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北国行きで / 朱里エイコ

10年ぶりに朱里エイコさんの楽曲について書かせて頂きます:

北国行きで.jpg

多くの歌謡曲ファンにとって、朱里エイコと言えば「北国行きで」ですよね。
この曲は発売されたのが1972年1月なのですが、オリコンシングルチャートで
ベスト20に入ったのが同年4月、ベスト10に入ったのがその翌月と、
ヒットと呼べる状態になるまでにかなり時間が掛かっています。

ただ、当時は例えば「悪魔がにくい」(平田隆夫とセルスターズ)のように、
発売からオリコン首位になるまで半年も掛かったりするような事は珍しい事でなく、
その分、そういった楽曲の大衆への浸透度もより大きかったんですね。


この「北国行きで」は、もともとはB面用の楽曲だったそうです。
A面用の曲のボーカルダビングが慎重に、何度も何度も繰り返し行われた後で、
軽いノリで「じゃB面も行ってみようか」と促されて朱里エイコさんが歌い始めると、
それを聴いていたスタッフが「…A面はこっちだな」…
初めてこの曲の良さに皆が納得した瞬間でした。

この曲の良さは、歌唱は力強いのに歌詞の内容は物悲しい、
そのアンバランスさではないかな。
悲しく歌うところを強がって聴かせている、そんなどこか耐えているような歌唱が、
日本人の琴線に触れた…と言う事でしょうか。

そう言えば1972年頃には、「終着駅」(奥村チヨ)、「雨」(三善英史)、
「京のにわか雨」(小柳ルミ子)、「女のみち」(宮史郎とぴんからトリオ)などなど、
主人公が「耐えている」楽曲が多かったような…。


「北国行きで」はリズムは16ビートでしょうか。
ドラムスが強く出ているのでロックっぽい感じも受けますが、
ギターのアルペジオだけがひたすら3連のように演奏されているのが印象的です。

キーはDマイナー(ニ短調)で、他調に変ずる転調はありません。
コード進行は難しくはないのですが、♪次の北国行きが…♪ の「ぐに」1拍分だけ
急にコードが切り替わったり、
サビ♪何もあなたは知らないの…♪ では F→C/E→Dm→F/C とベースが下降する
カウンターラインが使われていたり、
♪…この街と別れるの♪ の「別れる」で唐突に♭Ⅵ(この曲ではD♭)が出てきたり、
間奏や後奏でトランペットが演奏するパートの時に♭Ⅶ(この曲ではE♭)
が出てきたりと、随所で耳に残るハーモニーが使われていて、
その発想の源流は鈴木邦彦氏がジャズピアニストであった事かも知れません。

北国行きでスコア.jpg

そして要はやはり、朱里エイコさんの歌唱ですね。
独特の声質とあふれる声量、周期の速いビブラート、安定した音程感、明確な発音。
どれをとっても超がつく一流と思えるもので、
歌唱力の優れた歌手が数多かった当時の歌謡界の中でも異色の存在でした。

ただ難点もあって、それは低音域が弱かった事です。
歌詞を伝える上で、より説得力を持つのは低音域ですし(と私は思っています)、
中高音域のハリ方もパターンが決まっていてバリエイションが少ないために、
歌自体が持つ情緒を重んじる日本では、朱里エイコさんの歌唱は飽きられやすかった、
そんな気がしています。

また時代的に、あと2~3年遅く登場していたら、
ソウル・ディスコブームに乗ってもっとヒットを連発していたかも知れませんね。
朱里エイコさんにはダンサブルな、リズムで聴かせる楽曲が最も似合う気がします(^^)

因みに、私が「北国行きで」の歌唱で最も好きな部分があって、
それはハーフに入ってすぐ♪電話かけてもベルだけが…♪ の「も」です(^^)
その音をこれほどしっかり出せる歌手は、恐らく他にそうはいないでしょう。


朱里エイコさんには「北国行きで」以外にもヒット曲がありますが、
オススメしたいのは「白い小鳩」です。
もう都倉俊一カラー満開と言える曲で、聴けば一発で記憶に残ってしまいます(^^;)
「嘆きのインディアン」(マーク・リンゼイ&ザ・レイダーズ)のようなサウンドのオケに
後にピンク・レディーの「ドラゴン」(「カメレオン・アーミー」B面)で再利用した
メロディーが乗っている、と言えば同意してもらえます?
そこに朱里エイコさんの持ち味の一つであるうなり歌唱もタイミングよく使われ、
全体的に文句なくカッコいい1曲に仕上がっています。
終わり方がやはりピンク・レディーの「乾杯お嬢さん」そっくりだったりして(^^)


私は朱里エイコさんって、歌っている時以外は物静かな印象があるんですね。
対人関係には不器用なような感じ、かな。
なので、シングル「イエイエ」のおどけたようなジャケ写を見ると、
愛おしいような、切ないような、妙な気持ちになります。


「北国行きで」
作詞 : 山上路夫
作曲 : 鈴木邦彦
編曲 : 鈴木邦彦
レコード会社 : ワーナーパイオニア
レコード番号 : L-1069
初発売 : 1972年(昭和47年)1月25日

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関東は梅雨の中休みですのでクイズです。

ぽぽんたです。 ちょい久しぶりにクイズ出しますよ(^^)


次の音源はあるヒット曲のAメロ(正確にはA'、かな)部分のカラオケです。
その曲のタイトル、歌った歌手名を当てて下さい:
(音源は削除しました。ご了承下さい)
ヒントを出したいところなのですが、やさしくなりすぎて非難されるのがこわいので
やめときます(^^;)
一つだけ、1973年の真夏にヒットした曲、とだけお教えしておきますね。

今回もコメント欄を「受付/承認後表示」モードにしてお待ちしてます。
投稿して頂いてから正解発表の日まで、下さった回答やコメントが表示されませんので、
ご了承下さい。

正解発表とコメント欄の表示は今週土曜日(22日)の深夜に行います。


それでは、今週も皆さまにとって素晴らしい一週間でありますように!


追記(6/19 23:15)

皆さま、ありがとうございます! これまでのところ10名の方々が回答を寄せて
下さっています(^^)
やはり1973年前後の楽曲のパワーって凄いんですね。 頂いた回答・コメントには、
皆さまの思い出や思い入れがいっぱいで楽しく読ませて頂いています。

まだまだ受付していますので、初めての方、OB・OGの方もぜひどうぞ!

*************************************************

それでは正解を…

君が美しすぎて (野口五郎) でした。

回答・コメントを書き込んで下さった皆さま、
誠にありがとうございました。


次回は明日(23日)、その楽曲について書かせて頂きたいと思っています。
またぜひお読み下さい。


*コメント欄は通常モードに戻しました。

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君が美しすぎて / 野口五郎

久しぶりにゴロさんを:

君が美しすぎてジャケ.jpg

超初期の野口五郎さんのシングル曲は、本人の外見のイメージを誇張するようなナイーブで、
内気で引っ込み思案、さらに言えば臆病とも思える表現がされた歌詞が多いんですね。
和田アキ子さんと大石吾朗さんが司会で草刈正雄さんがマスコットボーイだった歌番組、
「サンデー・ヒットパレード」に野口五郎さんもよく出演していたので、新曲は毎回、
わりとすぐに聴いて覚えていました。
そんな当時、小学5年生だった私が子供心に変なショックを受けたのが「悲しみの日曜日」で、
「暗い部屋に閉じ込められた二人」が映画のシーンのように思い浮かんで、
何だか子供が想像してはいけない場面のような気がしていたものです。

「君が美しすぎて」も、歌詞についてはそれまでの作品と同じ路線であると思うのですが、
歌メロ優先の歌謡曲から離れてリズムを前面に出し、歌を楽器の一つとして扱ったような
サウンドが作り上げられています。

そしてリズムが3連、それもシャッフルではなくドドド・ドドド・ドドド…と重く重く
刻まれるタイプ(ロックなのかブルースなのか判然としませんが)で、
それも従来の歌謡曲、特にアイドル系の楽曲にはあまり例のないものです。

それが成功して洋楽志向の若者にも受け入れられたのか、1973年7月に発売されたこの作品は
オリコンシングルチャートで3位まで上昇、30万枚の売り上げを記録して、
野口五郎さんにとってそれまでで最大のヒットとなりました。

しかし意外な事に、この曲は作曲・編曲が馬飼野俊一氏なんですね。
馬飼野兄弟は、兄の俊一氏がもろ歌謡曲路線、弟の康二氏が洋楽サウンド志向…
と言ったイメージがあるのですが(それは恐らく私だけではないと思います)、
必ずしもそうでもなかったか…と再認識しているところです(^^;)

あ、思い出した。 馬飼野俊一氏は3連については「笑って許して」(和田アキ子)で
成功してますね(そちらはシャッフルで、ジャズかブルースに近いですが)。


♪美しすぎて…♪ と早口のように始まるのでアップテンポと思いきや、
実際は70bpm前後(1分間に4分音符が70個くらい入る速さ、と言う意味です)と、
ポップス歌謡の中ではかなりスローテンポな曲です。
その♪美しすぎて♪ は、8分音符で構成された3連符を2つずつ分割した、
表現を変えると1拍6連符となっているので、早口に聞こえるのです。

歌メロは全体に抑揚が激しく、コードの構成音をそのままメロディーにしたような部分が
多いので音を外すともろにバレてしまう、技術的に難易度の高いものです。

野口五郎さんは変声期前に歌手になろうとしていたほどですので、
高音域にはかなりこだわりがあるのでは、と思うんです。
この「君が美しすぎて」では、転調して半音上がったハーフでハイAまで出していますが、
かつてはその音程は沢田研二さんが「君をのせて」で出していたくらいで、
和洋問わずポップスの男性歌手は殆ど出さなかった(出せなかった?)音なんです。
私はその事が学生時代から気になっていて、勝手に「ハイAの壁」と呼んでいます
(現代ではハイCあたりまで出して性別不明になっているボーカルもよく耳にしますが)。

♪ぼ・くの こ・ころを♪♪き・みを ふ・こうに♪ と、完全にリズムに合わせた
印象的な譜割りとなっていますが、日本語としてのアクセントは全く無視で…
と言うよりも、わざとそうする事でインパクトをつける狙いもあったのでしょう。


オケの編成は大きくはなく、ホーンセクション、ストリングスセクション、ドラムス、
ベース、サイドギター、ソロギター、ピアノ、タンバリン、そして女性コーラスと、
全くオーソドックスと言って良いものです。

この曲はロンドンでの録音との事で、そのためなのか、全体を調和させる方向ではなく、
各楽器にそれぞれ主張させ、それをミックスの技術でまとめる作りに感じられます。
ただ、歌謡曲と言う事でストリングスに重きを置いている事は確かで、
その低音域と高音域で入れ替わりでピチカートさせたり、チェロを歌に絡めさせたりと、
それまでにあまりないアレンジを意識しながらも歌謡曲は歌謡曲…と、
馬飼野氏は海外録音の成果も期待されていたはずですので、きっと大変だったでしょう。

ただ、全体的なサウンドは1975年に南沙織さんが発表したアルバム「Cynthia Street」
に収められている「GET DOWN BABY」に雰囲気が似ていて、
そちらはロサンゼルスの録音(恐らくA&Mスタジオでしょう)なんですね。
「君が美しすぎて」の方が2年も早いのですが、
海外録音ってみんな同じような音になっちゃうんだね…と思う人もいたかも知れません。

この曲のオリジナル・カラオケは、2007年に発売されたCD「歌が歌いたい!ベストヒット
&カラオケ」に収められていますが、
歌入りとカラオケとではミックス(正確には楽器の定位)が少し違うんです。
歌入りでは左にピアノ、右にサイドギターがありますが、
カラオケではサイドギターが右、ピアノが中央になっています。
バランス的には歌入りのミックスの方が良いように思えますが、なぜ違うんだろう?


で、カラオケを聴くと面白い事、発見!
この曲ではサビ部分で、後ろでディストーションギターのソロが演奏されていますが、
2コーラス目でのそのギターの音が、演奏の仕方なのかエフェクターの掛け方なのか、
一部でまるで唸っているように聞こえるんです。 歌入りだとまず、聴き取れません。
聴いてみます?


ところで「ロンドン録音」ってどこのスタジオかと考えると、どうなんでしょう?
イギリスで有名なスタジオと言えば何と言っても「アビーロード・スタジオ」。
ビートルズ御用達だった事でも知られるスタジオですが、もしそこで録音したのならば、
レコードのコピーにも必ず「あのビートルズのスタジオ!!」とか載るでしょう。
そんな話は聞いた事がないので、他にどこかないかな?と探してみると、
「トライデント・スタジオ」があるんですね。
そこはクイーン、エルトン・ジョン、T.レックス、デビッド・ボウイ等々、
そして一時期にはビートルズも使用したスタジオだそうです。
残念ながら私は音を聴いただけでスタジオまで判別する事はできないのですが、
可能性としてはありなのでは?と思うんです。

1973年は他にもちょっとした海外録音ブームだったのか、
井上陽水さんの大ヒットアルバム「氷の世界」もやはりロンドンで録音されていますし、
山本リンダさんのシングル「燃えつきそう」はブラジルでの録音だそうです。
井上陽水さんは翌年もアルバム「二色の独楽」をA&Mスタジオで録音しています。


当時の歌謡曲の中で、アイドル歌謡として、またポップス歌謡として、
「君が美しすぎて」は新しい表現、サウンドを具現化した画期的な1曲と思います。
それから急速に歌謡曲全体が新しい方向に…とはなりませんでしたが、
野口五郎さんの、前作「オレンジの雨」あたりからの勢いが加速されたのは確かで、
翌年秋の「甘い生活」、さらに翌年の『私鉄沿線」で人気の頂点を迎えるんですね。


この5月12日にBS-TBSで放映された「LIVE ON!歌好きショータイム」に
野口五郎さんがゲストで登場、ヒット曲の数々が披露されました。
その中で「君が美しすぎて」と「オレンジの雨」も歌われたのですが、
その2曲はバックが野口五郎さんの声だけで構成された自作のアカペラオケでした。
歌手としての実績も大きいのに、本当に音楽好きでこれほど常に音楽に入れ込んで
いるのは凄いな…と、素直に感動してしまいました(^^)


「君が美しすぎて」
作詞 : 千家和也
作曲 : 馬飼野俊一
編曲 : 馬飼野俊一
レコード会社 : ポリドール
レコード番号 : DR-1780
初発売 : 1973年(昭和48年)7月1日

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