞いていると一拍7連よりもフレーズが短く感じられるのも何かのマジック?やっぱり相当に私の耳が貧弱?

・リコーダーとされている楽器は、リコーダーの奏法としてはタンギングを抑えてアタックを丸くしているので最初は「とまどいトワイライト」と同じくケーナかオカリナあたりかと聞き間違いました。
 2番の最後でしっかりタンギングしている音は確かにリコーダーっぽいですね。いずれにしても大村氏がこういうフォークロワっぽい木管の音を好まれていた事が伝わって来ます。

・左右に飛ばしているアコギはカントリー系で多用される「スリーフィンガー奏法」を少し工夫したもので、やたらと音数が多い事から真ん中に置くと邪魔だと言う事で他の多くの楽曲でもこんな定位になっているようです。

・確かにシンセは入っていないものの、スライドギターが本来の楽器音としてのみならず、まるで鳥類の鳴き声のようにも聴こえる演奏なので、「今回はこれで充分」と言う事なんでしょうね。

・「D→C→Bm→Am(移調すると G→F→Em→Dm7)」って言うのはあちこちで散々聴いた進行なんですが、即座に「これ」と言う例が思いつきません。先週のクイズのお題であった「結婚するって本当ですか」のサビでも同じような消化不良感を感じました。これらはもう「クリシェ」の一つと認定しちゃって良いような気すらします。

・C メロのコード解説がありますが、楽譜と合っていないような・・・。

 >C→G C→D7 Em→G Am→Em

 最後の Am が楽譜では D7になっていますね。

・たぶん編曲上一番面白いのは記事にある弦アレンジだと思うのですが、まだそこまで聴き込めていません。気が向いたら追加でコメントするかもです。
_

by もっふん (2017-09-27 10:19) 

widol

ぽぽんたさん、こんばんは。

海援隊「人として」、この曲は自分の中では、「贈る言葉」よりも好きです。それは、やはりドラマの影響だと思います。第1シーズンは全部見た記憶がないのに対して、この第2シーズンは「腐ったみかんの方程式」に代表されるように、秀逸なエピソードが多く、夢中になって見ていたからなのでしょう。

中島みゆきの以前から好きだった「世情」が一般に知られるようになったのもあのエピソードですし、母親が連行されるバスを追いかけながら泣き崩れるシーンで自分も何度も泣きました。

この曲のアレンジが大村雅朗さんだというのは初めて知りました。駆け出しの頃ですね。太田裕美さんの81年発売のアルバム「ごきげんいかが」で初めてその名を知り、収録された名曲「風たち」は彼のアレンジで今に至るまでファンには人気の高い曲です。その後、ニューヨークに行く前の最後のアルバム「君と歩いた青春」でも太田さん作曲の作品に新風と鉄板を注ぎ混んでいました。それから、テクノポップ三部作でも多くを手がけて、大村さんの豊かな才能と太田さんの「若気の至り」が見事に融合していました。

という感じで聞いていたので、このザ・フォークな「人として」が大村さんだとは全く思いませんでした。

それにしても25位なんですね。贈る言葉はラブソングですが、この曲はメッセージ性が強く、「人として・・・」を繰り返し、それでも「人しか愛せない」と結ぶあたりの武田さんの才能に敬服します。
by widol (2017-09-27 20:25) 

ぽぽんた

もっふんさん、こんばんは! お返事が遅くなり申し訳ありません。

あ、この選曲は大村さんとは特に関係なくて、単に私が自分で好きな曲だったので
記事にしてみたので、アレンジが大村さんだったのはたまたまなんです。
記事に書いたようにストリングスにテンション・ノートが大胆に使われていますが、
これ、ピアノで合わせて弾いてみるとすごく自然にその音に指が行くんです。
それが不思議で、分析してみたかったと言う事もあります。

武田鉄矢さんは強すぎる個性のためか、何かと揶揄されがちな存在ですが、
歌詞をじっくり読むと味わいがある曲が多いんですよね。
この前、スターデジオを流して聴いていたら「思えば遠くへ来たもんだ」がかかって、
その朴訥としたボーカルで歌われる歌詞が妙に説得力があって、聴き入りました。

1回目のストリングスの駆け上がりは、GはやはりG#ではないかな?
一応気がついてはいたのですが、つい無精をして修正してませんでした(^^;)
7連符よりも音が少なく聞こえると言うのは、恐らく第1バイオリン6人、
第2バイオリン4人(かそれ以上)の人数がいて、実際には音程を変える
タイミングが微妙にずれ、通して聴くと音の塊のようになるためではないでしょうか。

アコギはこの曲に限らず、左右に振られてしかも音量バランスが低めにとられて
いる事が多いですね。
大きく出すとフォーク感丸出しになるし、あまり小さいと意味がない…と言う事で、
存在感はあまり出さず全体の雰囲気作りに使われているように思います。

そうそう、記事の中で書いたそのコードチェンジ、4つ目が間違えていました
(楽譜の方はちゃんと書いていたのに…残念)。
記事の方もコソッと直しておきました、 ご指摘をありがとうございます!

私はやはり、この曲のストリングスは素晴らしいと思います。
重厚ではなくスッキリサッパリしているのに、曲自体が持つ繊細さを
心地よく引き出してしますし、チェロの存在感も大切にされています。
こんなアレンジが書けるようになりたいです(^^)

by ぽぽんた (2017-09-30 22:45) 

ぽぽんた

widolさん、こんばんは! お返事が遅くなり申し訳ありません。

あ、私と同じですね(^^) 第1シリーズは私が高3の時で、正直なところリアルタイムでは
あまり興味がなかったのですが、
第2シリーズは最初から熱心に観ていました。

大村雅朗さんはサウンドを聴く限りとても堅実なイメージが強かったのですが、
「ニッポンのの編曲家」や「大村雅朗の軌跡」などを読んで、そのやんちゃさ(と言う
表現が正しいかどうかわかりませんが)にかなり驚きました。
しばらく活躍した後に煮詰まってニューヨークに行ったりしたそうですが、
音楽に対しては実は生真面目だったのかも知れませんね。
それにしてもこの「人として」と「謝肉祭」(山口百恵)が同じアレンジャーによる
サウンドとは信じられない思いがします。

やはりこの曲があまり売れなかったのは、「贈る言葉」の単なる二番煎じと受け取られて
しまったからかも知れません。 残念です。

by ぽぽんた (2017-09-30 22:55) 

もとまろ

ぽぽんたさん、こんにちは。
それと、もっふんさん、いつもありがとうございます。

「人として」は、やっぱり「金八先生と加藤優」のシーンが浮かび、ものまねのBGMになってます。再放送も見てました。
最初のシリーズも個性的な生徒揃いで「贈る言葉」と世間で言われる名シーンが一緒に浮かびます。ただ、金八先生に興味がなく、それ以降は長く続いたけど、どんな話でどんな歌かは覚えてないんです。「声援」は歌は知ってますけどね。

「人として」改めて聴きました。
イントロ・間奏・アウトロがシンプルで、余計爽やかな歌だなぁと思いました。
思ったよりテンポが速いですね。
それと、鉄矢さんの歌い方に若さと語りかけとバイタリティーがみなぎっていました。
今は鉄矢さんはかなり俳優業が多く、近々黄門様にもなりますが、当時はまだまだ歌手の割合が多く、だから歌声が余計ストレートだなぁと。

金八先生は、最初岸田敏志さんが演じるところを、モーニンモーニン…と歌うコンサートの予定がいっぱいで受けられず(落ち着いてから新八先生になりましたね)、同じ事務所で福教大出身の鉄矢さんが演じた、とありました。第一シリーズなら岸田さんでもどうにかなったような気がするけど、「金八先生と加藤優」は鉄矢さんだからこそだと思います。
私立大中退者の著名人に名誉学士を授与とはよくありますが、国立の福教大から鉄矢さんにというのが、さすが金八先生、ということです。

たしか、母が麦野のタバコ屋で海援隊の初期のレコードを買って、まだ実家にありましたかな…聴いたことはないんですけどね。
by もとまろ (2017-10-01 22:27) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは! ここへのお返事が大変遅れて申し訳ありません。

私も「金八先生」を熱心に観ていたのは第2シリーズだけでした(^^;)
しかしその前にやっていた、岸田智史さん主演の「新八先生」はしっかり観ていて、
主題歌の「重いつばさ」のシングルも買ってよく聴いていました。
しかし武田鉄矢さんとのそのエピソードは知りませんでした。
1979年には、岸田智史さんはアルバムもヒットして大人気でした。

好き嫌いが分かれるようですが、当時の武田鉄矢さんの演技はやはり、
他の俳優にはないものがあって、印象深い回も多かったんです。
ただ金八先生の前に西城秀樹さんの大ヒット「ヤングマン(YMCA)」をパロった
「JODAN JODAN」を出していて、結構テレビで観ていたものですから、
最初先生の役となった時にピンと来なかった記憶もあります(^^;)

by ぽぽんた (2017-10-07 18:21) 

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