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みずいろの手紙 / あべ静江

このジャケ写、実は撮影時に怒っていたとか(^^;)

みずいろの手紙ジャケ.jpg

チャートアクション

「みずいろの手紙」はあべ静江さんの2枚めのシングルとして1973年9月に発売され、
オリコンシングルチャート最高7位(同年10月29日付)、同100位内に22週ランクされ
26.4万枚の売り上げを記録するヒットとなりました。

ヒットの大きさではデビュー作「コーヒーショップで」には及びませんでしたが、
オリコンの20位内に3ヶ月弱も留まる、息の長い1曲でした。


作家について
作詞は阿久悠氏、作曲は三木たかし氏です。
「コーヒーショップで」では馬飼野俊一氏の編曲でしたが、
「みずいろの手紙」では編曲も三木たかし氏が担当しています。

阿久悠氏は当時、大変な勢いでヒット曲を量産する作家でしたが、
三木たかし氏は精神的なスランプがしばらく続いた後、
阿久悠氏に促されて「コーヒーショップで」で復活・復帰した経緯があり、
この「みずいろの手紙」のメロディーは流麗ながらどこか力強さもあり、
それは再起の勢いなのかも知れませんね。


歌詞について

基本は別れた恋人を思慕する女性の歌であり、冒頭のセリフ「…今でも愛していると
言って下さいますか」は相手からすると脅迫に近い…と言う見方もありますが(^^;)、
楽曲全体が爽やかに仕上がっており、またあべ静江さんの歌唱そのものに
独特の雰囲気があるために重々しさもなく、イメージを損なうこともなく
ヒットに至ったのでしょう。

私はこの曲について長い間「さわやか系歌謡曲」と捉えていましたが、
大人になって改めて考察するとテーマが意外と重いものである事に気づきました。
当時の歌謡曲はこのように、実は内容の濃い歌詞の楽曲でありながら、
サウンドに耳を奪われ歌詞の内容を直ちに実感できないような作りの曲、多いですね。


楽曲について

構成、メロディー、アレンジ、サウンド…の何をとってもオーソドックスな歌謡曲そのもので、
刺激的な要素が何もないものとなっています。

リズムは8ビート、全体の構成は2コーラス+最後のフレーズの繰り返し(1回)。
キーはB♭メジャー(変ロ長調)で、他調に渡る転調はないものの、
平行調であるGマイナーとは行ったり来たりしています。
それがあべ静江さんの、哀愁感のある声とよく合っていて、
曲調は一聴すると明るいのに聴き終わるとどこか寂寥感を残すものとなっています。
つまり、この曲はよくあるような「本当は別の歌手用に作られたものが回ってきた」
のではなく、最初からあべ静江さんが歌う事を前提に作られた、と考えられます。

コード進行は B♭→F7/A→Gm→Dm/F→E♭→Dm→G7→Cm7→C7→F7sus4→F7…
と、ベースを1音ずつ下げて行くカウンターラインを多用し、
なめらかに上品に楽曲が展開していきます。

注目すべきなのはサビ後の ♪手紙読んだら 少しでいいから♪ の部分で、
そこのようなメロディーだと、大抵 Cm7→F7→Dm→G7→C7… と強引に進行しそうですが、
この曲では Cm7→F7→Dm→Gm Cm7→C7→F7 と、
G7を当てそうな所をGmにして一旦落ち着き、C7の前にCm7を入れ流れを緩やかにしているんです。
そんなところにも、あべ静江さんの上品なイメージを引き立たせようとする
気遣いが感じられます。


アレンジとサウンドについて

先ほど「オーソドックスな歌謡曲そのもの」と書きましたが、
アレンジについては他の曲ではあまり例のない楽器の使い方がされています。
それが左から聞こえるコルネットと中央あたりから聞こえるホルンを使用している事で、
コルネットは右から聞こえる電気ピアノとユニゾンでイントロのメロディーを、
また歌メロ部ではホルンと共同で裏メロを演奏したりしています。

またイントロではコルネットとホルンが別旋律(対位法)で演奏されていて、
特にホルンの音が大らかな空気感を感じさせます。

全体を通して活躍しているのが駆け上がり・駆け下がりを多用したストリングスで、
特に ♪手紙読んだら 少しでいいから♪ に続く駆け上がりは素晴らしいですね(^^)

「コーヒーショップで」では電気ピアノが目立っていましたが、
この曲では電気ピアノに加えてハモンドオルガンも導入され、
若干ですがロック感も加わっています。

ドラムスが右に定位しているのは、サウンド的にはやや古さを感じさせます。


「みずいろの手紙」で使われている楽器とその定位は:

左: コルネット ビブラフォン アコギ(コード) ハープ 鉄琴

中央: ベース ホルン

右: ドラムス 電気ピアノ ハモンドオルガン

左右ステレオ: ストリングス


付記

1973年はその後も名を残す歌手が多くデビューしましたが、
あべ静江さんはその中では年齢が高く(と言っても21歳でしたが)、
どこか落ち着きが感じられて、特に高校生や大学生の男性には大人気だったんですね。

その歌唱法はチェリッシュの松井悦子さん(当時)と比較されるような、
ファルセットで透明感のあるものでしたが、
ある時期から急に透明感が失われてしまった印象があります。

もしかするとアイドル歌手時代には故意に喉声で歌っていただけ、なのかも知れませんが、
私のように「コーヒーショップで」での美しい歌声であべ静江さんを知った者からすると、
デビュー当時のような、ちょっと儚げな声でなくなってしまったのがとても残念なんです。
どうも「その後の」声だと、押し付けがましく聞こえてしまうんですよね。
…と感じるのは私だけでしょうか(^^;)


「みずいろの手紙」
作詞 : 阿久悠
作曲 : 三木たかし
編曲 : 三木たかし
レコード会社 : キャニオン
レコード番号 : A-184
初発売 : 1973年(昭和48年)9月20日

次回は12月5日までに更新します! 遅れてごめんなさいm(_ _)m

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もとまろ

ぽぽんたさん、お元気ですか?
こんにちは。

しーちゃんの代表作ですね。あ、私の世代では、しーちゃんといえば工藤静香さんです…今ではほとんど呼ばれてないですけどね。

「コーヒーショップで」の方が好きですが、「みずいろの手紙」が昭和歌謡のテレビでよくかかってました。あべ静江さんの清楚な美しさそのものの歌だなぁと思います。
阿久先生の著書「歌謡曲の時代 歌もよう人もよう」を本棚から引っ張り出しました。後年名コンビとされた荒木とよひさ先生がまだ「四季の歌」で名を上げる前、三木先生が阿久先生との交流の中で復活されたエピソードが興味深いです。
そこには、「みずいろの手紙」の台詞はあべ静江さんの声質から想像できるイメージを活かして付けて、それには一種のメルヘン効果があったのだろう…とあります。「コーヒーショップで」は、本人に会わないまま名古屋の人気美人DJとの説明と写真からイメージを膨らませて書いた、とのことでした。
私みたいな後世の者には「みずいろの手紙」がデビュー曲みたいにも見えますが、新人歌手からデビューいきなり台詞を語られると、聴く人にはいくらきれいな女性からでも照れにもドン引きにもなりそうだし、三木先生の再起の勢いに合わせた曲の発表順が、あべ静江さんのイメージを引き出すにはとても合っていた、良かったのかなと思います。

ぽぽんたさんは声質の変化を惜しんでおられるようですが、私も変わったなぁと、近年の押し付けがましさもちょっと思います。園まりさんにも言えますけどね。
年をとるとは、こういうことでしょうか。

それと、あべ静江さんは、小学館の学習百科図鑑「いぬとねこ」の最後のスタッフ紹介で、猫の撮影取材協力者のお一人として挙げられています。これは1984年初版で、近年息子たちに中古で買いました。
その本のどこかに、しーちゃんの愛猫が写っているということです。
by もとまろ (2018-11-21 11:57) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは! …あれ?書き出しが(^^;)

あべ静江さんのデビュー当時は、きっと今の人には信じられないほど、
男性に本当に人気があったんです。
あの頃はアイドルはあくまでも純情可憐、純真無垢が尊ばれていましたし、
逆に今のようにすぐに会えたりする状況は軽蔑するような風潮さえ感じられたので、
あべ静江さんも「好きだけど、手の届かない」存在感がすごくあったんです。

なので、「コーヒーショップで」でその清楚なイメージが全国的に伝搬し、
2曲目の「みずいろの手紙」の冒頭のセリフが男性ファンを悩殺(古い言葉ですね)したのは、
まさしく事実であり、その順序と流れも素晴らしかった、と今になって思います。

歌手は一般人よりも遥かに喉を酷使するので、声質が変化する人が多いのは
仕方ないと思うのですが、この人は意外と変わらないな、と思う歌手もいれば、
例えば小柳ルミ子さんのように宝塚音楽学校を首席で卒業するほど
きちんと勉強してキャリアも積んだ人が今ではなぜこれほどヘロヘロな歌声に?
と言ったケースもあり、本当に個人差が大きいですよね。

「いぬとねこ」とは違いますが(^^;)、音楽ライターの濱口英樹さんが監修して
出版された「作詞家・阿久悠の軌跡」(リットーミュージック)に、
協力者の一人として私の名があります(勿論本名で、ですが)。
本当にちょっと協力しただけなのですが、誇らしい思いをさせて頂いています(^^)

by ぽぽんた (2018-11-23 23:18) 

小がめら

こんにちは。
大阪出張ののぞみの車内です。久し振りに車内も空いていて、少しゆっくり拝見しています。

何年か前にYTでご本人が40歳くらいの頃の歌唱映像を拝見し、その美しさと変わらぬ声の美しさに溜め息を吐き、この曲を収録しているアルバム「みずいろの手紙/コーヒーショップ…」をダウンロード購入しました。確かに今はだいぶ声も変わられているようですね。

とは言え、もう大好きな歌です。私の持つ音源では、ご本人の歌唱のほか、桜田淳子さんによるカバーと、岩崎宏美さんによるカバーがあります。お二人のカバーも大好きなので、3バージョンを連ねたプレイリストを作っていますが、やはりあべ静江さんご本人の澄んだ声とのマッチングは抜群だと思います。

「阿久悠の軌跡」にぽぽんたさんのお名前が? 気が付きませんでした、帰宅したら確認して見ようと思います。

それではまた。

by 小がめら (2018-11-30 10:48) 

ぽぽんた

小がめらさん、こんばんは! お返事が遅くなり申し訳ありません。

あべ静江さんほど、誰もが美人と認める人はそうはいない気がしますね。
それもただきれいなだけでなく、上品さを兼ね備えていたのが今思っても素晴らしいと思います。
今の芸能界はルックスが良くてもあまり内容が感じられない人が多い気がしますが、
それはマスコミや業界がそのような人が大衆に好まれると勘違いしているだけで、
本当は大衆も芸能人・タレントには知性や品の良さを求めていると思います。

この曲、色々な人がカバーしているんですね! ほとんど聴いた事がありませんでした。
歌の部分はともかく、冒頭のセリフはあべ静江さんでないと雰囲気が出ない気もします…。
って偏見かな(^^ゞ

by ぽぽんた (2018-12-02 23:01) 

小がめら

岩崎宏美さんの、「阿久悠トリビュート」でのカバーでは、冒頭のセリフは、確か恥ずかしかったとかで省略されています。
それではまた〜。
by 小がめら (2018-12-03 02:17) 

ぽぽんた

小がめらさん、こんばんは!

あ、そうなんですか(^^) う〜ん、確かに恥ずかしいでしょうし、やはりあれは
あの当時のあべ静江さんだからこちらも抵抗なく聴けていたのかも知れませんね。
お知らせをありがとうございます!

by ぽぽんた (2018-12-04 22:51) 

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