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飛行船 / 岩崎宏美 アルバムレビュー

このブログでは主に1970年代にヒットした歌謡曲を毎回1曲ずつご紹介していますが、
今回は久しぶりに、私が個人的に大好きなアルバムをご紹介、
そしてその収録曲のほぼ全曲について書かせて頂こうと思います。

飛行船ジャケ.jpg

…岩崎宏美さんの3枚目のオリジナルアルバム「飛行船」です。

前作「ファンタジー」は「あなたのお部屋をディスコに」とのコンセプトで作られていましたが、
「飛行船」はそういった企画ではなく、岩崎宏美さんの実力がストレートに伝わるような、
またその時点でしか出せないと思われる声質を生かしたオリジナル楽曲を集めて作られています。

Side Aではシングル「未来」のA面・B面をブックエンドにして新作3曲をはさみ込み、
Side Bでは女学生のミニミュージカルのような3曲に続き、バラード歌手としての資質をも
知らしめるような、音楽的に高度で内容の濃い2曲で締めくくられています。

作家陣は、阿久悠・筒美京平コンビの作品は3曲にとどまり、千明哲也・穂口雄右コンビが3曲、
阿久悠・穂口雄右コンビが2曲、そして岩崎宏美さんの作品で初めて松本隆氏が2作提供し、
それまでは編曲のみだった萩田光雄氏がそれらに作・編曲しているのも大きなトピックです。

このアルバムにおける穂口雄右氏の作風は明らかに筒美京平氏のそれを意識している、
と言うよりも筒美氏が忙しくて書き切れないから同じような作風で書くようにと発注された、
と思えるような楽曲ばかりなのが面白いところです。


それでは収録曲各曲について簡単に解説致します。

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A-1 未来

作詞:阿久悠
作曲:筒美京平
編曲:筒美京平

岩崎宏美さんの5枚目のシングルA面曲(1976年5月発売)です。
この曲については、このブログで8年前に記事にしていますので、そちらを参照して下さいm(_ _)m

https://orikarapoponta.blog.so-net.ne.jp/2010-06-09


A-2 地平線の彼方

02 地平線の彼方.jpg
作詞:阿久悠
作曲:筒美京平
編曲:筒美京平

ストリングスの低音域の重々しい音で始まる、やや掴みどころのない雰囲気の1曲です。
スローテンポで淡々と進行し、女性コーラスとの絡みと間奏のギターソロが聴きものですが、
全体にカッチリと作られている印象で、そのギターソロもアドリブ感が少なく
「きっと書き譜だな」と思わせるのは筒美京平氏の作品に共通する点でもあります。

♪(私は今)あなたのことだけ♪♪私は駆けて行くわ♪ などでのやや突拍子もない
メロディーが耳に残ります。 聴く人によっては「変なメロディー」と思うのではないかな。

♪好き 好き♪ の部分などで女性コーラス(シンガーズ・スリーによるものでしょう)との
絡みが面白く、この曲の特色の一つでもありますが、部分的に何を言っているのか
わかりにくいのがミステリーっぽいと言うか、ちょっとイライラすると言うか(^^ゞ

先述のギターソロはショートディレイで左右に広げてあって、同じ手法がこのアルバムと
前後して発売されたシングル「霧のめぐり逢い」でも使われています。


A-3 サマー・グラフィティ

03 サマー・グラフィティ.jpg
作詞:千明哲也
作曲:穂口雄右
編曲:穂口雄右

前曲とは打って変わり、アップテンポで快活なナンバーです。
歌い始めの ♪好きよ~(好きよ~)♪ の声の勢いには凄まじいものがありますね(^^;)

歌メロが全体的にいわゆる四七抜き音階で作られている事もあり、覚えやすさは抜群です。
初期の岩崎宏美さんの楽曲では、「ファンタジー」の ♪心に感じた あなたの眼差しを…♪
のような早口メロディーが大きな特徴の一つでしたが、
「サマー・グラフィティ」でも、それまで淡々と歌われていたのに突然 ♪待ちわびてた
この青空♪ と、これまた突拍子もない早口が出てきて、最初は必ず驚きます(^^)

後半で半音転調し、当時の岩崎宏美さんが地声で出せる最高音に近いハイC#が使われます。
早口フレーズの ♪(やさしいある人に)愛してると いわれたこと♪ では、
その「われ」で1オクターブ上の倍音が非常に強く出ていて、
それが声の輝きとも言うべき音色を作り出しています。
同じような現象は、「二重唱(デュエット)」で2コーラス目 ♪…私は思う♪ の「は」
にも感じられます(その部分の最高音はC#ではなくBですが)。

尚、作詞の千明哲也氏はちあき哲也氏の事ですが、なぜこのアルバムでは「千明」と漢字なのか、
岩崎宏美さんにもわからないそうです。


A-4 ワンウェイ・ラブ

04 ワンウェイ・ラブ.jpg
作詞:松本隆
作曲:萩田光雄
編曲:萩田光雄

松本隆氏が岩崎宏美さんに初めて提供した1曲です。
このアルバムの発売は太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」が大ヒットして間もない頃であり、
「ワンウェイ・ラブ」の歌詞もそれを意識して書かれたものでしょう(そのように発注された?)。

しかしメロディーやサウンドには「木綿のハンカチーフ」のような軽さや明るさは全くなく、
終始深刻で重々しい空気が支配しています。
イントロがピアノのアルペジオだけなのは珍しいですね。
1コーラス目ではやがてチェンバロ、ベース・ドラムスが加わり、トリプルギターでの間奏の間に
ストリングスが加わり…と、萩田光雄氏が得意とする経時楽器追加型とも言うべきアレンジです。

萩田氏が歌メロも作る場合、コード進行が凝っている楽曲が多いんですね。
この曲でも歌メロ部のコード進行はカウンターラインを強調したベースライン重視型であり、
イントロや間奏、コーダではGmからAm、そしてまたGmへとさりげなく転調しているのがわかります。
萩田氏は「筒美京平氏と仕事をして、歌謡曲でもクラシックの技法を使ってもいいんだ、
とわかった」と発言していますが、「ワンウェイ・ラブ」でもその思想が発揮されている
と言って良いでしょう(それが如実に表れているのが歌メロ部のコード進行なのです)。

歌メロ部はもとより、トリプルギターの間奏があまりに美しいので、この曲に限り
楽譜にその部分も採譜しました(コーダも同じフレーズの繰り返しです)。


A-5 夏からのメッセージ

05 夏からのメッセージ.jpg
作詞:阿久悠
作曲:筒美京平
編曲:筒美京平

シングル「未来」のB面として先行発売された曲です。
路線としては前作シングル「ファンタジー」のB面「パピヨン」を踏襲しているようですが、
特にAメロでは歌詞を正しくリズムに乗せて歌う事自体に相当な技術が必要となりそうで、
誰もが気楽に歌える類の楽曲ではないようです。
歌詞の内容がどことなく山口百恵さんの「お元気ですか」を想起させるものがあるのですが、
それはきっとたまたま、ですね(^^ゞ

サビでワウをかけたギターが効果音的に使われているのがわかりますし、
ストリングスやコーラスの動きがいかにも筒美氏らしい、表情の豊かなものがありますが、
全体的には凡庸で「ここが素晴らしい!」と言った点があまりなく、
「やはり(シングルの)B面だな」と言った感じでしょうか。
このアルバムは7月末の発売だったので、歌詞の内容も合っていないと思います。
曲数が足りずに仕方なく入れた、のかも知れませんね。


B-1 ケン待っててあげる

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作詞:千明哲也
作曲:穂口雄右
編曲:穂口雄右

当時、岩崎宏美さんはアイドル歌手の一人でしたから、「ケンって一体誰だ!?」と
邪推したファンも多かったのではないかな(^^;)

浮気性な彼を妹のように見守る…との内容の歌詞が現実的かどうかは別問題として、
この曲での岩崎宏美さんの歌唱に後の「聖母たちのララバイ」のような、
捨て身的な愛情がすでに表現できている事に今更ながら驚かされます。

歌メロはシンコペーションを多用し強がりながらも揺れる気持ちを表現したようなAメロ、
ゆったりとした譜割りで確固たる愛情を表現したようなBメロと、
クッキリと分かれていてそこを何の破綻もなく歌い進める歌唱自体が最大の聴きものです。
メロディーやアレンジの組み立て方はやはり筒美氏作曲の「未来」「ファンタジー」などを
手本にしていると言って良いでしょう。


B-2 霧の日の出来事

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作詞:阿久悠
作曲:穂口雄右
編曲:穂口雄右

B面の1~3曲目はどれも穂口雄右氏の作・編曲であるからか、
曲の印象としてはどれも似たり寄ったりになってしまっているのですが、
その中ではこの「霧の日の出来事」がやや異色に感じられるのは、
唯一、頭サビの構成だからでしょう(キーも他の2曲が同じで、この曲だけが違います)。

頭サビの終わりで ♪あなたが駆けて行った…♪ と声を伸ばしたまま間奏に入るのが印象的です。
Aメロでは普通の短調の音階・コード進行で淡々と歌い進められ、
Bメロではメジャーセブンスの響きで違う味を醸し出す「哀愁2段攻撃」(勝手な造語です)で
この曲の主人公への共感を促す作りなんですね。
聴いているとシーンが浮かんでくるのは、やはり阿久悠氏の技術でしょうか。


B-3 さよならがビショビショ

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作詞:阿久悠
作曲:穂口雄右
編曲:穂口雄右

歌謡曲のタイトルは、形容詞+名詞か「~の~」と言ったものが圧倒的に多いので、
この曲のタイトルは独特でインパクトがありますね。

阿久悠氏の歌詞にはたまに「これ、固くね?」と思える言葉遣いが出てくる事があります。
この曲でも1コーラス目の終わり ♪やはり別れは悲しいものね♪ の「やはり」がそうでしょう。
他には桜田淳子さんの「はじめての出来事」の1コーラス目のサビに出てくる
♪ここまでついて来たが♪ の「が」もそうですよね。

この曲で重要な点は、サビのメロディー ♪いつか見た メロドラマ…♪ が、
A-5の「夏からのメッセージ」で使われているリフと全く同じである事(ミソラドーラ)です。
作曲者が違うので、それがたまたまなのか、はたまた故意なのか? 疑問です。

歌唱について…この曲では最高音がサビでハイDにまで達しているのですが、
2ハーフ構成のこの曲で3回目(最後)のサビ ♪…雨に降られたお祭りみたい♪ において、
「雨」のところでかなり低い音程からしゃくり上げるように歌っているのがわかります。
それは歌詞の内容云々ではなく、レコーディング時の岩崎宏美さんのコンディション(疲労?)
によるものでは、と思えてなりません。

イントロではアコーディオンが使われています。 その音色が使われる事自体も少ないのですが、
アコーディオンに続くのがストリングスであるのも珍しい組み合わせです。
と言うのも、主メロを2種類の楽器で引き継がせる時、どちらかを立ち上がりの速い音、
例えばピアノやギターなどにする方が音色の変化が大きく、印象が強められるからです。
アコーディオンもストリングスも立ち上がりの遅い持続音ですから、例えばラジオなどから
流れてきた時に、ちょっと聴きだと同じ楽器が延々と演奏しているように聞こえるかも知れません。


B-4 美しい夏

09 美しい夏.jpg
作詞:松本隆
作曲:萩田光雄
編曲:萩田光雄

まず、桜田淳子さんが1980年に発表した同タイトルのシングルとは全くの別曲です。

数年後に松田聖子さんのシングル「小麦色のマーメイド」のB面に収められた
「マドラス・チェックの恋人」の原形では、思えるような歌詞です。

松本隆氏の歌詞には時々「コレ何?」と思うものが出てくる事があって(私の無知のためですが)、
他にも「アイビー」(「袋小路」太田裕美)、「ディンギー」(「君は天然色」大滝詠一、
「白いパラソル」松田聖子)などが最初わからなかったのですが(勿論後で調べました!)、
この曲でも2コーラス目の「キャンプ・ストア」がわかりませんでした。
今もハッキリとはわからないのですが…海の家、の事ですか? ご存知の方、教えて下さいm(_ _)m

これを言ってしまうとイチャモンに近いかも知れないのですが…
1コーラス目の歌詞に「夏の服をたたむ指先にポケットの砂がキラキラ零れて」とありますが、
「今は秋」ならばその「夏の服」は洗濯を済ませ仕舞うばかりのはずですから、
ポケットから砂なんて出てくるかな? しかもこぼれるほど?
…申し訳ありません、些細な事が気になってしまう性格で(^^ゞ

作・編曲は「ワンウェイ・ラブ」と同じ、萩田光雄氏です。
この曲でも、やはり歌メロとコード進行、その双方にクラシックの匂いが感じられますが、
歌メロでそれが顕著なのがAメロの ♪青い海が よみがえるの♪ の「海」と「る」における
半音階の使い方でしょう。

サビは歌メロとコード進行が連携して凝っています。
まずF#からAに転調し、2小節で半音下に転調するのを2回繰り返すと言う、
他にはまず目に(耳に)しない手法が使われているんです。
それが歌詞を意識してなのか、それとも曲先で萩田氏の全くのオリジナルな発想なのかは
わからないのですが、それを美しい声で難なく歌いこなす岩崎宏美さんの実力は凄い!
と採譜していて改めて思いました。

ちょっと疑問…2回目の間奏でストリングスが主メロを演奏していますが、
その各楽器のチューニングが合っていないように聞こえてしまうのはなぜでしょう?


B-5 愛の飛行船

10 愛の飛行船.jpg
作詞:阿久悠
作曲:筒美京平
編曲:筒美京平

アルバムの最後にタイトル曲を持ってくる構成は変わっていますね。

まさに当時の岩崎宏美さんの声の、良い部分だけを生かすように作られた曲で、
まだやっと出ていた程度の低音から、最も輝きを感じる高音まで、
これでもか!と聴かせまくる音の使い方と構成になっています。

岩崎宏美さんは音(声)を揺らぎなくまっすぐ出す訓練をしていたと思われるのですが、
それを特に感じるのが1コーラス目のサビ後半 ♪あなたが 抱き寄せるやさしい胸に♪ で、
特に最高音である「き」の音色は類まれな美しさだと思います。

この曲がそれまでの曲と違う点が、緩急です。
それまでは声が出る限り押しまくるような歌唱であったのが、
この曲ではまるで話し声のような小さな声から、
先述した「き」のようなまっすぐできれいに張った発声まで、
様々な音色と声量で、曲全体をドラマのように演出しているんですね。

全体のサウンドはポール・モーリアのようなイージーリスニングに近いものであり、
特にピアノ(演奏は羽田健太郎氏でしょう)の音色を大切にして
全体を作り上げている印象を受けます。

サビの ♪あ・な・たが~♪ の部分で軽くリタルダンドがかかるあたり、
もしかするとオケは筒美氏の指揮で全楽器が同時録音なのかも知れません。

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このアルバムが制作・発売されたのは、岩崎宏美さんが17歳の時です。

記事冒頭の文言と重なりますが、このアルバム「飛行船」は、その実年齢でしか
表現できないものを大切に作られている、そんな気がします。
デビュー曲「二重唱(デュエット)」から続いてきた、やや子供っぽさの残る声質も、
このアルバムで聴けるものが最後となりました。

次のアルバム「ウィズ・ベスト・フレンズ」はアルバムの構成などはほぼ「飛行船」と同じ
ながら、各作品は明らかに大人っぽさを増し、岩崎宏美さんの声質も大人のそれとなっています。

様々な輝きを感じる「飛行船」は、岩崎宏美さんの全アルバム中でも
最高峰と言えると私は確信しています。

因みに、私はこのアルバムジャケットも大好きです(^^)


「飛行船/岩崎宏美」

レコード会社: ビクター
レコード番号: SJX-10141
発売日: 1976年(昭和51年)7月25日
オリコン最高位: 3位

次回は12月23日に更新予定です。

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記事には関係ないですが、昨年末にこの季節向けに作ったインストです:

"Children in winter" Composed & Performed by Poponta

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「キミコロ」歌ってみた じゃなくて 歌ってみて(^^)

私の曲、「キミのコロッケ」をカラオケで歌ってみて下さい(^^)♪

まずはオリジナルの私の歌で:


で、カラオケです:

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少し早いですが…クイズで締めくくります。

ぽぽんたです。 今年最後の更新です。


次の音声はある楽曲の歌い出し部分(のオリジナルカラオケ)です。
その楽曲名と歌手名を当てて下さい。
(音源は削除しました。ご了承下さい。)
今回もコメント欄を「受付/承認後表示」にして待っています。
正解発表及びコメント欄開示は、今週金曜(28日)深夜に行います。


新しい年に向けて、

・これからも歌謡曲と言うジャンルの音楽を大切にして下さい。
・しかし歌謡曲の良さを再認識するためにも、色々な音楽を聴いて下さい。
・音楽とリンクした思い出を、これからも大切にして下さい。
・たまにはコメントもよろしく(^^)

以上が私からのお願いです。 きいてほしいの(*^^*)


平成最後の年末を迎えました。
新しい年が、皆さまにとって素晴らしいものでありますように。

それでは、また来年!(^^)/

***************************************
追記(12月28日 23時17分)

それでは正解を…

四つのお願い (ちあきなおみ) でした。

回答を下さった皆さま、ありがとうございました!

来年もクイズ、やりますよ(^^)

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