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人恋しくて / 南沙織

デビュー5年目、堂々のレコード大賞歌唱賞受賞曲です(^^)

人恋しくてジャケ.jpg

チャートアクション

「人恋しくて」は南沙織さんの15枚目のシングル(洋楽カバーを除く)として1975年8月に発売され、
オリコンシングルチャートで最高8位(同年8月25日・9月1日付)、同100位内に19週ランクされ
23.2万枚の売り上げを記録しました。

前々年12月発売の「ひとかけらの純情」以来、6曲ぶりのオリコントップ10入り、
そして売り上げ20万枚超のシングルとなりましたが、
南沙織さんの最後のトップ10シングルとなりました。


作家について

南沙織さんのシングルは、デビュー曲「17才」(1971年6月)から「想い出通り」(1975年4月)
までの14曲を作詞・有馬三恵子、作曲・筒美京平のコンビが担当していましたが、
「人恋しくて」は作詞・中里綴、作曲・田山雅充のコンビと、初めて新たな作家を迎えた
作品となりました。

中里綴氏は江美早苗の芸名でダンサー・歌手、そして女優としてキャリアをスタートした人物で、
今も毎週日曜に放映されている「新婚さんいらっしゃい」(テレビ朝日)の初代司会者でもあります。

田山雅充氏はフォーク歌手で、「人恋しくて」のヒットの翌年には自身が作曲し歌唱した
「春うらら」がヒットしました。

編曲は著名はスタジオギタリストである水谷公生氏です。
水谷氏はギタリストとしては尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」、キャンディーズの「春一番」等、
特に1970年代の多くのヒット曲でその演奏を聴く事ができますし、
作・編曲家としても多くのヒット作を世に送っています。


歌詞について

「煙草の煙 見つめて過ごす」のフレーズは、シチュエーションが自分の部屋で
一人過ごしている場面ですから、その煙草は「喧嘩別れしたばかり」の彼氏の忘れ物、
あるいは主人公自身の持ち物でしょう。
当時のアイドルには、煙草はイメージ的に排除すべき対象の最たるものでしたから、
その歌詞を歌わせる事には恐らく、スタッフ間で賛否両論があったのではないでしょうか。

ちょっと不可解なのが3コーラス目で、
「風は昼間は暖かいけれど 夜はまだまだ肌寒くなって」とありますよね。
まだまだ肌寒い、とはそれまで寒かったのが少し暖かくなってきた時期の表現ですから、
この曲が発売されヒットした季節、即ち秋口ではなくむしろ春である事になります。
しかし私にとってはやはり、この曲は秋に合う曲として記憶しているので、
気にし出すとやや、ムズムズする感じがしてしまいます(^^;)

しかしこの曲は何と言っても「暮れそうで暮れない黄昏どきは」の語感が素晴らしく、
それが一度聴いただけで記憶に残ってしまうのがヒットの最大の理由と思います。


楽曲について

イントロに続いてまずサビを一発かまし、強いインパクトを残して
後サビ構成の歌メロを3コーラス分と、非常に珍しい構造となっています。

キーはBマイナー(ロ短調)で、部分的に平行調のDメジャーを通過しますが、
他調に渡る転調はありません。

イントロとコーダはアコギとストリングスで演奏されています。
その時のコードは Bm→C#→Bm/D→Em→F#→G とベース音が上がっていくカウンターラインで、
次にどんなコード!?と思っていると何と C#m となるのがとても新鮮です。
通常だともう一度 C# となるところであり、歌謡曲らしからぬコード進行と言えます。

オケのリズムは8ビートが基本ですが、歌メロはフォークでよく使われる16ビートで、
どこか急いでいるような、落ち着かないような雰囲気が感じられます。
南沙織さんは16ビートが苦手、と担当ディレクターだった小栗俊雄氏が語っていますが、
「人恋しくて」では、ややぎこちなさを感じさせる歌唱がかえって歌詞の内容を
的確に表現しているように思います。

歌メロ部のコード進行は平易で、特殊なコードは皆無です。
ただ、面白いのが歌い出しの4小節で、そこのコード進行は Bm→Em6→F#7 Bm→Em6→F#7 で、
筒美京平氏が作曲して欧陽菲菲さんが歌った「雨のエアポート」の歌い出しと同じなんです。
田山雅充氏が筒美氏の作品を意識して作ったとは考えにくいのですが、
もしかしたら制作側から何らかの指示があったのかも知れませんね。


アレンジについて

3コーラス構成の楽曲では大抵、1コーラス目と2コーラス目をほぼ同じに、
3コーラス目で変化を持たせてそのままエンディングに入るパターンが多く、
「人恋しくて」でも同様のパターンではあるのですが、
その変化がかなり大きいのが聴きどころでもあります。

まずドラムスとベースギターですが、2コーラス目まではサビ(♪暮れそうで暮れない…♪)だけ、
3コーラス目では歌メロの頭から演奏されている、その使い分けがカッコいいんですよね(^^)

歌メロに入る直前のメロディーも、それまでがアコギだったのが、
3コーラス目に入る時にはストリングスに入れ替わっていて、新しい展開を感じさせます。
ストリングスは歌メロが始まってからもずっと鳴っていますね。

その他にも、それまでアコギが演奏していたオブリガートをストリングスにしたり、
サビ前で鳴っていた鈴(りん)とタンバリンを鳴らさなかったり…等、
3コーラスを飽きずに通して聴かせる工夫があれこれと施されています。


使われている楽器はすべて生楽器であり、電子楽器は一切使われていません。
間奏や2コーラス目の裏メロなどで木管楽器であるオーボエが効果的に使われていて、
さらにそれに寄り添うようにファゴット(バスーン)が対旋律で演奏されています。
ファゴットはクラシック、特にバロックでは欠かせない楽器の一つで、
歌謡曲やポップスで使われる事は稀なのですが、
この曲ではその音色が加わる事で夕暮れ時の風景をより感じますし、
意識して聴いていると「なんて繊細なアレンジなのだろう」と感動してしまいます。


サウンドについて

この曲でのサウンドで目立つのはアコースティックギターとドラムスの音作りでしょう。

アコギは中央、左寄り、右寄りそれぞれ1本ずつ、そして左に1本と
合計4本使われており、どれも倍音が豊かに収録されています。
やはりどれも水谷氏の演奏でしょうか。

ドラムスは特にスネアの音が重要で、ややゆるめにチューニングされ、
胴鳴りも多めに感じられます。
この曲では静かな部分とオケが鳴っている部分とのコントラストが重要であり、
その橋渡しの役目をスネアが受け持っているんですね。
この時代は歌謡曲ではスネアを前面に出す音作りはまだ少なかったので、
新鮮に聴こえた事でしょう。

キーボードが殆ど使われていないのですが、ストリングスや女性コーラスが
コード感をより高めています。


「人恋しくて」で使われている楽器とその定位は:

左: アコースティックギター(コードカッティング) 鈴(りん) ハモンドオルガン

左-中央: アコースティックギター(歌い出し前後のメロディー)

中央: ドラムス ベース アコースティックギター(イントロ、コーダでのメロディーのみ)
   オーボエ ファゴット

中央-右: アコースティックギター(コードアルペジオ)

右: タンバリン エレキギター(カッティング)

左右ステレオ: ストリングス(右方向にチェロとビオラ、左方向にバイオリン)
       ウィンドチャイム(中央付近でやや広がって定位)
       女性コーラス

FM東京「サウンドインナウ」で放送されたオリジナルカラオケでは、
歌入りでは中央と左寄りに分かれていたギターが中央に集約されています。
また、歌入りで中央から右寄りに定位しているアコギ(アルペジオ)は元々ステレオ収録
であるようで、カラオケでは中央寄りながら左右に広がって定位しています。

また、3コーラス目にハモンドオルガンが入って来ますが、
オリジナルカラオケではそれが歌入りよりも大きい音量でハッキリと入っています。

他の楽器やコーラスも、歌入りとカラオケとでは音量バランスがかなり異なるので、
そのカラオケ音源はテストミックス(あるいは意識して別ミックスにした)と思われます。


付記

1975年8月11日に放映された「夜のヒットスタジオ」は沖縄からの生中継で、
本来ならば当時開催されていた沖縄海洋博の会場で演奏されそれが放送される予定でしたが、
台風が来て屋外での演奏が不可能となり、仕方なく出演予定の歌手がスタッフ用のブースに
集合しての放送となりました。

出演歌手は山口百恵さんや五木ひろしさん、黒木真由美さん等で、南沙織さんもいました。
バンド演奏がないので、当然のようにそれぞれの歌のオリジナルカラオケを使用しての
歌唱となったんですね。
狭い空間に出演者が全員集まり、各人とても歌いにくそうでしたが、
その分、歌唱自体は生々しくて、意外と聴きものになったような感じがします。

南沙織さんは発売されたばかりの「人恋しくて」を歌いました。
笑顔が殆どなく、キョロキョロと落ち着かない様子でしたが、
レコードの歌唱よりも抑揚の大きい、迫力のある歌声でした。
その回は数年前にCSで放送され、私も録画して保存してありますが、
当時の歌謡界の普段見られない面が見えるような、貴重な回だった気がします。


「人恋しくて」で一旦、筒美京平氏から離れた南沙織さんでしたが、
その後も「ひとねむり」「ゆれる午後」などで再び組む事になります。
しかしやはり、以前ほどのヒットには至らず、南沙織さんの歌手キャリアも
そのままフェイドアウトしていってしまったのが残念です。

ただ、筒美氏の作品なら手放しでどれもいい!と言うわけでは決してなくて、
先述の「ひとねむり」などタイトルからして売れそうにないし、
「ゆれる午後」も恐らくプロデューサー等とのコミュニケーション不足だったのか、
ハッキリ言って駄作だと思います。

しかしそれで終わらないのが筒美氏の筒美氏たるところで、
南沙織さんの事実上のラストシングルである「Ms.」は、
まるで南沙織さんのデビューに立ち返ったような作風、
そして筒美氏が洋楽拝借ではなく自身が本来持っているメロディーセンスを発揮し、
それに有馬三恵子氏も持ち味である生々しさとシニカルさをにじませた歌詞を重ねて
出来上がった楽曲だと私は思っています。

「Ms.」は曲調が底抜けに明るく、筒美氏らしいストリングスアレンジを含め
どこにも迷いが感じられずのびのびとしていて、有馬氏と筒美氏が南沙織さんに提供した
楽曲の中でも最高傑作の一つに間違いありません。

チャート関係は奮いませんでしたが(最高80位)、YouTubeなどに歌唱シーンが
アップロードされていますし、ベスト盤にも収録されているので、
良かったら一度、聴いてみて下さい(^^)


「人恋しくて」
作詞 : 中里綴
作曲 : 田山雅充
編曲 : 水谷公生
レコード会社 : CBSソニー
レコード番号 : SOLB-293
初発売 : 1975年(昭和50年)8月1日


すみません! 次回は18日(日曜日)に更新しますm(_ _)m

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もとまろ

ぽぽんたさん、おはようございます。

「人恋しくて」は前に記事を書かれていたとばかり思い込んでいました。昭和歌謡を聴き始めた30年ぐらい前から長いこと知っている歌で、シンシアの新境地を開いた歌ですから。
30年ぐらい前はシンシアよりもルミ子さんが「歌唱力の人」とアイドル回顧の記事に紹介されてましたが、今の若い人はシンシアの方が歌が上手と思っているようです。
今でもわかりやすい聴きやすい歌をたくさん歌っている、と言うことでしょうか。確かに、新三人娘の中でもいつも生活に寄り添う歌を歌うのは、シンシアだなぁと思っています。

アコギサウンドは、二十歳過ぎたシンシアによく似合います。
3番の歌い出しの歌詞はずっと違和感全然持たずに聴いていて、そう言われたらそうだ…と思っています。「なんとなく人恋しい 一人ぼっち」の光景がしっくりくるのは春じゃなくて秋なので、考えれば考えるほど訳わからなくなりそうです。
「煙草の煙」からは一晩一緒にいた様子を想像したりして、それが長く続くと五郎さんの「甘い生活」みたいですよね。こうして十代のキラキラしたアイドルから大人になっていくんだな、と思います。あ、小坂恭子さんの「想い出まくら」も同じ時期のヒットでしたか。

ようつべで見られる「Ms.」の歌唱シーンは夜ヒットの引退企画ですよね。音声だけだと「スター千一夜」引退インタビューの最後の歌声もようつべにアップされています。そこでは引退について「3年前から計画的に考えて過ごしていました」と話していました。
デビューしてすぐに引退宣言してしまったので、ファンにもスタッフにも気持ち良く引退できる道をずっと模索してきて、「人恋しくて」のヒットや受賞でシンシアにメドができたのかな、と想像します。
by もとまろ (2018-11-02 07:40) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは!

私は個人的に南沙織さんのファンなので、記事の数も多くしまって(^^;)
シンシアはデビューの頃から引退まで、歌声自体は殆ど変化がないんですね。
しかしただ言われた通りに歌っていたデビューの頃から次第に自分の歌い方が確立し、
情感がとても豊かになっていったのがよくわかります。
小柳ルミ子さんは経歴も歌い方も、曲のレパートリーもシンシアとは全く異なるので、
比較の対象ではないのでは、と私は思っています。

確かにこの曲の頃はシンシアも5年目でそろそろ定番歌手の仲間入りした頃ですし、
いつまでもアイドルらしい歌ばかりではファンも離れてしまう、しかし
イメージチェンジに失敗するとさらにファンが…と、難しい時期だったと思います。
なので、年末にレコ大の歌唱賞を獲ったのは、きっと自信につながったのではないかな。

本人も基本的に芸能界に合わないと思っていたようですし、ずっと歌謡界に残って
懐メロ歌手のようになってしまうよりは、大衆の記憶に鮮やかに残っているうちに
引退する方が、当人にとってもファンにとっても、結果的にいいのかも知れませんね。

それにしても、何年か前に次男の篠山輝信さんがテレビに出始めた時には
「シンシアそっくりだな」と思ったものです(^^)

by ぽぽんた (2018-11-03 22:44) 

tucson

こんにちは。

毎回ぽぽんたさんの解説には目を見張ります。
私も真剣に聞く、まるで正座をして(笑)聞いています。

良い曲ですね~。
譜面通りになぞるような南沙織さんの歌い方が緊張しているように聞こえます。何回もやり直ししたのかな。でもとても魅力的でグッとくるものがあります。

アレンジの中で書かれていますが、スネアの音は出色ですね。
少しリバーブをかけているような気がします。この曲にこのスネア色ありと感じます。

オーボエとファゴットの違いが分かりませんが、オーボエ→バスクラリネットみたいな音色ですかね。

いずれにしても良い曲を教えていただいてありがとうございました。イントロと「暮れそうで暮れない~」のメロディは、当分耳から離れそうにありません。
by tucson (2018-11-15 13:07) 

もっふん

こんばんは

最近記事の完成度が高くて私ごときに口を挟める余地がどんどん減っているのは嬉しいような寂しいような、ちょうど暮れそうで暮れない秋の黄昏時のような気分でもあります(笑

それもあって筆が遅くなっているのですが、まだ更新前なので滑り込みでいくつか。

★この歌詞の季節は★

一般論で言うと、「暮れそうで暮れない」のは春の夕方です。春を舞台とした海援隊の「贈る言葉」の一節「暮れなずむ」の「なずむ」と言うのは物事がなかなか進まない様子を表す言葉ですし、逆に「秋の日は釣瓶落とし」と言われるように秋の夕方はあっという間に暮れてしまうとするのが、例えば俳句などに代表される日本文学の決まり事でもあります。

では、どうしてそんな歌詞の曲がこの発売時期にピックアップされたのでしょう。

Wikipediaでも話の時系列が混乱している記載がありますが、どうやら元々は田山雅充氏がご自身のユニット「たやまと夕子」の同年9月発売のデビューアルバムの一曲として準備していたもののようで、実際に南沙織版シングル発売の一か月後にアルバム「暮れそで暮れない黄昏どきは」がキャニオンレコードからリリースされています。あまりメジャーではないアーチストのファーストアルバムはいわば商品見本のようなものですから、発売時期にこだわらずに様々な季節やシチュエーションの楽曲が用意されたのだと想像出来ます。

しかし、どうした訳かこのアルバムの制作段階で、しかも当時CBSソニーのディレクターだった酒井政利氏に注目され、原題「暮れそで暮れない黄昏どきは」を「人恋しくて」に変更した上で南沙織のシングル曲としての採用に至ったようです。この辺の人脈や権利関係は全く分かりませんが、田山氏のアルバムにも「人恋しくて」のタイトルで収載されています。

ですので、「人恋しくて」は春の歌でファイナル・アンサー!・・・かと言うと、必ずしもそうとは言い切れない部分もあったりします。

何を言いたいかと言うと、中里綴さんがどういう意図で書いたかに関わらず、8月初旬発売の楽曲として解釈する事も充分可能なのではないかと言う事です。

典型的に「秋の日が釣瓶落とし」と感じられるのは乱暴に言えばお彼岸(秋分の日)以降、気温も下がって(後述)夏の終わりを感じるとともに季節は否応なく秋に向かっていると実感できる時期でしょう。そしてその先にはやがて冬が来るのだとも。

一転、本曲が発売された8/1頃の夕暮れ時はどうでしょうか。子供たちは夏休みで夕方以降も花火大会や盆踊りと言ったイベントが待ち遠しく、大人であってもとっぷりと日が暮れてしまえば夜風が涼しいのにと「なかなか来ない夜」に思いを馳せる季節である、と強弁してしまえば、「8月から9月にかけての黄昏時は暮れそうで暮れない」と考える事も出来るように思います。

それが原義とかけ離れていても、作品となった時にリスナーのセンチメントに符合するのであれば「この曲は季節が秋に変わって行く時のもの」であるとしても良いのではないでしょうか。そして同時に田山氏のアルバム中の「人恋しくて」は春の歌であっても良いのだと思います。

しかしここで問題になってくるのが、ぽぽんたさんも指摘されている「夜はまだまだ肌寒くなって」の一節です。もっふん説では元々が春の歌なのだから普通に「いまだに夜は寒い」と読み下すのが最も自然であることは間違いありません。

にも拘わらず酒井政利氏がゴーサインを出した理由となる「解釈」は、この「まだまだ」を「今はマシだけれどこれから"まだまだ"寒くなる」と言うコンテキストで読み下す事が可能だからではないかと言うのが私の想像です。

「風は昼間は暖かいけれど 夜はまだまだ肌寒くなって」

夜はこれからどんどん肌寒くなって行く、と、言われてみればそう聞く事も出来るのではないでしょうか。

歌と言うのは歌詞に書かれた事が全てなので、歌い手やリスナーの解釈が入り込む余地がたくさんあると思うのです。だからこそ本来なら他人事でしかない歌詞に深く共感したり心を揺さぶられたりするのだとも。

正直な話、話し相手もなく漫然と暮れて行くだけの黄昏時と言うのは季節とは関係なく「暮れそうで暮れない」もどかしい時間帯であると思います。本楽曲のテーマもそうした心に空いた穴にあると考えますので、延々と一席ぶって来た舌の根も乾いていない口で最後に言わせて頂けるのであれば、

「そんな細けぇ事は、どうでも良いんだよ」(どばき
_
by もっふん (2018-11-16 01:33) 

もっふん

リハビリがてらもう少々お付き合いを。

★イントロのコード進行★

ぽぽんたさんには気持ち悪いでしょうが私のいつもの作法としてC/Amで書き直させて頂きますので脳内変換ヨロシクです。


 Am > B > Am/C > Dm  > E > F 続けて Bm > E7

そもそも冒頭の「Am > B(7)」からしてが結構危うい進行でして、たとえば

 Am > B7 > Em > D > C > B7 > Em

こんな風に進行しちゃうと曲のキーが変わってしまうわけです。そうじゃないんだよ、と言う事を確信するには4つ目の Dm が出てくるまで待たねばなりません。

2つ目の B7 で少し驚かされるものの Dm の後は自然な上行フレーズに身を任せられるのですが、この部分も油断をすると

 E7 > F >「G」> E7

と言う展開を期待してしまう部分です。しかしこれはこれでバロック的過ぎると言うかヘヴィメタ的と言うか、ドラマティックに風呂敷を広げ過ぎてしまうので「大人になりたての女の子の心の機微」を歌うには少しふさわしくありません。

概ねここまで展開してしまった時の典型的な解決パターンは

 E7 > F > Dm > E7
 E7 > F > Dm6 > E7
 E7 > F > Bm7-5 > E7

これならぽぽんたさんが敢えて言及するほどの事も無かったでしょう。

また、最後をドミナントである E7 で締める事が決まっていたとして、ぽぽんたさんが言われるように E7 に対するドミナントである B7 が用いられる例も珍しくはありません。これが採用されなかったのは進行のプッシュ感が強過ぎると判断されたものと思われます。

結局、この曲では IIm7-V7 を使って決着させています。

 E7 > F > Bm7 > E7

Bm7 はナチュラルスケール上のダイアトニックコードではないので独特の部分転調感が発生しますが、メロディックマイナースケールであればダイアトニックに含まれますので、先述の「典型的な」コードに代えて Bm を使う(F#音を提示する)事で起きているのは「転調」ではなく「スケールの変更」であると言えます。

メロディックマイナースケールと言われてもピンと来ない方はイングランド民謡の「グリーンスリーブス」を想起して頂けると良いのですが、民謡の常として必ずしも特定のスケールで歌われたものが正しいとは言い切れません。私の知る限り日本で最もポピュラーに歌われているメロディはメロディックマイナースケールのものであると思います。

結果として、ちょっと幻想的でセンチメンタルな響きのあるケーデンスが楽曲のイメージにぴったりの雰囲気を醸し出してくれていますね。


★「雨のエアポート」★

これ、多くのギターキッズと同じくC/Amで捉えちゃうと

 Am > Dm(6) > E7

と言う、どこにでもある、それこそ同じ進行が何百曲もあるであろうパターンですね。

ぽぽんたさんには絶対音感があるがゆえに、他の調の同等の進行とは別に「雨のエアポート」との同一性が際立って感じられたと言うだけの話なんじゃないかなあ。

勿論、頭を Am で2小節引っ張った

 Am | Am | Dm6 | E7

と言う割り付けで、かつ Dm6 の 6 が明確、と言う条件を付けると数は絞られますし、田山雅充氏も「雨のエアポート」を口ずさめる程度にご存じだったとは思います。

が、楽曲のコンセプトもリズムもサウンドも別物なのに、わざわざ4年も前のヒット曲の踏襲を意識して制作されたとは、私には少し考えにくいです。
_
by もっふん (2018-11-16 03:21) 

ぽぽんた

tucsonさん、こんにちは!

恐れ入ります(^^;) 書いていて際限なくなって…と言うのが実際のところです。

そうですね、南沙織さんは筒美京平さんから初めて離れた曲だったので、勝手が違う…とは
きっと、絶対感じていた事でしょう。 同時期に発売されたアルバムに収録された
「GET DOWN BABY」の方がずっとノリがいいですし…。
しかし慣れた節回しとは違う曲でかえって歌声に情感が出てしまうって事、ありそうですね。

この時代の歌謡曲でスネアをこれほど目立たせる音作りは珍しかったので、
最初聴いた時には違和感も覚えていた気がします。
しかし洋楽も、この曲の前後からドラムスを前面に出す事が多くなってきたんですね。

ファゴットはわりとリズムを強調するような、かつ16分音符で駆け抜けるような演奏を
よく耳にします。 擬音するとしたらポコポコ鳴っている感じ、かな。
オーボエは例えばカーペンターズの「スーパースター」ではすぐそれと判りますが、
違う曲ではどうもクラリネットと混同してしまう事があります。 録音の仕方の問題かな?

tucsonさんのブログ、興味深く拝見しています。 私とは全く違う視点で音楽に親しんで
おられるのが感じられて楽しくなります。 これからもよろしくお願い致します!

by ぽぽんた (2018-11-17 09:39) 

ぽぽんた

もっふんさん、こんにちは! 久しぶりのロングコメント、ありがたいです(^^)

深いですね。 私が考えも及ばない事を次々に解説して下さって、本当に勉強になります。
「暮れそうで暮れない黄昏時は」のワンフレーズでそれほどまで考察されてしまうのは、
やはり普段から様々なメディアを採り入れて咀嚼しておられるからこそと思います。
そんな方から「完成度が高い」などと言われてしまうと…恥ずかしくなります。
これからもぜひ、色々と教えて下さい!

ただ一つだけ、この曲は酒井さんではなく、日音の村上司氏のプロデュースだそうです
(ベスト盤「南沙織ゴールデン☆ベスト コンプリート・シングル・コレクション」の
ブックレットに記載された、元担当ディレクター小栗俊雄氏のインタビュー記事より)。
その村上氏がまだほぼ無名だった田山・中里コンビの作品を評価し、日音と専属契約を
した事が「人恋しくて」の制作につながった、との事です。

話は戻りますが、私は記事に書いた通り「人恋しくて」のシングルはほぼ発売直後から
聴いていたのですが、当時はまだ中2と言うこともあって、歌詞はあまり気にしなかった
んですね。 「夜はまだまだ肌寒くなって」の部分だけは違和感を覚えていましたが、
全然気にしていなかったんですよね。 それって、特に南沙織さんの歌の場合は、
歌声をサウンドの一つと捉えていたからかな、と今になって思います。

当の南沙織さんも、それまでの洋楽っぽい垢抜けたサウンドで歌ってきたものが
急にフォーク・歌謡曲っぽくなった事でかなり戸惑っていたようです。
しかしそのような曲でレコ大の歌唱賞を獲ってしまったのですから、
皮肉と言うか、面白いものですね。

色々と物議を醸しそうなこの曲の歌詞について作者の中里さんに解説してもらいたい
ところですが、残念な事に30年も前に逝去されていたんですね。

コードの解説も重ね重ねありがとうございます。
私は音楽でも何でも、いい・悪いでなく好き・嫌いで決めてしまう方で、
イントロのコード進行にしてもそれまでに聴いた事のない流れだったからか、
初めて聴いた時に「好き!カッコいい!」と思ってしまったようです(^^)

で、C/AmのスケールにBmやBが入って来る進行も結構大好物でして、
古くはビートルズの「Yesterday」、うんと後ですが多岐川裕美さんの「酸っぱい経験」、
CからではなくFからの流れですが南沙織さんの「哀愁のページ」、
麻丘めぐみさんの「悲しみよこんにちは」などなど、どれももっふんさんが仰るような
他調に行ってしまいそうな危うさ(実際に行ってしまう事もありますが、すぐに戻って
来るパターンが多いです)が何とも言えないんですよね。
そうそう、自分でも書いていて思ったのですが、「雨のエアポート」との関連はやや、
こじつけっぽいですね。 同じような曲は他にも多そうですし(^^;)
ただ、このブログで何度も書いている事ですが、筒美さんには6th入のサブドミに
こだわって(頼って、と言ってもいいかな)作った曲がとても多いので、
田山さんにもその影響があったのかな、と思ったんですね。

今後もよろしくです! でもお体は大切にして下さいね。

by ぽぽんた (2018-11-17 10:52) 

もっふん

ぽぽんたさん、お返事ありがとうございます。


★プロデュース★

Wikipediaを鵜呑みにしちゃいけなかったのかなと慌てて調べてみたのですが、既に独立されている酒井政利氏のオフィシャルサイトでも氏の受賞歴の中にはしっかり本曲が含まれているんですよね。

思うに、プロデュースと一言で言っても、サウンドプロデュースだけを指す場合とタレントのイメージ戦略立案実行を指す場合、ある個別作品に対して制作費用の確保から利益担保までのコーディネートを指す場合などが混在して使われており、各所でこれらがきちんと区別できるように発言されていない事が原因と思われます。

憶測に過ぎませんが南沙織のシングル制作と言う意味で最大のイニシアチブはCBSソニーが握っていたはずなので、上の記述で言えばイメージ戦略全体を統括しておられたのが酒井氏であって、ソニーから原盤制作(おそらくはこの過程に田山楽曲の提案も含まれていたのでしょう)を依頼された日音で村上司氏はサウンドプロデューサーとして関与されたのではないかと思います。

例えば「小室哲哉プロデュース」と言っても小室氏が売り上げに責任を持つわけではなく、氏が担保するのは楽曲の品質に限定されますよね。

どの段階で誰がどういう権限と責任を持ってレコードが作られていたのかは、正直私の知識の及ぶところではありませんので、どなたかご存知の方がおられたら是非ご教示頂きたいところです。

似たような話としては「編曲家は音の定位は考えておらずモノラルで考える」と言う話があったかと思いますが、では定位を含めた収録後のSEさんの作業(リバーブやディレイ系、イコライジング、コンプレッシング)の仕上がりに対する責任者は誰だったのか、私にはいまだに謎なままでもあるのです。

★歌は世につれ★

本楽曲がフォーク調である事は、勿論大人の歌手としてシンシアを売って行くためのイメージ戦略ではあると思いますが、ご存知のように同年春に発売された「シクラメンのかほり」が大ヒットしている事からも、当時の歌謡界の大きな潮流に乗せたと言う側面もあるかと思います。

★楽典過信は禁物★

仕事の局面ではマズいのですが(笑)音楽については好き嫌いが全てであるのは当然の事で、私も良い悪いを論じるつもりはありません。先のコメントのような整理をしておくと、新しい物に接した時や創作する時に自分が好きな理由や嫌いな理由が分かり易いかなと思っているのです。

水谷公生氏の著書にもあるように音楽は「鳴らしてカッコ良ければそれが正義」なのであって、知識が感性より優先される事があってはいけないと思います。

※先のコメントで言うとイントロ最後の「Bm7>E7」は楽典的に見れば「普通」なのですが、イントロ頭で E7 に対するセカンダリードミナントとして使われる事を期待させる B7 を出しておきながら Am に戻しちゃう辺りがいかにも水谷氏らしいと思います。

知識はあくまで「道具箱」であると割り切ってしまう事が肝要かと考えます。
_
by もっふん (2018-11-18 03:41) 

ぽぽんた

もっふんさん、こんばんは! またまたお返事が目一杯遅れてしまい申し訳ありません。

一応書物などでプロデューサーの仕事、ディレクターの仕事…など読んだ事はあるのですが、
私は今もってそう呼ばれる方達が作品についてどれくらい踏み込める権限があるのかなど、
わからない事だらけです。
恐らく明確なラインなどはなくて臨機応変に…と言う部分も多いのだろうと言う事は、
企業に勤めた経験のある人ならば何となく理解できる気がしますし、
現場の人間でない限り、詳しく知る事も難しいでしょうし、その必要もない、
かも知れませんね。

「人恋しくて」の担当プロデューサーが村上氏であるとの事は、南沙織さんを直接
ディレクションしていた人が語った事であり、酒井氏はそのさらに上から総括する、
そんな感じだったのでは、と思います。
そう考えると、現場の人のそれぞれの役割から見えてくる「プロデューサー」が誰かが
違ってきても不思議でない、そんな感じなのでしょうか。

ミックスなどではプロデューサーは当然として、もし何らかのタイアップ曲ならば
その企業の担当者、プロダクションの関係者など、外部の人も加わって意見を出し合う、
などと言う事もあるようですし、そう考えるとエンジニアは言われるままに音を作る
事に徹していたのだろうと思います。
今はレコーディング自体が職人的な技術を必要とされる時代ではなく、
その分、曲を作る人が最終的な音まで作る事が珍しくないので、
その過程で外部の人とコミュニケーションをとる事が減ってきて、
その結果、音楽自体に広がりがなくなってきた、と言った話を何かで読みましたが、
そうなるとますます、プロデューサー、ディレクターと呼ばれる人の仕事って一体何だろう?
と思ってしまいますね。

ご存知のように私も曲を書いたり音を作ったりしていますが、どうも楽典、理論本
とかは苦手、と言うか、読み出すとその内容に縛られてしまう気がして、
殆ど読まないんです。 そういった関係で読むのは実践的なアレンジ関係のものだけ
と言ってもいいです。
聴いて不自然でなければいい、と思っているので、例えば「月のあかり」とか最近の
「リーマン」など、ひょっとしたらとんでもない転調の仕方をしているのでは、
とふと思う事もあります(^^;)
ただ、理論を知らずに作ったとしても、後で調べてみるとちゃんと理にかなっている
と言うのが「不自然に聞こえない」の理由だったりする事が殆どなわけで(ややこしい)、
そう思うとやはり、理論はきちんと勉強する方が、後々数をこなす必要が生じた時などに
有利なのだろうか…とも思う今日この頃です。

by ぽぽんた (2018-11-23 22:56) 

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