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赤い風船・ひとりっ子甘えっ子 / 浅田美代子

今回はこのブログ、初回以来初めての試み!
同じ歌手、デビュー曲と2作目の比較、です(優劣を語るものではありません)。


以前にも書いたセリフですが、「筒美京平は大ヒットの次が凄い」と言われます。
今回のお題目は浅田美代子さんのデビュー曲でオリコン1位の大ヒットとなった「赤い風船」と
続く第2弾「ひとりっ子甘えっ子」。

美代子のおくりもの.jpg

「ひとりっ子甘えっ子」はドラマやCMのタイアップが無かったためかオリコンでは10位どまり
でしたが、音楽としては「赤い風船」を数倍パワーアップしたような充実感を覚える仕上がりで、
「浅田美代子は『赤い風船』だけ」と高をくくる人が聴けばきっと驚くような1曲です。

おおまかに見ればこの2曲、構成や曲調などはそっくりです。
シンコペーションの殆どない童謡のようなメロディー、16ビートを内包しながらも穏やかな
8ビートのリズム、2コーラス+締めのワンフレーズと言った構成、歌手自身によるユニゾン
→ハモリが聴かれるサビ部分、そしてアレンジの組み立て方。
「赤い風船」が大ヒットとなったので、次もその線で…と言った感じで作られた、
それは間違いないでしょう。

しかし細かく聴き込むと、違いがあれこれとあるんですね。
それを挙げていきます。

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「赤い風船」の歌メロ部は、メロディーそのものが単純な分、コード進行にちょろっと
あれこれ演出が入るんですね。

♪あの娘はどこの娘 こんな夕暮れ♪ C→Am→F→G7→Cmaj7→C6
♪こんな時 誰かがほら♪ C→Am→Fmaj7→Em
♪もうじきあの あの人が♪ Cmaj7→Am→Dm7→Dm7/G→E7/G#

と言った感じに、3和音(ドミソ)での流れを基本としながら所々で不協和音を入れて
雰囲気を盛り上げ、また全体が退屈な流れにならないように出来ているんです。


その点、「ひとりっ子甘えっ子」では歌メロ部にそういったコードはあまりなく、

♪ひとりが好きなのひとりっ子 ほんとは嘘なの甘えっ子♪ C→E7→Am→C7
♪いじわるねあの人 わかってくれない♪ F→Fm6→C→A7→Dm7→G7→C

と、至極素直なコード進行となっています(この曲はキーがD♭ですが、半音下げて
Cに移調して説明しています)。

その代わり!これは以前にも書いた事ですが、その「…甘えっ子」の「子」が
コードC7の7にあたる音であり、メロディーの流れからしてもとても「取りづらい」音
になっているのが、筒美氏の歌手イジメの一つです(^^;)

イジメと言えばついでに、サビで主メロに重なるハモリのメロディーでの、
最初の2小節は主メロより3度上、続く2小節は主メロより3度下となるフレーズ、
また最後の最後のフレーズ ♪あの空に一番星~♪ は、
実に音が取りづらく、歌いにくかった事と思います。

筒美氏の作品では特に、当時やや歌唱力が頼りない歌手への作品でもそのような
難易度の高いハーモニーをつけたりしているものが多く、
そのもう一人の被害者(?)は麻丘めぐみさんでしょう。
それは「アルプスの少女」をお聴きになれば納得して頂けると思います(^^)
それについてもいつか書きたいと考えています。

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この2曲では、先述の通りオケの構成も殆ど同じなのですが、
ストリングスの使い方が大幅に異なっています。

両曲とも全体的には白玉(全音符のことで、同じ音を長く伸ばすことをこう呼びます)
が中心であるのは共通していますが、「赤い風船」は全体的に際立って目立つフレーズはなく、
サビに向かう時のいわゆる駆け上がりフレーズも

ソラ・ドドレ・ミミソ・ララド・レミ~

と、ユニゾンでもろペンタトニック音階(この曲ではいわゆる「ヨナ抜き音階」)をなぞっただけ
と言った感じであるのに対し、
「ひとりっ子甘えっ子」では、まず歌メロに入る前にダーッと駆け上がりが入るのはもとより、
サビ(Bメロ)に入る所でチェロが

ソラドラ・ドレミレ

と先陣を切ってからビオラとバイオリンがミファソラシド・ドレミファソラシ…
と幾重かのハーモニーを伴い素早く駆け上がり、
同時に演奏されるハープと重なりその音の何とも豪華なこと。
そして歌が入り、

♪いーつも夢を 見ていーる私よ♪ では「ー」の部分でラシド・ラシド~と
歌を扇動するようなフレーズが入り「赤い風船」と比べアクティブな感じになっています。

細かい事ですが「ひとりっ子甘えっ子」のストリングスは左方向の第1バイオリンがdiv.で
2パートとなっているようで、それに右方向の第2バイオリン、ビオラが重なり、
歌謡曲らしからぬ厚みのあるハーモニーを聴かせてくれます。

そういった演奏はテレビの歌番組では再現不可能だったので、
レコードを買って聴いた人はきっと、その素晴らしいサウンドに喜んだことでしょう。

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イントロや間奏で使われる楽器の音色はその曲のイメージを決定づける重要なものですが、
「赤い風船」ではフルート2本、「ひとりっ子甘えっ子」では鍵盤ハーモニカ(ヤマハの
商品名で「ピアニカ」)が効果的に使われています。

「赤い風船」では歌の合いの手や間奏でアコースティックの12弦ギター、
「ひとりっ子甘えっ子」では電気ピアノ+ハープが使われています。

「ひとりっ子…」ではその組み合わせのユニゾンでイントロが始まりますが、
初めて聴いた時(もう49年も前、ですね(^^;))、これって日本の琴?と思いました。
今もそう聞こえます。
それも何とも楽曲のイメージにぴったりで、その組み合わせをどうやって思いついたのか
筒美氏に降りてきて頂いてお訊きしたいものです。

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これは全くの私見ですが…

赤い風船.jpg

「赤い風船」ではAメロでもBメロでも歌メロに絡むように12弦ギターのフレーズが入りますが、
そのフレーズ、筒美氏はもしかしてギターではなくコーラスにしたかったのではないか、
と思うんですね。

このブログでも何度も書いている事ですが、筒美氏はこの時代はカーペンターズがお気に入りで、
南沙織さんの「ひとかけらの純情」やそのB面の「透き通る夕暮れ」、そして「秋の午後」
(「色づく街」B面)では、一聴してわかるほどのカーペンターズを模したようなコーラス
を配しています。

「赤い風船」の12弦ギターのフレーズはカーペンターズがコーラスで使うようなフレーズ
そのものであるように、私は以前から感じていました。
それは単に、私自身がカーペンターズの古くからのファンだからかも知れませんが。

そして今にして思うと、ハイ・ファイ・セット(1973年にはまだ存在していませんが)が
そのコーラスパートを担当していたら、何ともおしゃれで先進的なサウンドになって
いたかも知れません。

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今回はここまでです。

次回(来週を予定していますが、遅れたらゴメンナサイ)は今回の続きで、
もう少しアレンジについて、また「赤い風船」「ひとりっ子甘えっ子」を収録しているCD2枚
(一つは1985年発売、もう一つは1998年発売)、
さらにSQ4チャンネルで発売されたレコードでの同曲の聴き比べなど、
オーディオ的な観点も含めつらつらと書く予定です。
ではでは!


「赤い風船」
作詞 : 安井かずみ
作曲・編曲 : 筒美京平
初発売 : 1973年(昭和48年)4月21日

「ひとりっ子甘えっ子」
作詞 : 小谷夏
作曲・編曲 : 筒美京平
初発売 : 1973年(昭和48年)7月21日

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ゴロちゃん

ぽぽんたさん、こんばんは!

「ひとりっ子甘えっ子」、今日、久しぶりに何度も聴きました。やっぱりいいですね。この歌、大好きです。
まず、郷愁を誘い、どこか懐かしさを感じさせる鍵盤ハーモニカの音色がいいですね。そして、Bメロのチェロ、ビオラ、バイオリン、ハープなどの美しく躍動感のある音色。Bメロに入るところの駆け上がりの部分、わかりました。♪いーつも夢を♪の「ー」に入るラシド・ラシド~もわかりました。意識して聴くと、この歌の新たなよさがわかって楽しいです。「赤い風船」も大好きですが、「赤い風船」よりもメリハリのある構成だと思います。
ハモリの部分は「赤い風船」も「ひとりっ子甘えっ子」も、いつ聴いてもとてもきれいで心地いいです。
当時、「ヘタ」の代名詞となっていたような美代ちゃんの歌声ですが、私は聴いていてホッとできる歌声で好きでした。詞も曲も、そんな美代ちゃんの歌声に合っていました。(というか、声に合わせて作られたのでしょうね。)今の時代なら、こういう歌い方もありで、「ヘタ」とはあからさまには言われないと思うのですが。
10年前とほとんど同じようなコメントですみません。次回を楽しみにしています。

by ゴロちゃん (2022-04-18 22:43) 

widol

ぽぽんたさん、こんにちは。

ブログを読んで浅田美代子さんの「ひとりっ子甘えっ子」、久しぶりに聴いてみました。とても可愛い歌なんですね。
ぽぽんたさんの解説を読みながら音を聴いてみると本当に音が豪華ですね。
「赤い風船」のフルート、この曲のピアニカと童謡のような温かい印象を与える効果を非常によく出していると思います。なぜこの2曲が癒されるような印象になるのか、と思っていましたが、なるほどほかの楽器の組み合わせも含めて、曲の印象というのは作られるのですね。

浅田美代子さんは下手の代名詞のような印象で、自分もずっとそう思っていたのですが、YouTubeで過去の映像を見たりすると、そこまで酷くはないんですよね。
この2曲のハモリ部分もとてもきれいな響きになっています。私的にはきっと浅田美代子さんの声の魅力なのかなと思います。筒美さんは、少し個性的な声の人に魅力を感じる(代表が松本伊代さん)、作ってみたいと思うということは言われていますが、美代子さんも同様に思います。危なっかしい音程も含めて当時の美代子さんの魅力に繋がったんだと思います。その魅力を引き出した作品作りをしていたように感じます。

シングルは筒美さん以外に都倉俊一さんなどが書いていますが、チャート的には筒美さんの曲は全てトップ10入りし、他の作品は逃しています。「恋は真珠いろ」など好きな曲ではあるのですが、彼女じゃなくてもいいかなと思うような歌で、そこが筒美さんとの違いのような気さえしてしまいます。

最近、ミュージックマガジン増刊号の「筒美京平の記憶」を読んだのですが、インタビューに登場している人たちの話が面白くて、裏話的なものに筒美さんの凄さが隠れていたりして、楽しく読みました。浅田美代子さんは登場しておらずあまり記載も多くなかったですが、一点、筒美京平を語る上で、世の中的には「天地真理」というキーワードはほとんど出てこないのですが、白川隆三さんが触れてくれているんですね。筒美さんが彼女を引き受けてくれたのは、人気が下降線にあっても頑張り続ける彼女への思いやりだったと思うと書かれていた部分にはうるっときました。
本当に偉大で、そしてもう二度と出てこない作曲家だと改めて思いました。
by widol (2022-04-19 10:21) 

ぽぽんた

ゴロちゃん、こんばんは! いつもの事ながら、お返事が遅れて申し訳ありません。

本当に仰る通りですね。 歌詞の内容も去ることながら、筒美さんは全体のイメージを
サウンドにするのが実に巧みで、オケの音だけでも風景を思い浮かべる事ができるんですよね。
「赤い風船」が歌詞の冒頭に出てくる「夕暮れ」をイメージした音作りならば、
「ひとりっ子甘えっ子」は同じ夕方でも夕焼け空が暮れていく、より視覚的な想像が
できる音作りだな…と、私は何となく感じています。
そしてストリングスがまるで少し強めに吹いている風をイメージさせる…って、
これは以前にも書いたかな。

これは書いた事がないと思うのですが、「赤い風船」のBメロで♪あの人がー…♪と
音を伸ばして歌っていますが、このハイトーンをビブラートもなしにこのようにきれいに
発声するのはかなり難しい事で、それもこなせる浅田美代子さんをもっと歌指導する
人はいなかったのだろうか、と残念に思ってしまうんです。
今ではあの大場久美子さんもアイドル時代とは全く違う歌唱法で堂々と歌っていますし、
浅田美代子さんも頑張ってくれればな、と思ってしまう私でした。

by ぽぽんた (2022-04-23 23:52) 

ぽぽんた

widolさん、こんばんは! お返事が遅れてしまい、申し訳ありません。

今の時代は本当に、どんな音でもたちどころに作れてしまうのですが、70年代あたりでは
まだシンセサイザーも普及しておらず、アレンジャーは違う楽器の組み合わせで新しい音を
作り出す事を盛んに行っていました。
例えばストリングスにしても、同じ旋律を電気ピアノや鉄琴などが同時に演奏している、
と言った例(曲)は数多いんですよ(山口百恵さんの「夏ひらく青春」の間奏なども
その一例です)。

浅田美代子さんの歌唱は、確かにテレビでは激しく音を外す事もままありましたが(^^;)、
学生時代は音楽の成績も良かったそうで、音楽的な素養は持っていたと思うんですね。
歌の上手・下手の基準って、結構人によって違うと思いますし、誰かが「あの歌手は下手」
と言い出したのがそのままイメージになってしまう…浅田美代子さんの場合は
それではないかな、と今になって思います。
要は上手い、下手よりも、その声や歌い方がより多くの人に好まれる事こそ大切だと
私は思っています。

3作目の「わたしの宵待草」、続く「恋は真珠いろ」が都倉さんの作曲ですね。
「わたしの…」は何となく「ひとりっ子…」までの路線を意識した作り方と思いますが、
「真珠いろ」は、これは以前にも書きましたが、同時期に作られたと思われる
山口百恵さんのアルバム曲「お月様の下で」によく似ているのが、私には知られざる
逸話があるような気がしてならないんです(^^;)

私はまだミュージック・マガジン増刊号は読んでないのですが、確かに今思うと
筒美さんが天地真理さんを…と言うのは意外な組み合わせに感じられます。
ぜひ読んでみようと思います。 知らせて下さってありがとうございます!

by ぽぽんた (2022-04-23 23:53) 

TAKABOU

こんばんは。浅田美代子さんの「ひとりっ子甘えっ子」レコードの音に衝撃を受けたものでした。中学の頃だったか、親に買ってもらったラジカセでFM聴くようになり、テレビの歌番組との次元の違いに愕然。当時の歌番組は生楽団が演奏していたのですが、失礼ながらそのショボいサウンドにがっかり。レコードのあまりに素晴らしい演奏と一人ハモリに魅せられてエアチェックテープ聴きまくっていました。時が流れてCDが世に出始めた頃、CDプレーヤを買おうと決意したのもその頃発売されていた『BEST COLLECTION シリーズ』で出ていた、浅田美代子さんを聴きたかったからでした。オリコン10位どまりとのことですが、私は今でも一番好きな曲です。
by TAKABOU (2022-05-01 18:26) 

ぽぽんた

TAKABOUさん、こんばんは!

そうですね!当時の歌謡番組などはどれもオケがストリングスの入らない
ブラスバンド形式だったので、それはそれの良さも勿論あるのですが、
レコードを聴いたら音が豪華で驚かされる事は本当に多くて、それがレコードが
よく売れた一つの要因では、と私は思います。
今のように、テレビなどで聴き慣れた音と同じ音・演奏をわざわざCDなどで聴きたいと思う人、
よほどのファンでないといませんよね。

「ひとりっ子甘えっ子」は私も、今も大好きです。
B面の「風とふたりで」もサビで転調するなど、全体は可愛いのになかなか
カッコイイ曲ですよ(^^)

by ぽぽんた (2022-05-04 23:43) 

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