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秋の午後 / 南沙織

B面曲なのにこのクオリティって…

色づく街.jpg

Introduction 楽曲について

「秋の午後」は南沙織さんの8曲目のシングル「色づく街」(1973年8月発売、
オリコンシングルチャート最高4位)のB面、
及び同年9月に発売されオリコン5位まで上昇するヒットとなったアルバム「20才まえ」
に収録された楽曲です。

南沙織さんのファン以外には知名度が高くない曲ですが、歌詞・曲ともに
とてもB面やアルバムカットとは思えないほど良質な楽曲ですので、
これを機に興味を持って頂ければと思います。


1st Verse 作家について

南沙織さんには1975年のシングル「想い出通り」まで、B面・アルバム曲を含め
殆どすべてのオリジナル曲を提供していた作詞・有馬三恵子氏、作曲・筒美京平氏の
コンビネーションです。
そして「秋の午後」では筒美氏が編曲も担当しています。


2nd Verse 歌詞について

有馬三恵子氏の作風なのか、或いは南沙織さんの楽曲についてだけかは定かでありませんが、
いわゆる「です・ます」調ではなく、心の言葉を自分に言い聞かせるような文体で
書かれているのがデビュー曲「17才」からずっと共通している大きな特徴です。
歌詞の内容の世界としては、岩崎宏美さんの1977年秋のシングル「思秋期」のB面に収められた
「折れた口紅」にも似たような風景が目に浮かぶのですが、
「秋の午後」の方がやや大人っぽい落ち着きが感じられます。


3rd Verse 作風について

1971年秋に発売された「スーパースター」が日本での初ヒットとなったカーペンターズ。
その人気は徐々に高くなり、1973年7月に発売された「イエスタデイ・ワンス・モア」で
爆発的なものとなりました。
「秋の午後」は明らかに「イエスタデイ・ワンス・モア」の曲調や構成をカバーしたものであり、
南沙織さんの次のシングル「ひとかけらの純情」に引き継がれています。

イエスタデイ・ワンス・モア.jpg

筒美京平氏もカーペンターズはとても気になる存在だったようで、
音楽家のインタビューサイト「作家で聴く音楽」では
「当時はカーペンターズみたいに1つのジャンルとして成立しうる新しい音楽が
リアルタイムで出てきた時代でしたからね。
良い意味でのショックが大きくて、一ファンとして、一プロフェッショナルとして
とてもよく聴きました。」(原文ママ)と語っています。

カーペンターズの音楽には特色がいくつかありますが、特に
・カレン・カーペンターの低音域を生かしたリードボーカル
・凝ったバックコーラス
・凝ったコード進行、ベースライン
・木管楽器(フルート、クラリネット、オーボエ等)、ストリングスの多用
の4点が大きいと言えます。

「秋の午後」では贅沢な事に、それらを殆ど取り込んでいるんです。

まずボーカル。
南沙織さんは中音域から高音域にかけて独特の声質を持っていて、
ヒットした楽曲でもそれが遺憾なく発揮されているのですが、
低音域も意外なほど充実しているんですね。
2つ前のシングル「早春の港」では ♪ふるさと持たないあの人に 海辺の青さ教えたい…♪
の中の「海辺の」の部分は下のF#とかなり低い音程なのですが、
やっと出ている感じではなく、余裕のある発声で歌っています。
「秋の午後」でも最低音は同じF#ですが、その音程付近がメロディーに多用され、
カレン・カーペンターのような落ち着き感を醸し出しています。

「秋の午後」で聴かれるバックコーラスはリバティ・ベルズ。
当時大学生だった5人組の混声コーラスグループです。
先述のアルバム「20才まえ」に収録されたヒットシングルメドレーや、
次のシングル「ひとかけらの純情」でも大きくフィーチャーされていますが、
カーペンターズのバックコーラスの特徴でもある息音まで再現し、
「誰が聴いてもカーペンターズに似ている」サウンドに大きく寄与しています。

コード進行については次の項目を参考にして頂くとして、
木管楽器の使用については、「秋の午後」ではのっけからイングリッシュホルン
(コーラングレとも呼ばれ、「学生街の喫茶店」(ガロ)の間奏を演奏している
楽器としても知られています)からオーボエへのリレーが耳に飛び込んできます。
カーペンターズの曲では「ふたりの誓い」「スーパースター」のイントロでのオーボエ、
「ジャンバラヤ」「小さな愛の願い」でのフルートなどが挙げられますね。
「秋の午後」でのイングリッシュホルンとオーボエは曲中でもかけ合いのように使われ、
最後にユニゾンで演奏され曲が終わります。


興味深いのが筒美氏がこの曲に「イエスタデイ・ワンス・モア」の要素を採り入れた時期です。
「秋の午後」は1973年8月21日の発売で、レコーディングはその1ヶ月半~2ヶ月前と思われますが、
カーペンターズの「イエスタデイ…」が発売されたのはアメリカでは同年5月、日本では7月10日。
つまり日本でそのシングルがまだ発売されていなかった頃に「秋の午後」は作られ、
レコーディングされていたと推測されるんです。
実は「イエスタデイ…」は先行してアルバム「Now & Then」に収録され発売いたのですが、
それでもそれが発売されたのは日本では同年6月25日であり、
筒美氏は輸入盤でいち早くレコードを手に入れ聴いていたと仮定しても、
その採り入れ方の早さには驚くばかりです。

因みに、「色づく街 / 秋の午後」の発売前日(8月20日)のオリコンシングルチャートでは、
「イエスタデイ・ワンス・モア」は7位にランクされていました。


Chorus 楽曲の中味について

「秋の午後」はシンプルな2コーラス構成です。
イントロや間奏にオーボエのソロが入るのは、歌謡曲では数少ない例でしょう。

リズムは典型的な8ビートで、キーはBメジャー(ロ長調)です。
他調にわたる転調はありません。

1コーラス内の構成は、低音域を多用して静かに歌われるA・A'メロ、
バックコーラスとのかけ合いが聴きものであるB・B'メロ、
ややエモーショナルに盛り上がるCメロ、
バックコーラスとのかけ合いは残したまま静かに落ち着いていくDメロと、
やはり「イエスタデイ…」の展開を大いに意識したものとなっています。

さらにA'と間奏には、「イエスタデイ…」がヒットした最大の要因と思われる、
インパクトの大きい ♪Sha-la-la-la…♪ のコーラスが使われ…と言った念の入りようです。
筒美氏は恐らく、アルバムで「イエスタデイ…」のそのコーラスを初めて聴いた時に
大ヒットを予感し、作品作りに採り入れたのでしょう。

ではもう一度楽譜を…(サムネイル上クリックで大きく見られます):
gogo.jpg
カーペンターズの楽曲のベースラインの美しさについては、
それまでにもジャズ評論家筋からも称賛される事があったほどなのですが、
「イエスタデイ…」にも、そして「秋の午後」にもそれは生かされています。

Aメロでは B→A#→G#→F#→E→D#→C#→F#→B・A#・G#・F#・F・E・D#・C#・F#
Cメロでは G#→G→F#→E→D# G#→G→F#→E
…とベースを半音・全音ずつ下降させていくパターンを多用し、
スムーズで美しいベース進行、そしてそれに伴うコード進行が感じられます。
その点ではやはり「イエスタデイ…」のベースラインを踏襲していると言えるでしょう。

しかし「イエスタデイ…」とは違う点もいくつかあります。

一つは、「秋の午後」ではトニック(Iの和音)にメジャーセブンスを多用している事。
「イエスタデイ…」では本編部分はトライアド(3和音)が基本であり、
歌部分から間奏やエンディングにつながる ♪shubi-du-dan-dan♪ の部分にしか、
メジャーセブンスは使われていないんです。

もう一つはsus4の使い方で、これは「秋の午後」独自のものと言って良いと思います。
一つのフレーズを終了させようとしてドミナント(V7の和音)の出番となった時、
一旦不安定な響きのsus4で勿体ぶってから結局安定したV7に移り(解決し)、
次にIの和音に落ち着く、とするのが定番なのですが、
「秋の午後」の、特にBメロではF#sus4になってからF#7で解決する事なく、
B'メロのBM7に移行しています。

2000年前後のJポップではエンディングでsus4で引っ張って結局そのまま、
何だかモヤモヤとしたまま終わってしまう曲がいくつかありましたが、
1970年代の歌謡曲ではそのようなパターンはまず、皆無でした。
こうして文章で解説するより実際に聴いてみると、よりアグレッシブに感じられると思います(^^)

歌メロについては「イエスタデイ…」よりも遥かに複雑で、
特に3連符が多用されていながら流れがスムーズである事、
音程の起伏が極めて大きい事(Aメロ ♪…立ち止まる♪ では一気に1オクターブ飛んでます)など、
聴かせる歌となるにはかなりの技術が必要である事が察せられます。

私事ですが、南沙織さんを「歌がヘタ」と嫌っていたウチの両親が「この子、歌が上手くなった」
と感心していたのが「色づく街」の頃でした(あれ?この事、以前にも書いたかな(^^;))


Bridge シンシアの声について

歌手には全員と言って良いほど、特別に響きの良い、声が通る音程があるものです。
南沙織さんの場合、これは私見ですが、それは先述のような低音域のF#、
中音域のF#、そして高音域のBであると思います。

低音域のF#についてはすでに少し書きましたが、さらには実音程よりも低音感がある事、
落ち着きと余裕がある事、中音域以上とは全く違う表情を持つ事が特徴と言えます。

中音域のF#は明るい音色で、南沙織さん独特の「あ」と「え」が混ざったような発声も
最も個性的に聞こえてくるのが特徴です。

高音域のBは発声に苦しさが感じられない中の最高音で、その半音上のCを多用する
「夏の感情」のような緊張感こそないものの、十分な張りで説得力が感じられます。

それを総合すると、南沙織さんの声とその音域が高度に生かされていたのが
この「秋の午後」、そして前年にヒットした「純潔」であったと思います。

南沙織さんは同期の小柳ルミ子さんや天地真理さんと違い、地声でその音域を
駆使できる歌手であった事が、筒美氏の創作意欲をかき立てる要因の一つであった
事も確かでしょう。


4th Verse サウンドについて

「秋の午後」に使われている楽器とその定位は:

左: 電気ピアノ アコースティックギター コーラス

中央: イングリッシュホルン ベース ストリングス

中央―右: オーボエ

右: ドラムス コーラス

ドラムスが右に定位し、ストリングスが中央に集まっているのは珍しいパターンです。
A面の「色づく街」とは全く違うミックスで、これはあくまでもボーカルとバックコーラスを
前面に出すためのものでしょう。

ボーカルにかかっている、いかにも70年代っぽいフィードバックエコーは、
ロングトーンでは二重唱のような効果もプラスされ、
南沙織さんの声をよりつややかに、魅力的にしています。
2コーラス目が始まる直前、わずかにリップノイズが聞こえるのはご愛嬌ですね(^^)


Coda 付記

私にとって南沙織さんとカーペンターズは、小学~中学にかけて最も好きで、
最も聴いた音楽であるので、筒美京平氏がカーペンターズ好きである事を知った時は
それは嬉しかったものでした。

今回はそれに則り、随所でカーペンターズの音楽を持ち出して書かせて頂きました。
「秋の午後」はB面曲であり、ご存知ない向きも多い事は承知の上で採り上げました。
この長~い記事を読んで頂き、「聴いてみたい」と思って下さる方が一人でも増えたら
とても嬉しく思います(^^)

ところで…南沙織さんに「午後」、なぜかよくわからないのですが、すごく似合うと思いませんか?
「ゆれる午後」「午後のシンシア」… イメージって、不思議です。


「秋の午後」
作詞 : 有馬三恵子
作曲 : 筒美京平
編曲 : 筒美京平
レコード会社 : CBSソニー
レコード番号 : SOLB-63 (「色づく街」C/W)
初発売 : 1973年8月21日

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桜田淳子・三つの「花物語」

ぽぽんたです。

1ヶ月ほど前にウェブサイト「大人のMusic Calendar」に初めて投稿してみました。
残念ながら不採用でしたが、
ちょうどこの季節に発売された楽曲について書いたものですので、
その投稿文をここに発表させて頂きますね(^^)
ジャケ画像を加えてありますが、ほぼ原文のままです。

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44年前(1973年)の11月10日、桜田淳子さんのシングル「花物語」が発売されました。
花物語.jpg
同年9月に発売されたアルバム「わたしの青い鳥」に収録された「淳子の花物語」が原曲で、BGMのようなオケとセリフで構成されていました。
わたしの青い鳥album.jpg
そのセリフを少々変え、歌を加え、それに合わせアレンジも作り直して完成した「花物語」は、桜田淳子さんにとって4枚目のシングルにして初のオリコンベスト10に入るヒット(同年12月10日付の9位が最高)となった、記念すべき曲です。
この花は私です… 一度耳にすると離れないほどのパワーを持つセリフで始まるこの曲は、「わざとらしい」などと嫌う人もいた反面、デビュー曲「天使も夢みる」に始まり「天使の初恋」「わたしの青い鳥」と徐々に増やしていったファンを一層魅了したことでしょう。

「花物語」は「淳子の花物語」のリメイクものですが、第三の「花物語」とも言える作品が「三つの約束」で、桜田淳子さんの4枚目のアルバム「三色すみれ」のA面4曲目にひっそりと収録されています。
三色すみれalbum.jpg
歌詞は「花物語」で願いが叶った主人公のその後と言ったような内容で、弾むようなそのメロディーは起伏が大きく、またサビが演歌調なのが面白く、聴いた事がない人に聴かせれば「こんな変わった曲もあったのか」と興味を持たれる事でしょう。

アレンジは明らかに「花物語」路線、と言うよりも流用に近く、ストリングス主導でハープがアクセント付けに活躍し、またそれらのフレーズ自体がもろ「花物語」なんですね。
もしかすると「花物語」と同時期に制作され、ボツになった楽曲なのかも知れません(裏が取れていないので断言はできませんが)。

当時のビクター歌謡には「ビクターサウンド」と呼ぶべきサウンドが明確に存在していました。
それはビクターのレコーディングエンジニアの高田英男氏が開発したもので、ボーカルやストリングスにプリディレイを長めにしたリバーブを深めにかけ、中音域をやや張り出させ、高音域は華やかに…と言ったパターンがビクター所属歌手の楽曲で数多く聴かれました。
その始まりは「芽ばえ」(麻丘めぐみ、1972年6月発売)でしょう。

「花物語」「三つの約束」にもその特色が生かされていますが、その2曲ではさらに、桜田淳子さんのボーカルが一人二重唱ならぬ一人三重唱になっている事にお気づきでしょうか。
「花物語」では歌部分のボーカルが、二人分は同バランスで一人分をやや遠め(小さめ)にしてあります。
「三つの約束」では中央に二人分、そして中央からやや右寄りにもう一人分のボーカルが入っていて、サビ後半ではそれらが♪みっつ~(みっつ~)ほほえみ~(ほほえみ~)♪と追っかけしているという凝りようです。
そんなボーカルにかけられた、やや派手なフィードバックエコーの効果にも耳を奪われますね。

因みに桜田淳子さんの追っかけボーカルは、「青いカナリア」(1974年12月発売「ベスト・コレクション'75」に収録)のエンディングにも使われています。

当時の歌番組ではカラオケはほとんど使われず、生のブラスオーケストラに生歌が普通でしたから、サウンド的には凝った事ができませんでした。
視聴する側もテレビはテレビ、レコードはレコードと別物に捉えていましたから、「レコードだと上手いがテレビだとヘタ」と言われてしまう事が多かった反面、レコードでしか実現できない歌唱や音作りも、その売り上げに大きく貢献していたと思われます。

現代ではテレビ番組でも商品化されたものと同じ音源が使われる事がほとんど、しかも歌までその音源のままである事が多く、かつてのようにレコードではテレビでは聴けない音が楽しめる…と言ったような楽しみは失われています。

「音楽が売れない」と言われ始めてから久しいですが、生活様式の変化云々のせいにするよりも、商品の形態を含め「買ったからこそ楽しめる」音楽を制作する努力が必要と思います。
そのためには、楽曲や演奏者の質的向上は勿論、テレビの音楽番組等で商品と同じ音源を安易に使用させない事も大切です。
若い世代にアナログレコードやカセットテープが徐々に浸透してきた現在は、いわゆるパッケージミュージックの復権、売り上げ向上への良いタイミングではないでしょうか。

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内容的にはこのブログで過去に書いた事を含んでいますので、
それを憶えておられる方には新鮮味がないかも知れませんm(__)m

私のブログ色を濃く出してしまったのが敗因かも知れませんが(^^;)、
こういった記事も今後、色々と書いてみるつもりです。
その時にはまた、ぜひ読んで下さいね(^^)/

次回はクイズにしようかな(^^♪

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