SSブログ

聖母たちのララバイ / 岩崎宏美

このブログでは今さら感満点の選曲ですが…

聖母たちのララバイジャケ.jpg

この曲の登場の成りゆきはあまりに有名なので省略しますね。
しかし「火サス」でカセットテープのプレゼントを打ったところ35万通の応募があった、
それも当時はネットなどなくはがきでの応募だった事を思うと、
はがきの代金や手間をかけてもフルで聴いてみたいと思う人をそこまで増加させたのは、
歌唱を含めた楽曲自体のパワーがとてつもなかった…と言う事ですね。

個人的な見解ですが、岩崎宏美さんのファンの間では、「聖母…」が一番好き、
この曲が最高傑作だ…と思う人はそうはいないと思うんです。
それでもあれほどの大ヒットになった(オリコン最高1位、4週連続、80万枚)のは、
むしろ宏美ファン以外から大きく支持された楽曲だったと言うこと。
歌手からすると、それはとても価値のあるヒットだったのではないでしょうか。


作詞は山川啓介氏、作曲・編曲はは木森敏之氏。
両者にとって、この「聖母たちのララバイ」は最大のヒット曲なんですね。
作曲についてはイギリスの作曲家、John Scott氏から部分的な盗作との指摘を受け、
それを木森氏が認めたために、クレジットの上では両氏の共作となっています。


歌詞の内容からすると、「聖母たち」と複数で表現されたタイトルであるのは違和感を覚えますが、
つまりは聖母マリアに通じるような母性を持ち、相手の男性を見守る女性がこの世界のどこにもいる
と言いたいのだな…と解釈できると思うのですが、どうでしょう。
この曲を支持したのは、もしかするとそれを信じたい男性が多かったのかも知れませんね。


曲の構成はA・A'・B、A'・B、そしてBの最後のフレーズを一度繰り返し…の、やや変則的な作りです。
8ビートを基本としたバラードロックとも呼べそうなリズムですが、
Bメロ(サビですね)の終わり ♪(小さな)子供の昔に帰って 熱い胸に…♪ では岩崎宏美さんらしい、
16ビートで畳み掛けるようなメロディーで大いに盛り上がってから収束します。

Aメロはコードをアルペジオにしてそのままメロディーの軸にしたような作りで、
「しあわせ芝居」(桜田淳子)と同じ構造です。
こういった曲はキーボードやギターでメロディーを弾く分にはわかりやすいのですが、
歌うにはリズム感と音程の正確さが露呈する事になるため、難易度は大変高いと思います。

BメロはAメロのようなメカニックさは抑えめでスムーズな音使いですが、
♪この~まちは♪♪せんじょう~だから♪…と高め→低めを繰り返す動きも採り入れられ、
曲のドラマティックさが最優先で、歌手には音程や音量を細かく操作する高い技術を求めてしまう
作りと言っていいと思います。


原曲(レコード化された音源)のキーは Bマイナー(ロ短調)ですが、
当時から、テレビ等で演奏される時は例外なく、それより半音低い B♭マイナー(変ロ短調)でした。
それは、原曲のままだとメロディーの最高音はハイDに達し(Bメロの ♪熱い胸に…♪ の「ね」)、
当時の岩崎宏美さんが地声で出せるギリギリの高さだったため、
テレビ出演などで何度も歌うことになると喉への負担が大きすぎる故の対策だったのでしょう。

ただ、レコード音源を聴くと、声質がやや幼い感じを受けるのが私には以前から気になっていまして。
この曲のレコーディングは24トラックのマルチトラックレコーダーが使われたと思われますが、
もしかすると、歌ダビの際にはテープスピードを半音分ほど落として行われたのかも知れません。

1982年の大晦日に放映された「NHK紅白歌合戦」で、岩崎宏美さんはこの曲を歌いました。
しかしその日のコンディションは、少し前から喉を痛めていたために最悪だったようで、
1コーラス目は持ち堪えたものの、2コーラス目の最後ではついに声が大きく荒れてしまいました。
その場面は今ではYouTubeにもアップされていますが、1コーラス目のサビでも音程が上がり切らず、
曲が淡々と進行していく中で宏美さんが「やはり思うように声が出ない…でも乗り切らないと…」
と動揺しているのが手に取るように判り、胸が痛む思いがします。

翌1983年のライブでは、例えば「私たち」のようなハイトーンを求められる曲もこなしていたのですが、
岩崎宏美さんが自身のレパートリーをオリジナルのキーですべて地声で歌えていたのは、
実質的にその年あたりが最後だったようです。


コード進行に関してはごく普通のポップスであり、7thとメジャー7thが多用されている、
sus4が使われていない…あたりが特徴と言えば特徴でしょうか。

それよりもストリングスが全体を支配するようなアレンジであるのが耳に残ります。
特にBメロに入ってからは、歌メロを支えるハーモニーのような動きとなっているのが、
他の曲ではあまり耳にしない手法と言えます。

♪(小さな)子供の昔に帰って 熱い胸に甘えて♪ の部分でのコード進行についてですが、
わかりやすくするためにAmに移調すると、そこのコード進行は
Dm7→Em7→F→Bm7-5→E7→Am となります。

従来だと、Fの次にはB7(Ⅱ7)、そしてE7に流れるのが普通ですが、
ここではそのB7の代わりにそのハーフディミニッシュであるBm7-5が使われ、
それだけで洗練されたような響きとなるのが面白いところです。
試しにそこをB7に入れ替えてキーボードで弾いてみると、確かにちょっとダサく感じます(^^;)
そのようなコード進行は、ニューミュージックの台頭で普及してきたように思います。

逆にここはハーフディミニッシュが来るだろう、と思う所にストレートなⅡ7が入っている例が、
「いい日 旅立ち」(山口百恵)のイントロだったりしますが、
そちらはよくぞ、ストレートにⅡ7を選んでくれました!と称賛したくなるフィット感です(^^)


この曲がヒットした1982年は、コンパクト・ディスクの発売が始まった年です。
私は初めてCDプレーヤーを買ったのが1984年の暮れで、ヤマハのCD-X2なる機種でした。
それから間もなく、すでに岩崎宏美さんの初めてのCD(かな)である「スペシャル・コレクション」、
即ちただのヒット曲寄せ集めと言っていいような内容のベストアルバムを買ったんですね。
hiromi spcl.jpg
そのCDに収められた「聖母たちのララバイ」の、その音には心底びっくりしたものです。
それまでレコードでのこの曲の音は小ぎれいで、それなりに良い音でした。
対して「スペシャル…」の音は、マスターテープの音を整音せずにそのまま入れたような、
粗削りで繊細さに欠けるとも言える、レコードとはまるで違う音だったんです。

しかし、Aメロが終わってドラムスがクレッシェンドでドンドンドン…と徐々にボリュームを増し、
ストリングスとホーンがジャジャジャジャン!とキメる箇所の、何たる迫力!
通常レコードに音楽をカッティングする時、針飛びなどを考慮して音量差を圧縮しますが、
CDはその心配がないので、マスターテープのダイナミックレンジをそのまま生かせるんですね。
私がそのCDで聴いたのはまさにCDの特性をそのまま生かした音だったわけです。

尤も、それから何年かすると音量戦争が始まって、音量差を強制的に縮めた上で
常に大きな音量にするのが主流になって、せっかくのダイナミックレンジが生かされなくなり、
このままCDも終息してしまいそうで残念ですが…。

「スペシャル…」は他の曲でもいかにもマスターテープそのものと言った音でしたが、
「聖母たちのララバイ」の録音・サウンドは特にそれが顕著で、
それまでに感じた事のなかった次元での音楽の楽しみを伝えてくれた、と思っています。


「聖母たちのララバイ」は、シングル用にイントロをやや派手にしたバージョン、
静かなイントロで始まるTVバージョン(アルバム「夕暮れから…ひとり」に収録)がありますが、
歌部分のアレンジや歌唱はほぼ両者とも同じなので、元のマルチトラックテープも同じでしょう。
私はどちらかと言うと、おとなしめのTVバージョンの方がドラマティックに感じられます。

ところでこの曲、翌年(1983年)春の選抜高校野球大会の入場行進曲に選ばれましたよね。
その7年前に「センチメンタル」が選ばれた時には、明るい曲だったので納得できましたが、
この「聖母たちのララバイ」で入場行進ってかなり、微妙じゃなかったすか(^^;)


「聖母たちのララバイ」
作詞 : 山川啓介
作曲 : 木森敏之、John Scott
編曲 : 木森敏之
レコード会社 : ビクター
レコード番号 : SV-7209
初発売 : 1982年(昭和57年)5月21日

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

お知らせ

事情があって長い間非公開状態にしてあった記事を一挙に再公開しました
(一部内容を編集してあります):

古い順から

赤い風船(浅田美代子)
恋にゆれて(小柳ルミ子)
また逢う日まで(尾崎紀世彦)
どうにもとまらない(山本リンダ)
赤いハイヒール(太田裕美)
硝子坂(高田みづえ)
リップスティック(桜田淳子)
夏の感情(南沙織)
他人の関係(金井克子)
スマイル・フォー・ミー(河合奈保子)
横須賀ストーリー(山口百恵)
もっと・あなたを・知りたくて(薬師丸ひろ子)
暑中お見舞申し上げます(キャンディーズ)
ブルー・シャトウ(ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)
白いパラソル(松田聖子)
男の子女の子(郷ひろみ)
夜間飛行(ちあきなおみ)
ロマンス(岩崎宏美)
わたしの彼は左きき(麻丘めぐみ)
夏の夜のサンバ(和田アキ子)
SEPTEMBER(竹内まりや)
渚のうわさ(弘田三枝子)
ウォンテッド(ピンク・レディー)
ふれあい(中村雅俊)
長崎から船に乗って(五木ひろし)


以上です(タイトルをクリックするとその記事に飛びます)。

2009年から2010年にかけての記事ですので、現在とはかなり趣が違う感じなのですが、
自分で読み返してみて「え!こんな事書いていたんだ!すっかり忘れてた」
と思うものが多く、結構楽しめました(^^)

いや、それよりも更新のインターバルの短いこと!
今はちょっと無理です(^^;)

良かったらぜひアクセスしてみて下さい。

nice!(2)  コメント(13) 
共通テーマ:音楽

次のお題ではありませんが…クイズ。

ぽぽんたです。
まだ残暑が続く地域もあるようですが、ここ千葉は少し前から
知らぬ顔で時は確実に過ぎ、秋の風が吹き始めています。
そんな秋の夜長向けの、ちょい久々のクイズです(^^)

次の音源はあるヒット曲のオリジナル・カラオケのごく一部です。
この曲名と歌っている歌手名をお答え下さい:
(音源は削除しました)
いつも通りのへそ曲がりで(^^;)イントロでもなければサビ部分でもありません。
でもこのブログを読んで下さっている皆さまならば恐らく、きっとご存知の曲です。
なのでヒントは特に無しです^_^

実はこのブログでずっと以前に記事を書かせて頂いたことがあります。
もし答えがわかりましたら、そのページも読んでみてもらえると嬉しいです。


今回もコメント欄を「受付/承認後表示」にして回答をお待ちしています。
答え合わせとコメント欄一斉表示は今週土曜(28日)深夜を予定しています。
それまで、投稿して頂いた文がコメント欄には反映しませんが、
何卒ご了承下さい。


それでは、よろしく(^^)/

**************************************

それでは答え合わせです:

哀愁のページ(南沙織) でした。

サビが終わってBメロに入ったところですね。
この曲は歌部分のアレンジが1コーラス目と2コーラス目とではかなり異なっています。
そのあたり、チェックしてみて下さいね。

今回も回答を寄せて下さった皆さま、ありがとうございました。
それぞれ、コメントを頂いた日に返事を書かせて頂きました。

コメント欄のモードは通常モードに戻してあります。

次回(来週…もう10月ですね)もぜひおいで下さいませ(^^)/

nice!(1)  コメント(12) 
共通テーマ:音楽