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夏が来た! / キャンディーズ

今年ももうすぐ、ですね:

夏が来た!.jpg

「夏が来た!」はキャンディーズの10枚目のシングルとして1976年5月に発売されました。
「春一番」が大ヒットしたから今度は「夏が来た」かよ? ちょっと安易じゃね?
…と思った人はきっと多かった事でしょう。
当時中学3年生だった私もそうでした。

そう思ったのは作者の穂口雄右氏も同じだったようで、プロデューサーの松崎澄夫氏から
「次は『夏が来た!』でいくから」と告げられた時には反発したそうです。
その前年「年下の男の子」がキャンディーズ初めてのヒットとなり、
次の曲が似たような路線の「内気なあいつ」で前作ほどの成果が得られなかったので、
また同じ轍を踏むのでは…と作者自身も考えたんですね。
しかもこの曲、元々は同じナベプロ所属だった青木美冴さんに書かれた曲だったそうで、
それをなぜキャンディーズに…と、穂口氏にとっては割り切れない思いだった事でしょう。

結果的にはその不安通りで、「夏が来た!」は『春一番」よりも売り上げが半減しました
(「春一番」は36.2万枚、「夏が来た!」は17.6万枚。 オリコン調べ)。
「内気なあいつ」が「年下の…」の1/3ほどの売り上げとなった事を経験していたのに、
ナベプロって懲りないよな…というのが率直なところです。
昭和30~40年代の歌謡曲ではそんな二番煎じ的な作りは他社でも珍しくなかったのですが、
ナベプロ関係が顕著だったのも確かなんですね。


「夏が来た!」で面白いのが、まずキャンディーズには珍しく男歌詞である事。
そして1コーラス分の歌詞がたった2つの文章で作られている事です。
1コーラス目は ♪緑が…君にあいたい♪♪砂の上に…風におどるよ♪ の2文。
2コーラス目は ♪季節が…電話かけるよ♪♪波の上に…空におどるよ♪ の2文。
ハーフは1コーラス目の2つ目の文。
歌謡曲の歌詞は複数の短い文節の組み合わせで構成されているものが多いので、
「夏が来た!」の歌詞は異端と言えるかも知れません。

「春一番」は元々、シングル発表よりも1年近く前に発売されたアルバム「年下の男の子」
のA面1曲目に収録されていて、
そのオケはベース、ドラムス、エレキギター、クラビネット、シンセサイザー、そして
アクセント付けのタンバリンと小編成だったために、シングル化にあたりストリングスと
ホーンが追加されましたが(「歌謡曲らしく」するための、渡辺晋氏の指示だそうです)、
「夏が来た!」はストリングスもホーンもなく、クラビネットやシンセサイザーもなく、
タンバリンも使われていない、その代わりにアコギとハモンドオルガンを追加
…と言った楽器構成になっていて、渡辺晋氏が言った「歌謡曲らしさ」さえ反映されてない、
シンプルなオケになっています。
カラオケを聴いていると、これってデモ?と思ってしまうくらいですし、
シングルだと、ボーカルを聴かせたいのか、水谷公生さんのギターを聴かせたいのか、
よくわからなくなってきます。

しかし、「春一番」ではキャンディーズならではのコーラスハーモニーが殆ど聴かれない
(各コーラス終わりの ♪は~るですね~♪ の部分だけ、しかも2部)のに対し、
「夏が来た!」ではサビと間奏でしっかりハモっているのが嬉しいですね。
ただ、エ行の伸ばす音はハモらせてもあまりきれいに聞こえないのが難点ですが。


私の中ではこの曲、キャンディーズのシングルの中では、順位は高くありません。 
最下位に近いです(あくまでも個人的に、です)。
その代り、と言ってはなんですが、この曲がA面3曲目に収められたアルバム「夏が来た!」
は大好きで、今も夏になると必ず聴いています。

そう、この曲って、シングルとしてではなく、アルバムの1曲として、
前後、あるいは後につながる曲がある方が生きると思うんですね。

むしろ、前回のクイズでオリジナルカラオケをチラッと聴いて頂いた「ご機嫌いかが」
の方が、インパクト等の点でシングルA面向きと思います(作者は違いますが)。
逆に、むしろそう感じさせる曲だから、コンセプトが明確なアルバム「夏が来た!」には
収録されなかった、のかも知れませんね。


音楽的なお話も少々…。
キーはDメジャーで、サビで一時的に平行調のBmに移行します。
リズムは8ビートで、コード進行はフォークソングのように単純です。

穂口雄右氏がキャンディーズに提供した曲って、sus4のコードが殆ど使われていないのが、
私は以前から気になっていまして(^^;)
通常、例えば C-Am-F-G7 とコード進行する時、G7に移る前に2拍あるいは1小節ほど
G7sus4を入れ、主音(ド)を引っ張って緊張感を出してから次のコードで安定し
ホッとさせるものなのですが、
「夏が来た!」「年下の男の子」「なみだの季節」そして「わな」等々、
sus4が入るのが普通と思われる部分に、ことごとく入ってないんです。

「夏が来た!」だとサビの終わりの ♪…夢を見て~♪ と伸ばす所、
「年下の男の子」だとやはりサビの終わりの ♪はっきり聞かせて~♪ の部分、
「なみだの季節」だとサビ前の ♪私はあなたが好きでした~♪ と伸ばす部分。
「春一番」や「その気にさせないで」ではそもそもsus4が入る隙間もないような作り…と、
そういうコード進行が嫌いなのかな、と思えるほどです。

でもあいざき進也さんのデビュー曲「気になる17才」ではイントロからsus4がありますし、
そういった使い分けも常に意識して作曲しているのだな、と思います。

他の作家、例えば森田公一作曲・竜崎孝路編曲の「ハートのエースが出てこない」では、
♪恋占いしてるのに~♪ としっかりsus4が入っているのとは対照的と言って良いでしょう。

勿論、どちらが良いとか悪いとかではなく、その曲に合ったコード進行ならば
それでいいんです。
ただ、穂口氏の場合、頑なにsus4を使わないようにしてるのかな、と思ったまでで(^^;)


前記事のコメントで青大将さんが記述して下さった事とかぶりますが、
キャンディーズの解散コンサートでは、「夏が来た!」は演奏されませんでした。
それが進行上やむを得ず急遽の事だったのか、何らかの事故の場合にリストから外す事が
最初から決まっていたのかは知る由もありませんが、
最後の最後のコンサートでシングル曲が1曲欠けてしまった事を残念がっているファンは、
今も多いかも知れません。


「夏が来た!」
作詞 : 穂口雄右
作曲 : 穂口雄右
編曲 : 穂口雄右
レコード会社 : CBSソニー
レコード番号 : 06SH-12
初発売 : 1976年(昭和51年)5月31日

*次回は6月2日に更新します。

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もとまろ

ぽぽんたさん、こんにちは。
5月中旬ですが、もう「夏が来た!」と言いたくなります。暑いですね。

にぎやかな海水浴場ではなく穏やかで爽やかな夏の風景が浮かぶ、とても好きな歌です。
平成始まってすぐ、何かの「季節感を味わう歌が少なくなった」との記事に、「かつてキャンディーズは、季節の便りを歌にして届けてくれた」と「春一番」「夏が来た!」の回想をするくだりがありました。
ただ、リアルタイムで応援されていた皆さんには安直な展開に見えたんだなぁというのもわかります。この歌は何度も何度も聴き込んで良さを味わってきたように思います。
改めて思いましたが、瞬発力と言いますか、サビのわかりやすさでは「ご機嫌いかが」が上です。「ご機嫌いかが」がA面だったら、シングル曲メドレーがより華やかだったでしょうね。

青木美冴さんの歌で聴きたい気もしますが、やっぱりハモりがないと物足りないような気がします。確かに、パンチが効いた歌声で男言葉が似合うと思いますけどね。
キャンディーズに向けて作られた歌ではなかったけど、結局はキャンディーズにぴったりだった…ということでしょうか。
それと、青木美冴さんはアイドルという雰囲気ではないですね。ニューミュージックとか演歌でも良かったかな。

ファイナルカーニバルで歌われなかった「夏が来た!」、私もこれは惜しいなぁと思ってますが、実は某質問サイトにファンの皆さんのご感想を質問させていただいたことがありました。
そしたら。
「それよりコンサートの感動が大きい」
「そんなこともあったね」
「自分の心にキャンディーズは今もいる。だから、どうでも良い」
とのお答えをいただきました。

最後に、もう少しお付き合い願います。
昭和51年12月、毎日新聞テレビ欄からです。
(男性編は、秀樹さんの「若き獅子たち」コメントに書かせていただきました)

昭和51年7月NNSR(正式名称不明)調べ
「全国の小学3~6年生 好きなタレント」
女性
1位 キャンディーズ 2位 桜田淳子 3位 山口百恵
4位 アグネス・チャン 5位 岩崎宏美 6位 斉藤こず恵
7位 ザ・リリーズ 8位 岡田奈々
9位 森昌子 10位 チェリッシュ

当時小学3年生で、理想の同級生とか下級生みたいな斉藤こず恵さん。
当時松崎のお父さん27歳と悦ちゃん25歳で、理想の先生みたいなチェリッシュ。
それ以外、全員アイドルです。
しかも5人が同級生で当時高校3年生。
キャンディーズは調査当時は「見ごろ食べごろ笑いごろ」が放送される前でしたが、バラドルみたいな楽しさがすでにあったのかなと思いました。男性タレントランキングにはコメディアンの皆さんがたくさん入っていたんですけどね。
by もとまろ (2019-05-19 10:36) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは!

結果論ですが、やはり「春一番」があまりにインパクトが強かったので、また「春一番」が
吹くのは「春が来た」と言う事なので、新曲が「夏が来た!」と知ると何だかガッカリ、
と言う人が多かったのは当然ですよね。
その両曲は曲調などが全然違うので、もうちょっと違う扱いもあったのでは…って、
やっぱり結果論ですね(^^;)

確かにキャンディーズのファンにとっては、あのファイナルカーニバルは最後にふさわしい
コンサートで感動的でしたし、あの流れ、雰囲気では、もし「そよ風のくちづけ」あたりが
演奏されていなくても、あまり誰も何も言わなかったかも知れません。
でも「どうでも良い」と言うのはどうかなぁ。 私はやはり、アルバムからの曲を割愛
してでも、キャンディーズの歴史をたどる意味でもシングルA面は全部演奏してほしかった、
そうするべきだったと思います。

キャンディーズ解散から少ししてから、少年マガジンに「微笑によろしく」と言うマンガが
連載された事がありました。 作者はもとはしまさひで氏です。
冴えない高校生(やがて予備校生)でキャンディーズの大ファンの男が主人公なのですが、
当時の空気がすごく感じられるマンガです。
私はマンガは殆ど読まないのですが、それにはかなりハマって単行本も揃え、今も持ってます。
もとまろさんなら、きっと興味深く読んで頂ける気がしますので、おすすめです(^^)

昭和51年当時の、小学生が好きなタレントのランキングは興味深いですね。
私は当時中3でしたが、ランキングに斉藤こず恵さんやチェリッシュが入っているのは、
正直かなり意外です。 斉藤こず恵さんがドラマに出ていたのはその2年前でしたし、
チェリッシュもかなり人気が落ちていた頃なんですよね。
でもきっと、自分の中でも忘れている事が色々ありそうなので、当時の小学生の好みと
自分との違いは研究の余地がありそうです。
でも当時の情報源は今と違ってラジオとテレビでほぼすべて、と言う事もあって、
好きなタレントは長い間ずっと好きでいる、と言う事はあったと思います。

by ぽぽんた (2019-05-19 23:51) 

Marco Polo

お久しぶりです。「春一番」の次は当初「SAMBA NATSU SAMAA」の予定でしたが、「夏が来た!」になりました。二番煎じ的なタイトルですが、個人的には好きな歌です。
「ご機嫌いかが」も好きな歌で両A面扱いで「ハート泥棒」発売の1カ月半ほど前にテレビで歌っていたらヒットしたかもしれませんね。
『夏が来た!』も大好きなアルバムで夏をイメージしながら、キャンディーズ初のコンセプトアルバムといっても過言ではないと思います!「恋はサーフィンに乗って」などインパクトのあるシングル向きの曲もあります。
解散コンサートの後半、周囲の住民からの騒音の苦情で無視できなくなり、急遽「夏が来た!」を割愛したのが真相です、本当に残念!個人的には「ダンシング・ジャンピング・ラブ」を短縮してでも歌って欲しかったです。名古屋では確か「そよ風のくちづけ」は歌わなかったし、もっと曲数が少なかったので不完全燃焼でした。
by Marco Polo (2019-05-22 00:10) 

Marco Polo

「SAMBA NATSU SAMBA」入力ミスしました。
by Marco Polo (2019-05-22 00:21) 

ぽぽんた

Marco Poloさん、こんばんは! お返事が遅れ申し訳ありません。

「SAMBA NATSU SAMBA」がシングル候補だったんですか?それは知りませんでした。
明るくて大好きな1曲です! でもシングルとしてはどうかな…。
「夏が来た!」も決して嫌いではないのですが、「春一番」のような開き直り(?)や
快活さに欠けているように思えるんです。 制作にあたって、作者や歌手に
迷いがあったのは明らかで、それが楽曲の魅力を削いでいる気がします。
アルバムの『夏が来た!」は私も本当に大好きで(^^)
もし私がその中からシングルを切るとしたら、「さよならバイバイ」をシングル用に
編集したものを出すと思います。 フルバージョンはアルバムを買って聴いてね、って感じで。
解散コンサートで周囲の住民の苦情があったから、とは記事か何かで読みましたが、
それが事実としたら主催者の読みが浅かったのかな。 しかし当時のキャンディーズは
本当に大人気でしたから、色々な事を予測できたはずですよね。
…とは言え、ファンそれぞれ色々な思いを持たせてくれた解散コンサートだから、
今も伝説の一つになっているのかも知れませんね。

by ぽぽんた (2019-05-24 23:50) 

もっふん

ぽぽんたさんこんにちは。


「太陽は泣いている」でもコメントさせて頂きましたが、ドミナントコードの部分は基本の性質が「不安定」にあるため、本当にいろいろな手段を講じる事が出来ますし、一言で「こうだ」と言える解釈や法則を見つける事が難しいですね。


★V7sus4→V7の良し悪し★

あくまで個人的な感覚での話になりますが、V7sus4 と V7 って言うのはコードの性格を決定づける上で恐らく最も重要である 3rd の音を 4th に置き換える事で緊張感を演出しており他の構成音が完全に共通である事から、聴感上「ド→シ」と解決してくれない事には非常にスッキリしないと言う事情があって、これはオケの対旋律を作る上でもかなり強い制約になって来ると思われます。勿論、そこを敢えて無視する(ド→レなど)のもアリなんですが、キャンディーズの場合は作曲の段階でどの程度具体的に構想されているかは別にして売り物であるコーラスワークの事も考慮しなければならなかったであろう事は想像に難くありません。

この「ド→シ」と言う予定調和進行は上手く使えばとても気持ちが良い一方、その引力に逆らって別のボイシングを充てる事は結構難しく、かと言って素直に「ド→シ」と流すと場合によっては「またこれかよ」と言うワンパターンと受け取られかねない、それくらいゴリッとした存在感のあるコード進行だと思うのです。

穂口先生がどのようにお考えであったかは知るすべもありませんが、たとえばディミニッシュやハーフディミニッシュによるアプローチを除いても

 IIm7/G→V7、IV/G→V7、II7→V7、VI♭7→V7、IIaug/VI♭→V7

などなど、ドミナント7thの前に緊張感を付与する方策はいろいろありますし、殊に IIm7/G や IV/G においては V7 に解決しなくても単独でドミナント感が出せると言う特徴もあります。IV/G→V7 を例に取れば、ここでの対旋律やコーラスラインは「ド→シ」に余りこだわることなく「ド→レ」は勿論、「ラ→シ」「ラ→ソ」はたまた「ファ→ソ」でもコードの進行感を充分に表現できます。

アレンジを考えた時に「ド→シ」のラインが非常に効果的であれば V7sus4→V7 と言う進行が第一選択肢になるのはお考えの通りですが、対旋律やコーラスワークにパターンに縛られない自由度を確保しようと考えるのであればサブドミナント on V の方が「何かと便利」と言う側面もあり、もっと言ってしまえばドミナントコードの部分にプログレッション感を求めないで黙って V(7) 一発にしておいた方が楽曲としてシンプルで明るいサウンドになると言う判断も充分に成り立ったかと思われます。

穂口先生の曲に sus4 が少ないと言うのは記事を拝読するまで気付いていなかった事ですが、もしかするとコーラスを含めた編曲自由度の問題や、無意識にワンパターンに陥る事を嫌われて、かなり明確に意識して避けられていたのではないかと感じられます。勿論、単純に混じり気の無い明るいサウンドを指向した結果と言うだけなのかも知れません。


※蛇足:上に述べた事は全てメジャーのドミナント部分についての話であって、マイナーでは、これはたぶんマイナーのサブドミナント終止がイマイチ落ち着かないせいもあってかメジャーほどの選択肢が無いように思います。
_
by もっふん (2019-05-30 12:35) 

もっふん


事故レスです。(;´Д`)ノ

>VI♭7→V7、IIaug/VI♭→V7

度数表記の時は「♭VI」と書かなきゃいけなかったですね。訂正します。


で、それだけじゃナンなので、ここにシラッと混ぜた「IIaug/♭VI」と言うコードについて一言。いやまあ、「なんじゃこりゃ!」と言って欲しくて書いたのですが(爆

これ正しくは「♭VI9-5 omit 3rd」と書くべきとされ Blackadder Chode と言う通り名が最もポピュラーかも知れません。その界隈では「♭VI Blk」と表記される事もあります。構造としては「太陽は泣いている」で話題にされた「○7-5」(増六の和音)と似ていて機能としてもドミナント7thなのですが、このコードの場合解決先が V7 でなくても構わない、と言うか、最も良く使われるのは IVmaj7 の前に置いて強進行させる場合(つまり I7 の代理、いわゆる裏コードにテンションを盛った結果としての #IV9-5 omit 3rd)であったりします。

「どんなときも」(槇原敬之)のサビ前のⅠからサビのⅣに行く前に一発だけ鳴っているのが多分世間的には一番有名な事例かと思いますが、私の知っている範囲でも1977発売の山下達郎のアルバム「SPACY」に収録されている「Candy」で既に聴く事が出来ますから、なにも突然出て来たコードと言う訳ではありません。

そんなコードですが、既にブームも下火であるボカロ作品などの動画投稿作品群や、そこにルーツを持つクリエーターの手によるアニソンなどで使われた事に海外のミュージシャンが注目した事で、ここに来てちょっとした話題になっているようです。「増六の和音」は音型によって「ドイツの~」やら「フランスの~」やら区別されるのですが、このコードはひょっとすると「日本の増六」と呼ばれるようになるかも知れません。

ギターの世界では 7th コードに #9 を加えたものが「ジミヘン・コード」と呼ばれますが(喩えが古い・苦笑)Blackadder Chode は日本のサブカル的ミュージシャンやその周辺リスナーの間では「イキスギコード」(「やり過ぎ」ではなくて制作者や演奏者が恍惚状態になると言う意味らしい)と呼ぶのが「通」であるようです。

音型としては C7 を使いたいところで上声部を Caug にしてルートを裏コードと同じ F# にした形なので「分数aug」と言う呼称がとても分かり易いのですが、先に書いたようにあくまで元の形は F#7 であるから Caug が本体であるような呼び方は間違っていると怒る人も一部にはいるようです(笑

※これって構成音のどれをルートにしても同じ音が並ぶ aug コードに対して、ルートが変わると使えるスケールが変わるから区別せよと言う議論と同じ根っこのお話です。

なお、3rd の省略は任意ですが、3rd と 7th が作るトライトーンが無くてもルートの半音下行と増五度部分の半音上行で充分な帰結感が得られると言うのがこのコードの特徴でもあります。

およそ出来る事は全てやり尽くされたかのように思われている音楽制作の世界で、特定のコードがこれほど話題になると言うのはとても珍しい事です。

そう思うと、まだまだ新しい事の出来る可能性は残されているのかな、と将来に希望を持つことが出来るようにも思う今日この頃であったりします。
_
by もっふん (2019-05-30 16:24) 

ぽぽんた

もっふんさん、こんばんは! 実はもっふんさんが解説して下さるのをお待ちしてました。
そのわりにお返事が遅れて申し訳ありません。

私がコード進行などで疑問を持つのは、あれこれ色々な楽曲に合わせて
自分でキーボードを弾いている時であって、何気なく聴いていて「ん?」と思う事って
あまりないのがちょっと悔しいと言うか残念と言うか…。
でも実際に一緒に演奏してみて「こりゃ面白い!」と思うコード進行などに出会う事は多く、
もっふんさんの解説を読ませて頂いて「なるほど~、そういう事ね」
と理解させて頂く事ばかりです。 ありがとうございます。

穂口氏がキャンディーズに書いていたコーラスワークは、理論もそうですが、
やはり最もキャンディーズの音色を知る作家として、3人のカラーが
最も表出される音選びをしていたのだろうな、と言うことは何となく感じてました。
これが他の作曲家、森田公一氏や馬飼野康二氏、すぎやまこういち氏等々の、
どちらかと言うとクラシックから入ってきた方々は、キャンディーズのためと言うよりも
コーラスを前面に出した楽曲としての音楽性を優先した作品を提供していた、とも感じますし、
吉田拓郎氏に至っては歌うのがキャンディーズでも誰でもいい、
自分のカラー最優先、という感じがします(それは浅田美代子さんに提供した
「じゃあまたね」でも感じます)。
尤も、吉田氏の場合はコーラスアレンジまでは参加していないだろうと思いますが(^^;)。

以前にも書いたように私はまず作る、演奏すると言った実践優先型なので、
理論はいつも後追いになってしまってます。
いつも詳しく解説して下さり、心より感謝致します。

by ぽぽんた (2019-06-02 23:30) 

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