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白い蝶のサンバ / 森山加代子

子供へのアピール力も半端なかったですね:

白い蝶のサンバ.jpg

森山加代子さんと言うと、ちょうど我々の世代くらいから「じんじろげ」のような、
童謡なのか歌謡曲なのかよくわからないコミックソングで知られていた歌手なんですね。
「パイのパイのパイ」が30年くらいの時を経て「ロッテチョコパイ」のCMソングで
使われるようになったり。 お山のてっぺんで…なんて歌詞の曲もありましたね。
しかし曲はちょっと変でも(失礼)、森山加代子さんの歌声とキャラクターって、
どこか聴く人、見る人をやさしく包み込むような雰囲気がありますね。

そんな人が、ヒットも途絶えしばらく見ないと思ったら、1970年になるとすぐ、いきなり
♪あなたに抱かれて私は蝶になる…♪
とそれまでにはあり得なかったような早口ソングで再登場したのですから、
当時の大衆はさぞびっくりした事でしょう。

その前年に、同じコロムビアの弘田三枝子さんが「人形の家」で久々のヒットを飛ばし、
その時には曲もさる事ながら、容姿が突然美しくなった!と話題になったものですから、
恐らく森山加代子さんも同じような感じで受け止められたのではないでしょうか。
確かにファンションやメイクが派手になっていましたし(^^)。

「白い蝶のサンバ」は楽曲自体、あちこちに耳に残る仕掛けが組み込まれており、
その効果もあってか、今も時々話題になる大阪万博博覧会の開催(1970年3月15日)に
合わせるようにオリコンシングルチャートで1位に登りつめる大ヒットとなりました。


作詞は阿久悠氏で、氏にとってこの曲が初めてのオリコン1位曲となりました。
この曲は歌うのが難しいようで、阿久氏によれば「森山加代子は生でこの曲を歌う時、
必ずどこかでトチって完全に歌えた事が一度もない」と語っていました(^^;)

この曲では女性が蝶になっていますが、それより2年ほど前の大ヒット「花と蝶」(森進一)
では花が女、男が蝶となっていますよね。
阿久氏はそれを大いに意識して「自分がそれをひっくり返そう」などと考えたのでは(^^)


作曲は井上かつお氏。 氏にとってはこの曲が、大ヒットした唯一の楽曲のようです。
他には美空ひばりさんが1972年、実質最後の紅白出場となった時の曲「ある女の詩」
も書いています。

編曲は川口真氏。 川口氏は「人形の家」「浮世絵の町」「他人の関係」「別れてよかった」
等々、女性歌手がイメージチェンジした時の曲の殆どで作・編曲を担当しているのですが、
何か特別なルートでもあったのでしょうか?

残念なのは、そうしたイメチェン楽曲って後が続かないんですね、不思議なほどに。
弘田三枝子さん、内田あかりさん、、金井克子さん、小川知子さん、そして森山加代子さん、
揃いも揃って新曲を出すたびに尻すぼみになっていったのはなぜでしょう?

イメチェン歌手と言えば山本リンダさんを挙げないわけにいきませんが、
リンダさんの場合は都倉俊一氏が音楽面を仕切っていて、新曲を出すたびに
違うイメージを打ち出していたのが、ある程度人気が続いた要因だった気がします。
先述の5人に関しては、イメチェン自体に寄りかかって新曲が二番煎じに陥っていたのが
敗因だった、と言えるでしょう。

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ドコドコドコドコ…ジャーン! ♪あなたに抱かれて私は蝶になる~♪…

この部分だけで多くの人は「何だ何だ、こりゃ!?」と耳を傾けたはずです。
早口歌唱は実際にはそこと歌い終わりの部分、各コーラス6小節しかないのですが、
最初に聞かされたインパクトはいつまでも残るものです。

よく聴くと、早口なだけでなく、歌全体を通して随所に演歌のようなコブシがかかっていて、
「月影のナポリ」などのストレートな歌唱とは全く異なっているのがわかります。
そのあたりは恐らく本人の意志ではなく、ディレクター、あるいはアレンジャーから
指示されたものでしょう。

後に松田聖子さんも多用する事となる跳ね上げ(音を伸ばし、その終わりで声を裏返すように
跳ね上げる歌い方)もこの曲で使われ、インパクトの要因となっていると言えますね。


オケは、サンバとは言いながらタンバリン以外のパーカッションもサンバホイッスルもなく、
むしろストレートな16ビートロックと言えるもので、
ベースがブンブンと飛ばしてスピード感を増長していますね。
でもそんな演奏はラジオではあまり聞こえないので、ヒットの要素になったとは言えないかな。
この時代、新しい曲は音源がレコードであっても、ラジオや有線放送などの、
あまり音質が良くない装置から人々の耳に届く事が圧倒的に多かったですから。

編曲では隠し味的な音を加える事が多いのですが、
この曲では左から聞こえるマリンバ、右から聞こえる電子オルガンがそれで、
オケのサウンドに独特の色をつけ、歌の雰囲気を引き立たせる役目をしていると考えられます。
ビートをしっかり刻んで全体を引き締めているのがタンバリンですね。

中央からはコルネット2本、トロンボーン1本とかなりシンプルなブラスが、
歌メロにぴったり馴染む、ハイセンスなオブリガートを演奏していますね。
その力はとても強いですよ(^^)

レコーディングはオケの全楽器同録で2チャンネルステレオのカラオケを作り、
それにボーカルをダビングすると言った手法と思われます。
なので、森山加代子さんがもし、レコーディングでも通してはうまく歌えなかったならば、
恐らく幾テイクもボーカルを録音し、その中でよく歌えた部分をつなぎ合わせる
テープ編集作業はかなり大変だったのでは、と想像します(^^;)

あ、でも実際には最初から最後まで全く問題なく歌い切る歌手はめったにいなくて、
噂によると美空ひばりさんと岩崎宏美さんくらいだそうですが(^^;)

2コーラス目の歌い終わり ♪恋の火を抱きしめて~♪ と音を伸ばす時にエコー
(正しくはリバーブ)を徐々に深くしてその響きを残すテクニックが使われていますね。
同じようなテクニックは後に「ひとりじゃないの」(天地真理)でも使われ、
欧陽菲菲さんの「雨のヨコハマ」ではリバーブではなくフィードバックエコーで
似たような、しかし全く肌触りの違う音で効果を上げている例があります。


「白い蝶のサンバ」でどうしても書いておきたいのが、転調についてです。

歌謡曲でも転調が用いられるのは珍しくはありませんが、多くの場合、
同じキーで短調から始まりサビだけ長調になるとか(「愛は傷つきやすく」「ちいさな恋」等)、
2ハーフ構成でハーフで半音上げる、と言った程度です。

しかし「白い蝶のサンバ」は、歌い出しはA♭メジャー、サビ前でFマイナーになった
かと思うとサビではFメジャーに転じ、サビが終わるとまたA♭メジャーに戻り
歌い終わる直前でFマイナーに… とコロコロ変わります。

そして調が変わる時に色々な雰囲気を残すのがまた面白いところで、
Aメロが終わりサビの ♪恋は心も~♪ に明るく変わり、それが過ぎてまた暗くなるかと
思いきや、歌い出しと同じ明るい感じのキーに移り、その時にはどこかホッとするような
空気を感じさせるんですね。
歌メロも、キーが変わっているのに無理な動きがなくスムーズなので、
全体を通してギクシャクしたものを感じさせず、最後までスッキリと楽しめる、
そんな作りなんですね。

一般的に、欧米のポピュラー楽曲にも転調は当たり前のように使われていますが、
多くの場合、一聴してもそれがわからないようなメロディー進行、コード進行が多く、
一説には転調をなるべく感じさせないのがカッコいい曲…と言われるほどなのですが、
日本の歌謡曲ではむしろ「転調させたぞ、どうだ」とも言いたげな展開が感じられる
楽曲が多い、そんな気がします。
90年代以降に日本で大ヒットした楽曲は殆どと言って良いほど露骨な転調が
これでもかと使われているのですが(特に倉木麻衣さんの初期の曲はすごかった)、
「白い蝶のサンバ」もわりと露骨な転調ながらどこか気品が感じられ、
それは当時の世の中のカラーをも反映しての事なのだろうか…
と説明不能な興味を持ってしまいます(^^)

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追記(2019年3月6日 23時40分)

本日、森山加代子さんが亡くなられました。
私は先ほど、この記事のコメント欄に数名の方がその事を書いて下さった事で知りました。
ご病気の事など全く知らなかったので、大変驚きました。
こと我々の世代にとっては大変印象深い歌手であった事は疑いようがなく、
非常に残念です。
謹んで、ご冥福をお祈り致します。
そして、思い出とつながるような素敵な歌の数々を遺して下さった事に感謝致します。


「白い蝶のサンバ」
作詞 : 阿久悠
作曲 : 井上かつお
編曲 : 川口真
レコード会社 : コロムビア
レコード番号 : CD-48
初発売 : 1970年(昭和45年)1月25日

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スローな愛がいいわ / 岩崎宏美

このジャケ写は失敗じゃないかなぁ(^^;)

スローな愛がいいわ ジャケ.jpg

「万華鏡」が自動車のCMソングとして頻繁にオンエアされた効果が大きかったからか、
岩崎宏美さんにとって約1年半ぶりにオリコンベスト10に入るヒットとなり、
注目度が高まった中で新曲として発売された楽曲です。

作曲:筒美京平氏、編曲:萩田光雄氏と「二重唱」から5年弱ぶりのコンビ復活でした。
筒美氏はこの曲でも「6th付きサブドミナント」を哀愁感創出に利用しています。
作詞は三浦徳子氏で、三浦氏は「万華鏡」はもとより、まず八神純子さんの初期のヒット曲、
後に松田聖子さん等でさらに多くのヒット曲を出す事になる、
当時最も活躍の目覚ましかった作詞家でした。

オリコンでの成績は、特にタイアップが無かった事もあり最高位18位で売上枚数が約9万枚と、
前作「万華鏡」と比較するとかなり落ち込んだものとなりましたが、
ファンの間では岩崎宏美さんのシングルの中でもひときわ優れた楽曲と評価が高いようです。

この曲の頃の岩崎宏美さんは、歌手として絶好調だったと言えるでしょう。
音域が低い方まで広がりながらも高音域の張りと美しさは絶品の域であり、
極めて正確に歌いながらも歌声に妖艶さもにじみ出始めていて、
女性歌手の理想の状態だったと言って良いと思います。
そのあたりはレコードよりも、生歌の動画で観るのが納得して頂ける最良の手段と思います(^^)


しかしこの曲、歌謡曲と呼ぶには少々複雑で音楽的に高度すぎる気もします。
曲調からしてバロック・ロックと言えるようなプログレッシブさをたたえてますし…。

洋楽もそうですが、歌謡曲では多くの場合、A・A'・B・サビ・A"…と言った具合に、
一度使われたフレーズをもう一度利用して次に続けるような作りが多いんです。
それは、聴く人に短い間に同じフレーズを何度も聴かせて覚えてもらう事が
最大の目的だと思われますが(歌詞を含め進行上仕方なくそのようになる場合もあります)、
「スローな愛がいいわ」では、1、2小節単位で同じフレーズを繰り返す事はあっても、
全体の流れを見ると、同じグループの使い回しが無いのです。

そのグループとはどういった単位かと言うと(1コーラス目を例にしますね)、

・♪おとぎ話…素顔を見せてる♪
・♪ガラス細工のlove story 何度か壊してしまったわ♪
・♪男は男の服を着て…こだわり過ぎてた♪
・♪スローな愛がいいわ…生き方で愛したい♪

これらが順に進行していますが、それぞれが一つのグループとして完結しており、
グループ間で共通に使われるメロディーやコード進行が全くないのです。
その結果、音楽としてはレベルが高いが覚えにくい、親しみにくい…となってしまうんですね。
初めて聴く人には、やや散漫、または掴みどころがないような印象を与えるかも知れません。

また、オケとの絡み方が重要な曲でもあり、オケがないと音楽として成り立たない、
アカペラで歌われても良さが伝わりにくい曲であるとも言えます。
♪似合いの二人と…♪ の「二人と」が裏打ちのメロディーであるのがその象徴でしょう。

なので、宏美ファンの中で「すごい曲だ!」と評価が高くても、結果買うのはファンだけで、
大きなヒットには結びつかなかった、と言う事なのでしょう。


しかし楽器を演奏をする者にとっては飽きの来ない、面白い曲でもあり、
チェンバロや電気ピアノ等、キーボードを大フィーチャーして曲を盛り上げている
アレンジの巧みさも相まって、恐らくリスナーよりもプレイヤーに人気が高いのではないかな。

アレンジと言えば、派手に動き回るストリングスや色気のある音色のエレキギターの演奏も
キーボード同様、重要な仕事をしています。
Aメロで2回入ってくるカスタネットは、後の大滝詠一さんのサウンドを先取りしている
ようにも思えます。 …とは言っても、この曲から間もなく発売された「謝肉祭」(山口百恵)
では、下地がフラメンコと言う事もありカスタネットが派手に入りますが(^^;)


「音楽的」な特徴として最も大きいのはベースラインの動きでしょう。
それが作曲段階からのものか、萩田氏によるアレンジ段階からのものかは不明ですが、
クリシェやカウンターライン、分数コードがあまり使われず、代わりに
例えばAメロでのチェンバロのフレーズに代表されるような、歌メロに対する裏メロを
ベースラインにさせている箇所があるのが新しいんですね。

もう6年ほど前の動画ですが、「オリカラでピアノ」シリーズで私はこの曲も演奏してます。
そんな「音楽的」特徴も踏まえて弾いていますので、良かったらご覧下さい:



(映像のピアノは鍵盤の状態が悪かったので最後の最後がちょっと笑えますが、ご容赦を)


ところで今更ながら、スローな愛って、どういう意味??


「スローな愛がいいわ」
作詞 : 三浦徳子
作曲 : 筒美京平
編曲 : 萩田光雄
レコード会社 : ビクター
レコード番号 : SV-6674
初発売 : 1980年(昭和55年)1月21日


お詫び&お知らせ: 次は4月1日に更新しますm(_ _)m

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