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あなたへの愛 / 沢田研二

英語の副題は「Love for you」です:

あなたへの愛.jpg

「あなたへの愛」は沢田研二さんがソロとして5枚目に発表したシングルで、
1973年の元旦に発売されオリコン最高6位、同100位内に19週で22.5万枚の
売り上げを記録するヒットとなりました。


それまでの沢田さんのシングルは、「許されない愛」「あなただけでいい」
「死んでもいい」とバラードのようなロックが続き、また歌詞の面からしても
小学生だった私にはちょっとキツイものがあったのですが(^^;)、
「あなたへの愛」はそのタイトルからして穏やかで、曲調もそれまでとは
全く違うソフトなものだったので、大好きでした(^^)


その分、より歌謡曲っぽい音楽になったのは確かなのですが、曲とアレンジ、
それにミックスを分析してみると「ただの歌謡曲にはしないぞ!」と
主張しているようなポイントがいくつもあるんですね。


まず構成ですが、普通の2ハーフです。
しかし2番目が終わると1度上に転調しています。
半音上がる転調をする曲はそれこそ無数に存在しますが、
いきなり1度上がる転調は珍しいんですね(^^)


作曲は元ワイルド・ワンズの加瀬邦彦氏。
メロディーは美しく、歌詞とぴったりと調和しています。
歌い終わりが「ド」ではなく「ソ」であるのが変わっています。


特筆すべきはコード進行なんです。

1番、2番それぞれの構成は A・A'・B・B' と至ってシンプルなのですが、
A ではコードが G・Am・C・D7・Am・D7sus4・D7… と進行するのに対し、
A' ではコードが G・C・Am・D7・Am・D7sus4・D7… と進行するんです。
つまり、A と A' とで、Am と C が入れ替わるんですね。
そのようにした意図は不明ですが、流れがあまりに自然なので、
意識していないと聞き逃してしまいます。

間奏では G・C/G・F・C・D7sus4・D7・G…と進行し、その中の
F が平凡に流れがちな空気を入れ換えるような役目を果たしてますね。
その直前では G → C/G とベースを保ったままコードを変えて、
次のコードへのスムーズな移行と洋楽っぽい洒落た雰囲気を作っています。


アレンジは沢田さんの初期の楽曲を多く担当した東海林修氏です。
「あなたへの愛」では、それまでのバンド然とした音作りに
よりバラードっぽくなる、と言うよりもロック臭さを抑えるような
要素を加える形になっています。

まずイントロのメロディーと歌の裏メロを担当するオルガン。
この音、ギターにも聞こえるのですが、音程の変化が階段状である事、
時々半音で2音重ねて滲ませた音を使っている事でオルガン、
それもロータリースピーカーを通したハモンドオルガンでは、と思います。

そして A' から入ってくる混声コーラス。
優しく全体を盛り上げている感じですが、最後の部分ではその中の一人なのか、
ハイAのロングトーンで曲をドラマティックに締めくくってくれています。

そしてそれとほぼ同時に入ってくる、夜明けのようなブラス。 
これはホルンから始まり、やがてトランペットが加わる…ように聞こえるのですが、
通常ポップスのブラスセクションではホルンは使われないので、
ホルンに聞こえるのはトロンボーンでしょう。

コードストローク担当のアコギが1本使われていますが、それとベースが
全体のコード感を支えています。

そして極めつけはティンパニですね(^^)
バラードらしからぬ楽器の選択ですが、流れが良すぎてうっかりすると
聞き流しそうになるサウンドであるために、アクセントが必要であると
判断されたのかも知れません。

ティンパニはその音の存在感から歌謡曲にしばしば起用され、
有名なところではザ・ピーナッツの「恋のフーガ」、山口百恵さんの
「ちっぽけな感傷」などで聴く事ができますね(^^)

また、ティンパニは音程を持つ打楽器でもあり、「あなたへの愛」でも
エンディングでは A にチューニングされている事がわかります。


ミックスはまずドラムスとコーラスを左右に広げ、オルガンとアコギは右に、
ブラスとストリングスを左にまとめると言った感じで、
かなり変則的と言って良いと思います。
ごく普通のミックスでは、オルガンが中央でアコギは左右のどちらか、
ブラスは左で良いとしてストリングスは左右に広げるか、ブラスとは反対側に
定位させる…はずなんですね(^^)

ロックでは歌詞が聞き取れないのは多少大目に見られるものですが、
バラードでは歌詞の内容が完全に聞き取れる事が第一なので、
沢田さんのヴォーカルにかぶらないように配慮されたミックスなのでしょう。

最後の最後でベースをブーンとブーストしているのがユニークですね(^^)


そして安井かずみさんの、多くの言葉を使わないのに
情感が伝わってくるような歌詞も素晴らしいですね(^^)


この当時の沢田研二さんのヴォーカルは、「勝手にしやがれ」あたりとは
発声が全く違って「のど声」に近いんですね。
決して正統的な歌唱法ではないのですが、どこか毒気のようなものがあって
一等賞獲りまくり時代の沢田さんとはまた違った魅力がある
…と大人になってから気付きました(^^;)


1973年2月オンエア。


「あなたへの愛」
作詞 : 安井かずみ
作曲 : 加瀬邦彦
編曲 : 東海林修
レコード会社 : ポリドール
初発売 : 1973年1月1日(1972年12月21日説もあります)

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ゆうのすけ

この頃の 沢田研二さんの作品って 奥行きのある立体的な 作品が多いな~って感じがするんですが 私だけでしょうかね?^^;
「許されない愛」の センターあたりを中心に ぐるぐる回るようなアレンジと言い!^^ 私にとって ”ざ・歌謡曲”って 感じでとっても好きです。

沢田さんの歌唱は 勿論素敵なんですが 時代的にもアレンジが 斬新で挑戦的でしたよね!^^にゃはは
by ゆうのすけ (2011-01-30 20:55) 

卓

ぽぽんたさん、こんばんは。
姉がジュリーの大ファンでしたので(現在も)、タイガース時代からのレコードがまだ実家に残っています。祖父が姉を第二の美空ひばりにすると言って、色々な歌謡曲を聞かせていたようですが、残念ながら祖父の夢は叶いませんでした(笑)。姉はジュリーの甘い声色とその容姿に完全にハマっておりましたから・・・。
この曲も当時の生歌を姉と何度もテレビで聴いた記憶があるのですが、正確なメロディーが浮かんできませんでした。今この曲(歌入り)を聴いて、メロディーラインを納得したところです(^_^;)
ただ私が幼かった頃の曲は、どの曲も何となく印象が残っていますが、今の幼い子達が今の曲を聴いて、私達(←含めてすみません!)の年代になった時に、当時の曲の印象が残っているか疑問に思います。
最後に、タイガース時代の沢田研二さんの歌はあまりお上手ではなかったと思いますが、ソロになられてから確実に上手くなられてますよね?

by (2011-01-30 22:14) 

ぽぽんた

ゆうのすけさん、こんにちは!

この時代における沢田さんの作品の質の高さは、曲の良さも勿論ですが、本文でも触れた
東海林修氏の功績が大きいと思うんです。 森岡賢一郎氏等と共に渡辺プロの楽曲を
支えたアレンジャーですが、ご自身がジャズプレーヤーであるためか、同じ歌謡曲でも
どこかひと味違う気がするんですね。 しかも作品ごとにアプローチが異なるので、
どの作品にも強い個性があるんですね。

by ぽぽんた (2011-01-31 10:56) 

ぽぽんた

卓さん、こんにちは!

卓さんのお姉様のようなファンの人は日本中に数多く存在したようです(^^)
沢田さんは生まれつき、人を惹きつける魅力を持っておられたのでしょうね。

「あなたへの愛」はヒットの大きさに比べ、確かに知名度は高くないかも知れません。
派手さがないからだと思いますが、その分飽きもこないですよね。

私もよく同じ事を考えるのですが、恐らく我々が子供だった頃、その頃の流行歌を
耳にした大人は同じ事を考えていたかも、とも思うんです。 こんな曲、すぐ廃れるよ、
と言った感じでしょうか。 ただ、当時は何かヒットするとそれこそ年代に関係なく
浸透したのに対し、現在オリコンにランクされる音楽は限られた年代の人しか知らない
ですよね。 なので国民的と言うレベルで定着する曲は、あまりないかも知れません、

沢田さんのヴォーカルは、ソロになってからもしばらくは「バンドのヴォーカリスト」と言う
感じで線が細いイメージが抜けませんでしたが、1974年夏の「追憶」あたりから
声も徐々に太くなり、安定したものになっていった気がします。 そして「時の過ぎゆく
ままに」あたりでほぼ、現在に続くスタイルを確立したのではないでしょうか。

by ぽぽんた (2011-01-31 11:10) 

青大将

73年の元旦に発売されたという事は、 『あの鐘を鳴らすのはあなた』で最優秀歌唱賞を受賞した和田アキ子が、気が動転してジュリーの手を引っ張ってステージ迄引き連れて行った翌日ですね。最優秀は逃したものの、ジュリーも歌唱賞を獲ってた様で、 このシングル・ジャケット右上に目立たないけれど、【日本レコード大賞 歌唱賞受賞】の表記があります。このジャケットは一見すると相当地味ですが、ジュリーの顔の部分の深い黒が光沢のある別の素材で仕上げられてて、 実に凝った作り。 タイトル文字を見えづらくしてるのも、其れを際立たせる為の意図的な配慮に思え、とてもセンスを感じます。もしかすると、ロック系洋楽ジャケの影響かも知れません。 曲の内容・作り方同様、ジャケットひとつ取っても格好良く、他の歌手達よりリードしてる印象があります。 それと、同時期の『カリフォルニアの青い空』(アルバート・ハモンド)と、この『あなたへの愛』は昔から、白い雲が適度に散らばるソフトな青空の画像が浮かびます。 時間帯的には、午後2時から3時くらいのイメージです。(^^)開放的ですよね、両者共。 ティンパニは、その響き方から、曲を引き締める効果も有ると思います。 (^O^)/
by 青大将 (2011-02-04 15:18) 

ぽぽんた

青大将さん、こんばんは!

そのレコ大のシーン、私もリアルタイムで観てました(^^) その頃私は和田アキ子さんの
ファンだったので、心の中で「アコさんが獲るように…」と念じていたら本当に
最優秀歌唱賞を受賞したので、自分でも驚きました。 「あの鐘…」はヒットとしては
小さかったですしね。 沢田さんを引っ張っている和田さんは本当に愉快でしたが、
ステージに上がってから古賀政男さんが和田さんに「涙を拭いて!」とこわごわ
仰ってたのが印象的でした(^^)

大晦日ではなくて12月中頃だったかな?に行われた部門賞の発表で、沢田さんは
「許されない愛」で歌唱賞を受賞したんですね。

本当に凝った感じのジャケ写ですね。 この頃の、レコード会社の沢田さんに対する
期待の大きさの表れでしょうか。 ただ使われている画像が「死んでもいい」と
同じなんですね。 その前の「あなだだけでいい」のジャケ写はそのまた前の
「許されない愛」と同じ画像を使っているし、その辺の事情も知りたい気がします(^^;)

「あなたへの愛」は本当に曲の感じが開放感に満ちている感じがしますね。
私は「カリフォルニアの青い空」を聴くとどうしても堺正章さんの「さらば恋人」を
思い出してしまいます(^^;) その2つでは「さらば恋人」の方が先発なので、
決してパクリではないんですね。 「カリフォルニア…」はシンシアもカバーしていますが、
やはりカバーという感じでアルバート・ハモンドの歌の開放感には敵わない感じです。
因みにアルバートはカーペンターズの「青春の輝き」の作者の一人でもありますし、
日本だけでヒットした「落葉のコンチェルト」のようなひどくセンチメンタルな曲も
書く、当時では重要なシンガーソングライターでしたね(^^)

by ぽぽんた (2011-02-05 23:10) 

青大将

再びこんにちは。 レコ大で思い出しましたが、 あの当時、元旦の朝7時から『おめでとう!日本レコード大賞』という生放送が在り、昨夜の受賞者達が晴れ着姿などで出演し、VTRを流し乍ら受賞曲や新曲を披露してました。 73年元旦の放送はよく憶えてて、最優秀新人賞の麻丘めぐみが晴れ着姿で『悲しみよこんにちは』を歌うのを、お雑煮食べながら観てた記憶がはっきり有ります。(^^) この曲の歌唱シーンを観たのは、俺はこの時が唯一ですね。 ジュリーも出演して居たとすると、発売日に『あなたへの愛』を披露した確率高いです。 我が鹿児島市の天気はこの日、曇りだった事迄、覚えてますよ。 『さらば恋人』は俺の場合、その前年の西郷輝彦『こわれた風』という曲(「真夏のあらし」B面)の冒頭♪こわれた風が~ のメロが、何処となく♪さよならと書いた~ のメロを速めた様に聴こえてます。 『カリフォルニアの青い空』も納得です。(^O^) 沢田研二ジャケ写使い回しは俺もずっと気になってました、謎ですよね~。(笑)アルバート・ハモンドは『カリフォルニア~』しか知りませんでしたが、カーペンターズの、その楽曲などを手掛けてた事は今回初めて知りました。 ホント、良いブログだと思います。今更乍ら。(笑) それと、今回また、ぽぽんたさんのアコ ファンぶりを再認識させられました。(^^)
by 青大将 (2011-02-06 13:02) 

ぽぽんた

青大将さん、こんばんは!

そうそう、そんな番組をやっていましたね(^^) 私もその時観ていたと思うのですが、
その時って私の記憶では「悲しみよこんにちは」ではなくて、もうすぐ発売されます!
ってなノリで「女の子なんだもん」を歌ったと思ってました。 全く自信はありませんが(^^;)

実のところ、今日の更新は「悲しみよこんにちは」に決めていたので、青大将さんからの
コメントを読んでドッキリでした(^_^;)

「さらば恋人」はサビ以外は、ピアノの黒鍵だけで弾ける(=47抜き、って事ですね)と
いう事でも有名だったりします(^^)

「青春の輝き」は、メロディーがリチャード・カーペンターとアルバート・ハモンドとで
パッチワーク的に作られているんです。 曲のクレジットにもしっかり、アルバートの
名が入ってます(^^) 参考にして頂けたようで嬉しいです。

そうですねぇ、この当時のアコさんが一番好きだったかな(^^)

by ぽぽんた (2011-02-06 20:31) 

hiromi

ジュリー大好き☆今年もがんばってください!!
by hiromi (2011-02-07 11:48) 

よっし

初めましてこんばんは!
ジュリーの歌い方について調べていたら
たどり着きました
やはり沢田研二さんは、何度か歌唱法を
変えられているんでしょうか?
by よっし (2014-06-07 00:50) 

ぽぽんた

よっしさん、初めまして! コメントをありがとうございます。

私が知る限り、沢田研二さんは1975年の「時の過ぎゆくままに」あたりで
かなり歌い方が変化したように思います。 発声が変わって太い声になりましたし、
情感が豊かになったような気がするんです。

後は、歌唱法が変わったと言うよりも楽曲の幅広さが増して、それに対応した
歌い方をしていたと言う事だと思います。

これからもよろしくお願い致します!

by ぽぽんた (2014-06-08 22:33) 

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