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夜明けの夢 / 和田アキ子

アイドル時代の最後のヒット曲、かな:

夜明けの夢.jpg

チャートアクション

「夜明けの夢」は和田アキ子さんの10枚目のシングルとして1971年12月に発売され、
オリコンシングルチャート最高10位(翌年2月7日付)、同100位内に17週ランクインし
16.2万枚の売り上げを記録しています。

以前も触れましたが、和田アキ子さんの楽曲でこれまでオリコンで10位内に入ったのは
「天使になれない」(1971年6月発売、最高8位)とこの曲だけです。

この曲には、B面の「翼もないのに~ジャンプ・アップ・アコのテーマ」と共に
デビュー3周年記念キャンペーンの意味合いがあったようで、
歌詞に和田アキ子さんの当時の愛称「アコ」が組み込まれている(サビの♪ああ この恋…♪)
事も含め、アイドル的な人気も最高潮であった事が伺われます。

この曲以降は、次に発売された「あの鐘を鳴らすのはあなた」、人気テレビ番組だった
「金曜10時うわさのチャンネル!」で毎週のように歌われていた「古い日記」、
さらに数年後に発売され名曲の誉れ高い「コーラス・ガール」など、
記憶に残る曲はいくつか発売しているものの、それぞれのオリコン最高位だけを見ると
「あの鐘…」が53位、「古い日記」が44位、「コーラス・ガール」に至っては100位圏外と、
不思議なほどチャート関係では奮わなかったんですね。


作家について

作詞はデビュー曲「星空の孤独」を手掛け、その後も「その時わたしに何が起こったの?」
「笑って許して」「貴方をひとりじめ」「卒業させてよ」「天使になれない」と、
次々に和田アキ子さんの楽曲を手掛けた阿久悠氏。

作曲・編曲は都倉俊一氏で、編曲まで手掛けたヒットシングルは井上順之(現・井上順)さんの
「昨日・今日・明日」(1971年6月発売)に次いで2枚目となります。

都倉俊一氏は当時まだ23歳であり、ベテラン揃いだった当時の作家群の中では大変若く、
その中で編曲まで任せられたのは異例の早さであったと言えます。
しかしレコーディングに参加するミュージシャンは手練れ揃いですから、
この若いアレンジャーの指示をどれほど聞き入れたでしょうか(^^;)


楽曲について

リズムは終始速めの2ビートと珍しいパターンで、リズム隊だけに集中すると
ハチャトゥリアン作曲「剣の舞」のようです(^^;)

キーは Eマイナー(ホ短調)で、転調はありません。
コード進行と歌メロは極めてシンプルで、テンションコード等は全くありません。

驚くことに、歌メロの音域が下の A から上の A までの1オクターブしかありません。
和田アキ子さんにとっては、難曲だった「涙の誓い」の次の曲と言う事もあり
物足りない曲であったかも知れませんね。

但し、サビの終わり ♪命まで 燃やしたけれど♪ の「ど」の音は、
そのキーの音階でのソ#であり、歌うにはとりにくい音です。 そこで、
ストリングスがその箇所で同じ音を出してサポートしているのが興味深い点の一つです。

今回も楽譜を作成しましたので、参照して下さい(画像上クリックで大きく開きます):
夜明けの夢score.jpg

構成は単純な2ハーフ。
1コーラス目が終わってまたイントロからやり直すような作りで、それは
数年後にデビューしたピンク・レディーの「ペッパー警部」「S・O・S」などに
引き継がれています。

楽曲全体がマイナー調でコーダがメジャーコードで締めくくられるのは、この時代だと
「雨のバラード」(湯原昌幸)等、多くの楽曲で耳にする一つのパターンです。

メジャー調の楽曲では、その曲のⅠのコードを素直にトライアド(3和音)にして
スッキリと終わらせる事が多いのですが、
マイナー調の楽曲は「夜明けの夢」のようなパターン、または6thや9thを加えて
「まだ続きがありますよ」とでも言いたげな曖昧な響きで終わらせるパターンなどがあり、
色々な演出を入れるにはメジャー調よりもマイナー調の方が有利なのかも知れません。


アレンジについて

テレビでこの曲が歌われた時にはかなり派手な演奏でしたが、
レコードでの演奏はリズム隊が必死にパターンをキープしている上で
ブラスやピアノ、ギター等が控えめに使われ、その対比が面白い一曲です。

独特の駆け上がりを駆使させる都倉氏独特のストリングスはこの曲でも聴かれます。
この曲でのストリングスはボーカルに対しての準主役的な位置付けと思われ、
特にサビ(♪ああこの恋…♪)ではボーカルを引き立てると言うよりも
ボーカルと対等に、派手に裏メロを聴かせているように感じられます。

この曲に限らず、都倉氏のアレンジでストリングスが派手に動く曲が多いのは、
自身が幼少時代からバイオリンに親しんでいた事によるものでしょう。


右から終始裏拍を叩くタンバリンが聴かれますが、この演奏は単純ながら
非常に根気が必要で、また正確さを保つのが困難であるはずです。

「夜明け」をイメージさせるようなホルンの使い方、徐々に目覚める意識を表現するような
ブラスの使い方など、シンプルなメロディーをドラマティックに聴かせる
工夫がちりばめられたアレンジなんですね。


サウンドについて

オケは2チャンネルの全楽器同時録音と思われます。

ドラムスの存在感が大切に収録されているようで、スネアドラムはいわゆる胴鳴りも
クリアに捉えられています。

ストリングスはかなりマイクを楽器に近づけているようで、
弓で弦をこする、また弓を切り返す音も感じられます。

ボーカルにはかなり長い遅延時間の、一発限りのエコーがかけられ、
「夜明けの夢」のイメージをよりふくらませる効果を発揮しています。


ではここで本物の音を聴いてみましょう。 2コーラス目はオリジナル・カラオケです:
(次回更新時に削除します)


付記

1971年は和田アキ子さんがアイドルとして最も成功した1年でしたが、
それと共に音楽的にはそれまでの「R&Bの女王」の称号がどこかに行ってしまったような、
一般的な歌謡曲にシフトした感があります(「天使になれない」は例外ですが)。


つい最近、かなり前に録画しておいた歌謡番組の映像を観る機会があって、
その中にこの「夜明けの夢」もあったんです。

1972年2月の映像ですから、この曲が最も売れていた時期のもので、
和田アキ子さんが若い、若い(^^)

そして若いだけでなく、ものすごく勢いのある歌唱なんです。
弘田三枝子さんの影響と思われる、ア行の音にHを加える発音が顕著です(^^)

しかし和田アキ子さんの歌唱の特徴は何と言っても、あの周期が速く振幅の大きいビブラートです。
その映像は生放送のものだったのですが、レコードでの歌唱の何倍も生き生きとしており、
そのビブラートに伴う倍音成分もビンビン聞こえてきて、「若い声のエネルギーは凄まじい」
などと、つくづく感心してしまいました。
当時小学4年だった私の心をとらえたのは、そんな歌声だったんですね、きっと。

私はそんな「アコ」のファンでした。

「アッコ」と呼ばれるようになってからはどうも、ファンが望む歌手・和田アキ子とは
違う方向に行ってしまい、それに本人も満足して歩みが止まってしまったように見えます。

歌以外で話題になる事の方が多いのは、大衆にもそう感じさせているからでしょう。
今や、和田アキ子さんが歌手である事があまり認識されていない気がするんです。

私のような元・ファンからすると、そろそろ気持ちだけでも「アコ」に戻ってもらい、
昔ヒットし損ねた曲などを丁寧に歌い直してくれる、そんなプロジェクトが企画されても
良い頃では、と思います。


そしてそして、デビューから1973年あたりまでの音源をぜひ、できれば全曲を
ハイレゾにマスタリングして配信して頂きたい!と願っています。


「夜明けの夢」
作詞 : 阿久悠
作曲 : 都倉俊一
編曲 : 都倉俊一
レコード会社 : ビクター(RCAレーベル)
レコード番号 : JRT-1206
初発売 : 1971年12月5日

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widol

ぽぽんたさん、こんばんは。

「涙の誓い」の時もそうだったのですが、この曲もヒット曲なのに、知りませんでした。
パワフルな歌謡曲ですね。かっこいいという表現が一番かもしれません。この時期の歌い方が自分も一番好きです。
BOX収録のオリジナルカラオケも聴いてみましたが、リズムが必死についていこう、感はありますね。でも、ギターといい、なかなかかっこいい音を聴かせていますね。個人的にはこういうサウンドは好きです。似たような曲をどこかで聴いたような感じもします。。。思い出せませんが。。

気に入りました、この曲。ありがとうございます。
by widol (2015-11-25 19:07) 

ぽぽんた

widolさん、こんばんは! こちらこそ、読んで下さってありがとうございます。

そうですね、和田アキ子さんのオフィシャルHPにあるディスコグラフィを見ても、
この曲について本人(かどうかちょっと怪しいですが)が「すごくヒットしたのに意外と
知られていない曲」と書いているくらいで、確かにあまり知られてはいないようですね。

記事に書いたように、この曲は都倉さんが23歳の時の作品なのですが、
アレンジにも妙な力みも感じられず、しかし出したい音を出していると言った感じで、
当時よりも今聴く方がインパクトがあるかも知れませんね。
ただ「昨日・今日・明日」がもろ「オブラディ・オブラダだ」と言われるように、
「夜明けの夢」も洋楽のヒット曲(私もわかりませんが)からアイディアを得ている
可能性は高いと思います。

和田アキ子さんの初期の曲は素晴らしい作りのものが多いので、ボックスセットを
お持ちのようですし、ぜひ聴き返してみる事をお勧めします(^^)

by ぽぽんた (2015-11-25 23:02) 

青大将

こんばんは。

このレコード、もう何年振りかに聴きました。 改めて聴くと、何だか物足りないイントロだな、という感想を持ちました。
残念感が残るのは拭えませんけど、よくよく考えると、歌番組全盛期の中、コンパクトにまとめ易いというか、時間の都合上、手を加えてアレンジされたりするより
最初からこうだと手の加え様が無く、ファンにすればストレートにオリジナルが聴けるわけなんですね。
ただ、上手や下手、ステージ中央の階段の上などからの登場は難しいですね。最初からステージ中央に居るか、出演者席から司会者に送り出されて中央に立った所を見計らって音を出して貰うかしないと、上手く歌い出せない気がします。 あ、だけど出演者席から歌いながらステージ中央に向かうパターンもアリか。(^^;

歌い方は言葉を区切ってメリハリをつけてますね。 しかし、♪かなしひぃーわ~♪が矢張り耳に残ります。(^^;
同じ年の阿久悠/都倉俊一コンビ作品の井上順之『涙』とリズム等共通項が見受けられますが、そういやこの曲もマイナー調からメジャーコードで締めくくられてたと思います。

その録画番組、俺もかつて録画して観た気がします。 パンタロンスーツの衣裳に身を包み、サビの♪あーこの恋 やがては終わる~♪で片手を上に挙げて軽く廻す振り付けが有ったのを覚えてます。 ぽぽんた少年はかつてこの和田アキ子に魅了されてたわけなんですね。 小柳ルミ子や南沙織、そして欧陽菲菲を横目で見ながら。(笑)


ところで、この前の土曜日の昼、此方のラジオ局の番組で和田アキ子のちょっとした特集を組んでました。
と、言っても過去のヒット曲集ではなく、現在発売中のnewアルバム『WADA SOUL』から何曲かを紹介する特集。

正直、驚きました。 素晴らしいボーカル!!思わず「え!?これ、昔のボーカルでしょ?」と見まごうほどの出来。(「ダンス・ウィズ・ミー・トィナイト」なるタイトルの曲が在り、確か76年頃そんなタイトルのシングルが在ったよなと、咄嗟に思って調べたら「ダンス・ウィズ・ミー」だった(^^;)
まだまだ凄い実力を秘めて居る様です。 パーソナリティも、「《若い世代が動画サイト等で聴いて、和田アキ子って、凄く歌上手いな》と感じる人が増えている」みたいな事言ってたし。

ただ惜しい、と言うか腹立たしいのは、和田アキ子自身の言動の数々。 自身の看板番組(テレビ)でくだらない事ばかり喋って世間から顰蹙を買い、最近では専ら
そちらの話題オンリー。 紅白出場も裏の政治的な根回しが暴露され、決して歓迎されない状況の渦中の人。
今回の記事の最後にぽぽんたさんの書かれた、過去の曲の歌い直し・見直しは大いに賛成です。ただ俺は、ぽぽんたさんの73年より3年足して76年ぐらい迄の作品を
希望します。(^^)
「見えない世界」「もっと自由に-SET ME FREE-」「美しき誤解」「雨のサタデー」、そして意表を突いて「晴れのち曇り」等々・・・・・。
柳ジョージの「ひとり酔い」、浜田省吾の必殺主題歌「愛して」も格好良いナンバーでした。(この2曲はシングル・カップリングでもありました。)



by 青大将 (2015-12-01 22:22) 

ぽぽんた

青大将さん、こんばんは!

当時、和田アキ子さんのレコードは新曲が出るたびにすぐに買っていたので、
この曲もテレビで聴いてすぐに買いに行った記憶があるのですが、
仰るように、レコードだと何か物足りない感じが当時もしていました。
もしかしたら、その大きな要因はテンポかも知れません。
本当はテレビの方が速過ぎるのでしょうが、レコードの方はちょっとモタッとしてる気が…。
それとやはり、確かにイントロが短すぎるかな… 当時23歳だった都倉さんも、
きっとプロデューサーやディレクターにああだこうだ言われながら奮闘したのでしょうね。

お、好きです「涙」! なぜかこの曲、「ゴールデン歌謡速報」で10位に入ったり
出たりと言うイメージがとても残っていて(^^;) でも曲自体、大好きでした。
ストリングスがクルクル動くのは都倉さんの独壇場ですね(^^)
井上順之(順)さんのボーカルはいつも2重録音ですが、これは歌唱力をカバーするため、
と当時も言われていたようです(^^;)

そうそう、和田アキ子さんと言えばパンタロンスーツですね。 スカートなんてとんでもない(^^;)
つけまつげが重いのかいつも半眼で歌う顔は好きでしたし、当時のメイクってみな
ケバくて、今ではそれが結構好きだったりして…何を言ってるんだ俺は(^^;)

でも当時は(今も?)気が多かったので、列挙して頂いたその女性歌手群、さらには
由紀さおりさんや小山ルミさん、奥村チヨさんに小川知子さん、渚ゆう子さんに
ちょっと年増の坂本スミ子さん…と、テレビに出て来ると夢中で観てました(^^)v

その新しいアルバム、知りませんでした。 そんなにまだ、歌えるんですか!?
それは大きなニュースですね。
和田さんは歌手なんだから、それに専念すればいいのに…といつも思います。
ぜひ聴いてみたいと思います。 知らせて下さってありがとうございます!

私はこの記事を書く時、仰るように和田さんは今、何かと悪い話題が多いので、
あまり読んでもらえないだろうな、とは思っていました。
なので、曲も知られていないと思ったので、違法覚悟で音源も付けました。
正直なところ、私も今の、そんな和田アキ子さんは好きではありません。

確かに1975年以降の曲にも良い曲、沢山ありますね!
夜ヒットで何度も歌われた「雨のサタデー」、細野晴臣節炸裂の「見えない世界」、
ちょっと戻ると「美しい誤解」もいいかも…。
「晴れのち曇り」は大好きなのですが、知り合いなどがいる時にこの曲が流れると
私が絶対に笑われます…理由はここでは書けませんが(^_^;)

でももしかすると、一番好きで「これ、書きたい」と思うのは「Shut Up!」かな(^^)

by ぽぽんた (2015-12-02 18:43) 

もとまろ

ぽぽんたさん、こんばんは。
アッコさんの「夜明けの夢」についても書きたくなりました。おじゃまします。

これも20歳前後にラジオ番組で知りました。福岡のラジオでベストテンに入っていたそうです。
何というか…ものまねで歌うにはインパクト薄いし、今のイメージより遠いな~と。アッコさんの幸薄い感じ、その中の可愛らしさが感じられます。こんな歌もあるんだ…と、覚えた当時はそこが新鮮でした。
若いとき「アコ」と呼ばれていたのは何かの阿久悠先生のコメントで聞いたことがありましたが、歌詞の「ああ この恋」に「アコ」が紛れてるのは気づきませんでした。

次が「あの鐘を鳴らすのはあなた」ですが、阿久悠先生がアッコさんにこんなことを考えていたそうです。
「ずっと、和田アキ子を小さく見せる歌を書いてきたので、この歌で体格そのままの大きく見せる歌を書こうと思った」
確かに、「夜明けの夢」のアッコさんは、特に小さく見える気がします。
by もとまろ (2016-09-04 23:18) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは! お返事が遅くなり申し訳ありません。

確かに今聴くと、よくこんな地味な曲をシングルとして出してそれなりにヒットしたものだ、
とちょっと思ってしまいます。 当時は和田アキ子さんは確かにアイドルだったので、
その勢いだったんだろうな、と思います。
記事にも書きましたが、テレビでは派手なアレンジで歌われる事が多かったので、
レコードを買って聴いた時にちょっとガッカリしたような記憶があります。
「アコの恋」については、当時デビュー3周年で「ジャンプ・アップ・アコ」をテーマに
キャンペーンをしていた事も関わっていると思います。
「8時だヨ!全員集合」での歌唱シーンはレコードのそれよりもうんと魅力的なんですよ(^^)

by ぽぽんた (2016-09-07 22:57) 

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