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男と女のお話 / 日吉ミミ

絶対に忘れられない…

男と女のお話ジャケット.jpg

大人は勿論、子供も絶対に振り向きましたよね。
鼻から脳天に突き抜けるような発声で、

♪恋人に ふられたの よくある話じゃないか…♪

え!?と驚いてその歌が聞こえてくるテレビを見ると、おかっぱ頭の無表情な女性が歌っている。
子供からすると、アンドロイドか化け猫(失礼)のように映っていたかも知れません。
時折口元だけニヤッと笑うような表情の、その怖いこと(>_<)

一度聞くと耳から離れない、歌う姿を見るとさらにインパクトが強大…と、
ラジオ・テレビがメディアのすべてと言えるような時代ではヒットしないわけがない、
そんな1曲だったと言えるでしょう。
当時小学3年だった私も飛びつき、すぐに真似をし始めたのはすでにお知らせした通りです(^^)

レコードとして発売する以上、どの曲もヒット狙いなのは当然ですが、
この曲は仕上がった段階で制作サイドが「必ずヒットする」と確信したに違いありません。

ハッキリ言って、歌詞もメロディーも暗い。
しかし、ほぼ同時期に大人気だった藤圭子さんのヒット曲からもわかるように、
当時の世の中は明るくポップな曲よりも、何か裏事情がありそうな暗い曲を求めていたのです。
長続きはしませんでしたが。


「暗い曲」と一刀両断するのは簡単なのですが、それだけでヒットするはずも無いのですね。
少々この曲を分析してみましょう。

2コーラス、2番プラスサビ以降の繰り返し(2ハーフ)、長くて3コーラス…
そのような構成が普通の歌謡曲では珍しく、5コーラス構成となっています。
そしてリズムは3/4拍子。 ワルツ、ですね。
奇しくもこの曲がヒットした年のレコード大賞曲「今日でお別れ」(菅原洋一)もワルツでした。

各コーラスはAメロ・Bメロと2種類のメロディーで構成されます。
どちらもインパクトの強いものを持っていますので、どちらがサビかは判断が難しいところです。

メロディーは典型的な短音階で、それにつけられたコードもごくごく標準的なものです。

作詞は久仁京介氏…と言っても私は全然知りませんでした。
主に演歌系の作詞をされていたようですが、リストを見ても知らない曲ばかりで…すみませんm(__)m

作曲は水島正和氏。 私は氏についても全く無知なのですが、ググると昭和30年代に発売されたと
思しきレコードジャケットなどが出てくるので、やはり歌手をされていたのでしょうか。
もし久仁京介氏、水島正和氏についてご存知の方がおられたら、ぜひご教示下さい。

編曲は近藤進氏。
残念ながら氏についても詳しい事はわからないのですが、ビクター専属の編曲家であったのは確か
であるようで、同時代に発売されたビクターの歌謡曲レコードのシングル、アルバムには、
氏の名前が数多くクレジットされています。

私にとってベストワンの歌謡曲「雨」(三善英史)のアレンジも近藤氏によるものなんですね。
木管と弦の使い方が実に素晴らしい音楽家と思います。

この曲では、イントロや間奏で、変な表現ですが風船のついたブーブー笛か、
何やら鼻をつまんだような音がメロディーを演奏してますよね(左チャンネル)。
この音が何なのかがわからないのです!
当時はまだシンセサイザーは使われていないはずだし、ひょっとしてテルミン!?
でもテルミンでこんなに確かな音程を出すのは至難のワザだな…やっぱり電子オルガンかなぁ?
どなたか、ご存知ないですか?


歌詞は、失恋した女性を慰める男性ですね。
それが元彼なのか死別した恋人なのか、はたまた父親なのか。
それがハッキリせず、色々な想像ができるところもこの曲の特色です。
もしかしたら、主人公の女性の内なる声なのかも知れませんね。

そしてこの女性に投げかける言葉の数々の、何とやさしさに溢れていること。
3番の歌詞では、涙が耳に入って疾患を起こす事まで心配しているんですよ。

そして、その歌詞とメロディーの親和性、その高さに改めて驚かされます。
1番目を見ると、まず高らかに「恋人に ふられたの…」と話しかけ、
「世の中変わっているんだよ…」と音程を高めにしてちょっとお説教。
そして女性が「そうかしら…」と気持ちが緩んだところで「人の心も変わるのさ…」と、
最も低い音程が入るメロディーでさりげなく、説くように慰めています。

そしてその「変わるのさ」では、メロディーの中でただ1ヶ所、明るいメジャーのコードが使われて、
「今は悲しくてもまたいつか幸せになれるよ」と希望を持たせているわけです。
そこが新味であり、従来のひたすら暗い方向に突き進むタイプの曲とは違うところ、なんですね。

2番の終わりの「恋はおしゃれなゲームだよ」、
4番の始まりの「スマートに恋をして」などは、
当時としては新しい発想、新しい言葉であったと思います。
ただ、スマートと言うと本来の意味とは関係なく「痩せていてスタイルがいい」と言う意味に
解釈する人も多かったので、そう思っている人からするとこの歌詞、意味不明…だったかな。


日吉ミミさんはこの曲より3年前に、池和子なる芸名で演歌歌手としてデビューしたようです。
「男と女のお話」は改名後2枚目のシングルだったんですね。

次に出したのが「男と女の数え唄」で、二匹目のドジョウ狙い丸出しなタイトルの曲でしたが、
「男と女のお話」のパワーが強くその余勢もあってか、オリコン15位まで上昇しました。
当時の事ですから、「男と女のお話」と勘違いして買ってしまった人もきっといるはず(^^;)

因みに「男と女のお話」はオリコンシングルチャートで最高6位、ランクイン期間が28週に及び、
30.2万枚の売り上げを記録しています。


「男と女のお話」「男と女の数え唄」の後、しばらくヒットから遠ざかっていた日吉ミミさんを
再びテレビで観るようになったのは、1978年から放映されていた水曜劇場「ムー一族」(TBS)でした。
当時新曲の「世迷い言」が毎週、劇中で歌われていたんですね。
中島みゆきさんの作と言う事でも話題になりましたが、
オリコンでは最高66位と、ヒットとは言えない成績で終わってしまいました。
「よのなかばかなのよ」の回文が最大の持ち味だった佳作でしたが、
「男と女のお話」と違って日吉ミミさんである必然性が薄かった、
中島みゆきさん自身が歌っても違和感がないような作品であったのが、
ヒットに至らなかった原因かも知れません。


「男と女のお話」
作詞 : 久仁京介
作曲 : 水島正和
編曲 : 近藤進
レコード会社 : ビクター
レコード番号 : SV-2037
初発売 : 1970年5月5日

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暑苦しい夜に(^^;) …

https://youtu.be/LCI1rCKXgso

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パールカラーにゆれて / 山口百恵

私にとっては中3の時の文化祭とリンクしてる曲、なんです(^^)

パールカラーにゆれて.jpg

1976年(昭和51年)の山口百恵さんは大変な勢いでした。
前年は桜田淳子さんの活躍が目立ち、百恵さんはややその陰に隠れた感じでしたが、
その間に歌唱力が飛躍的に伸びていた事は、川瀬泰雄氏著の「プレイバック」に驚きをもって
書かれていますし、当時の「夜のヒットスタジオ」での歌唱シーンを観れば素人目にもわかります。

「横須賀ストーリー」が、「冬の色」から約1年半ぶりにオリコン1位を獲得し7週間キープした後、
あおい輝彦さんの「あなただけを」の6週連続1位をはさんで再び百恵さんを1位に押し上げたのが
「パールカラーにゆれて」でした(5週連続)。

シングルで初めて阿木燿子・宇崎竜童夫妻の楽曲で大ヒットしたのだから、次も同じコンビで…
となるのが通例の業界では珍しく、作詞・千家和也、作曲・佐瀬寿一と全く違う作家の作品が
選ばれたのは英断に近かったのではないでしょうか。
千家和也氏はそれまでも百恵さんの楽曲では常連でしたが、佐瀬寿一氏は全く初めて。
同年前半に超大ヒットとなった「およげ!たいやきくん」の作風が買われたのでしょうか。

全く個人的な見解なのですが、「横須賀ストーリー」の主人公って港のヨーコなのでは、
と思うんですね。
で、港のヨーコがアバズレをやめて心機一転、横浜で粛々と出直したのが「パールカラーにゆれて」
の主人公なのでは、と。
作家が違うのは承知しているのですが、「パールカラーにゆれて」は歌詞の内容といい
曲の構成といい、この曲が「横須賀ストーリー」の続編に思えて仕方ないのです。

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曲の構成は「横須賀ストーリー」と同じく前サビで、続いてAメロ・Bメロと続いたものが
2コーラス分+Bメロもう一回と、これ以上ないほどシンプルでわかりやすいものです。

山口百恵さんの楽曲は、例えば ♪これっきりこれっきり…♪と印象的な部分と、
♪街の灯りが映し出す…♪と静かに歌われる部分との違いがハッキリしていて、
他にもシングルになっている楽曲でも「ここがキモだな」とサビが明確にわかるものが多い。
現代ではわかりませんが、サビが明確でわかりやすい事はヒットにつながる大きな要素では、
と思います。


キーはCマイナー(ハ短調)で、山口百恵さんのシングルではこの曲と「ちっぽけな感傷」、
「プレイバック Part2」「絶体絶命」の4曲がこのキーで作られています。

編曲は船山基紀氏。 船山氏は、山口百恵さんのアルバムでは数多く編曲を担当しているのですが、
シングルではなぜかこの1曲だけ。
船山氏の編曲では時代の流行サウンドが採り入れられる事が多く、その分キャッチーなのですが、
山口百恵のシングルは比較的タイムレスで、オーソドックスなサウンドで勝負したい、
その名手は萩田光雄氏だ…と判断されたのかも知れません。
そういう意味では、サウンド的に「パールカラーにゆれて」は変化球だった、と言えるかな。

コード進行については佐瀬寿一氏、船山基紀氏のどちらのアイデアかはわかりませんが、
カウンターラインやクリシェを多用してベースラインを滑らかに動かして流れるように進行するのが
大きな特徴です。

イントロからいきなり Cm7→Cm7/B♭→Cm7/A→Cm7/A♭…とベースを下降させるクリシェ。
続く ♪・ま・ち・は♪ では G7→D7/A→G7/B とベースが1音(全音)ずつ上がるカウンターライン、
Bメロ ♪・ふ・た・り♪ では G7/D→Cm/E♭→C7/E とベースが半音ずつ上がるカウンターライン。
あまり耳にしないパターンなので、一緒にキーボードを弾いていると一瞬戸惑います(^^;)

因みに川瀬泰雄氏によると、そのように1拍タメてま・ち・は…と歌に入る助走のような作りは、
佐瀬寿一氏の一つの特徴でもあるそうです。

サビの終わり ♪流れ星 人 影 愛はさざなみの夢♪ でのコード進行は Cm/G→G7→Fm7と来て
D7/G♭→G7→Cm と続きますが、そのベースラインの動きはクラシック音楽を思わせます。


このレコードに針を落とすと(CDをかけると・音楽ソフトで再生すると…何でもいいや)、
上記のコード進行に乗ってシンセサイザーが演奏するキャッチーなフレーズで始まりますね。
そのフレーズは4度の和音で作られています。
で、4度の和音は我々に何を想起させるかと言うと、それは中華、です。 
映画やテレビドラマ、CMなどでも、中華なシーンでは4度の和音を使った音楽がよく使われます。
「パールカラーにゆれて」って横浜の雰囲気だよな、何でだろう?と思った時、
その原因はその中華なフレーズのイントロによるところが大であることに気づきました。
ん、でもそうだとすると、横浜のイメージ≒中華街のイメージ?!
…どこか割り切れない思いもしますが、そんなものなのかも知れません(^^;)。


前年秋の「ささやかな欲望」あたりまで顕著だった高音域での鋭さが変声期を経て変化し、
ややマイルドな音色になったと同時に声量と安定感がグッと増した頃に登場したこの曲。
それまで山口百恵さんにあまり関心が無かった人を「横須賀ストーリー」で「え?」と振り向かせ、
ファンとして定着させる働きをしたのがこの「パールカラーにゆれて」ではないでしょうか。


「パールカラーにゆれて」
作詞 : 千家和也
作曲 : 佐瀬寿一
編曲 : 船山基紀
レコード会社 : CBSソニー
レコード番号 : 06SH62
初発売 : 1976年(昭和51年)9月21日

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