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アイドル歌謡と二重唱

まだ松の内という事で…改めまして、あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願い致します。

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今回は以前から書きたいと思っていたテーマです。
これまでの個別の曲解説では何度か書いてきたのですが、あまり深くは書けなかったもので…。

それは、1960~1970年代の特にアイドル歌謡におけるボーカルの重ね録音について、です。


現代ではテレビの音楽番組でも予め録音された演奏や歌を使うのが普通ですが、
以前は生のオーケストラが演奏し、それに歌手が生歌を乗せるのが普通でした。

それだと「テレビで歌を聴いたら大して上手でないのに、レコードだとやたら魅力的に聴こえる」
という現象(?)が起き、それがレコードを買いたくなる要因でもあったわけです。

レコード用の音源作りでは、うまく歌えた部分を継ぎ合わせてまとめると言った操作もそうですが、
もう一つ、歌を魅力的に仕上げるテクニックが重ね録音、なんですね。


それを積極的に採り入れた楽曲をいくつも世に送り出した作曲家の代表が筒美京平氏です。

それが感じられる最も古いと思われる楽曲は、
弘田三枝子さんの「渚の天使」(1968年)あたりでしょうか。
渚の天使.jpg

筒美氏が画期的なのは、特に女性歌手でハーモニーをつける重ね録音を数多く行っていることです。
「渚の天使」以前にも、鈴木邦彦氏作・編曲で黛ジュンさんが歌った「恋のハレルヤ」などで
一人追っかけやハーモニーをつける二重唱が行われていますが、
仕上がりにどことなく垢抜けたセンスを感じさせるのは筒美氏の作品が多いように思います。

ハーモニーをつけるということは、主メロディーと副メロディーの2つを歌って重ねるということで、
レッスンの時間もないほど忙しい歌手にとってはかなりの負担だったのではないでしょうか。

まずは「あなたならどうする」(いしだあゆみ、1970年)が、その手の最初期の大ヒットでしょう。
あなたならどうする.jpg

そして忘れられないのが麻丘めぐみさん、浅田美代子さん。
ご両人については、1973年にそういった楽曲が集中しています。

まず浅田美代子さん。
デビュー曲の「赤い風船」は、Bメロに来るとまずユニゾンで5小節、
続いて6度下、そして3度下にハーモニーをつけています。
赤い風船.jpg

もっと凄いのが第2弾の「ひとりっ子甘えっ子」で、
まず「赤い風船」と同じようにBメロでまず4小節ユニゾンで歌われ、
続いて3度上→6度上→3度下 にハーモニーをつけています。
さらにエンディング近くでは主メロディーと同時に別音階の副メロディーを重ねていて、
ここまで来ると単なる一人二重唱ではなく、コーラスワークと言って良いほど高度です。
それを、当時歌唱力を揶揄されていた浅田美代子さんにさせてしまっているのですから、
驚きという他ありません。
ひとりっ子甘えっ子.jpg
実際にその副メロディーを歌ってみるとわかりますが、非常に音が取りにくいんですね。
浅田美代子さんは確かに歌唱力が頼りない印象は拭えませんが、
音楽に関する素養は一般に認識されているものよりは遥かに高かったのではないか、
なので筒美氏も敢えてそのようなアレンジにしたのでは、と私は思います。


そして麻丘めぐみさん。
「芽ばえ」「悲しみよこんにちは」「森を駈ける恋人たち」「わたしの彼は左きき」と、
第3弾シングル「女の子なんだもん」以外ではユニゾンの重ね録音が用いられていますが、
次の「アルプスの少女」ではBメロでのユニゾンに加え ♪馬車が来る♪ で3度上のハーモニー、
そして主メロディーでも副メロディーでもないルルル~…と主メロディーにかぶるような、
麻丘めぐみさん本人によるコーラスパートまでついているんです。
アルプスの少女.jpg

あ、でも麻丘めぐみさんと言えばこんな追っかけボーカルが最も知られてますね:

他にも「白い部屋」(1974年)、作家は違いますが続く「雪の中の二人」(1974年)でも
きれいなハーモニー二重唱が聴かれます。
白い部屋.jpg

先ほどの「ひとりっ子甘えっ子」の所では流して書いてしまいましたが、
歌謡曲では、主メロディーに対して高い音(上、と表現)でハーモニーをつけることは珍しいんです。
なぜかと言うと、人間の特性として高い方の音を主メロディーと判断してしまいがちだからです。
学校でコーラスをやった時、音の高い方のパートにつられてしまう経験をした人は多いと思います。

なので、明確な目的がない限り、歌謡曲でハーモニー目的で一人二重唱などを行う場合、
大体3度下に副メロディーをつける場合がほとんどです。
ハーモニーが多彩だと豊かな仕上がりの音楽になりますので、
筒美氏が高度な一人二重唱を書いたのは、アイドル歌謡でも高い音楽性を持たせたい
といったような意思があってのことでしょう。


時期的に前後しますが、筒美氏が力を入れていた南沙織さんの楽曲にも、
そういった楽曲がいくつかあります。

まずは「純潔」(1972年)。
サビで1小節あまりユニゾンで歌ってから3度下にハーモニーがつきます。
純潔.jpg

似たようなパターンなのが「色づく街」(1973年)ですね。
色づく街.jpg

B面曲ですが、「昨日の街から」(「傷つく世代」c/w)では、サビではなくAメロで
3度下のハーモニーがつきます。
傷つく世代.jpg

南沙織さんの楽曲ではユニゾンだけの二重唱は少なくて、
シングルA面では「夏の感情」(1974年)だけです。


一人二重唱は先述のように声の厚みを増したり、ハーモニーを豊かにする効果がある反面、
機械的な歌唱になりがちと言った欠点もあります。

二重唱ならば同じメロディーを2回、あるいは主・副メロディーを全く同じように歌わないと、
きれいに重なっては聞こえません。
伸ばした音をどのあたりで切るかと言ったことも含め、歌いまわしを予めきっちりと決めておく
必要があるため、声が一つの時のような自由さが損なわれ、固い歌い方に聞こえるからでしょう。


実際の録音では、1回目を歌った後、
録音された自分の歌をモニターしながら2回目を歌うことで、ズレがある程度回避できるので、
最初から「ここは二重唱」と決まっている場合はそのようにしていたようです。

海外だと、ジョン・レノンやカレン・カーペンターなど、2回ともピッタリ同じに歌えた…
などの逸話がありますが、実際にはいかに大変か、やってみるとすぐわかります
(勿論トレーニングを重ねた人や、元々才能がある人は別でしょうが)。

その代わりうまくいくとその効果は絶大で、レコードでは大きなセールスポイントになります。
何しろ生演奏・生歌唱では絶対にできないことをしているわけですし、聴いていて楽しい。
昔は同じ曲で同じ人が二人分歌っいる、それだけで聴く側にはまるで魔法だったわけです(^^)


ただ、そのテクニックがどんな歌手でも有効というわけではないのが、また面白いところです。

私が意外に思ったのが岩崎宏美さんの場合です。
デビュー曲「二重唱(デュエット)」(1975年)ではそのタイトル通りと言っていいのか、
ユニゾンで二重唱になるパートがありますが、一つの声の部分と比較して魅力的か?
と考えると、むしろ一つの声のままの方が豊かな表情が感じられたりします。
二重唱.jpg

制作陣もそう感じたのか、その後、ユニゾンの二重唱が使われた事はほとんどなく、
次は筒美氏の作品ではない「夏に抱かれて」(1979年)まで待たねばなりませんでした。
あとはその翌年の「摩天楼」のサビ部分、1982年発売の「檸檬」くらいでしょうか。

ただ、ユニゾンではなくハーモニーをつける二重唱では「シンデレラ・ハネムーン」(1978年)、
B面曲ですが「そうなのよ」(1975年、「センチメンタル」C/W)などで、
その声質と音程の良さが発揮された効果を感じる事ができます。
センチメンタル.jpg

これは私見ですが、新人歌手のデビュー曲には、まだその歌声の特性などが
完全には理解されていないため、セールスポイントを上げるためか、
一応二重唱パートも作っておきましたと言いたげな仕上がりの楽曲が多いように思います。

そのため、重ねた声がかなりズレていたりする楽曲もあるようです(^^;)

最初は二重唱にする予定はなく、ミックスの段階で「ちょっとボーカルが細いな…」との理由で
ボツになったボーカルトラックを使って急きょ二重唱に…という事もあったそうですが、
そんな楽曲だと、うまく重なった部分、そうでない部分が如実に聞き取れたりしてしまいます。

私が以前から気になっていた「わたしの彼は左きき」の二重唱部分は恐らくそのパターン。
また、これは筒美氏の作品ではありませんが、「太陽の友達」(山口百恵「ひと夏の経験」C/W)
がそのパターンである事は、川瀬泰雄氏の著書「プレイバック」に書かれています。
ひと夏の経験.jpg

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今回は筒美京平氏の作品における歌の重ね録音について、代表的な歌手の作品を引き合いに
説明してみました。

勿論、筒美氏の作品以外でも一人二重唱、場合によっては三重唱などは珍しくはないので、
少し期間をおいて(いくつか通常の記事を続けてから)、続きを書かせて頂きたいと思います。

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もとまろ

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。

いろいろなボーカルの演出がありますが、二重録音はいちばん聴きやすいし、私も中学生のときに(カセット入口2つ、8トラ入口1つ)ダビングできるカラオケを使って二重・三重録音をしたことがあって、歌うのも楽しいです。

最初に始めたのは三橋美智也さんの1960年「達者でナ」だったと聞いたことがあります。
♫あ〜あぁぁ〜♫に♫おーらおーらたぁっしゃでな〜♫が重なり、♫かぜひくな♫でハモる(「な」で同じ音に着地)。
生バンドの歌番組だとだいたいコーラスの方が歌うので、これはレコードならではだなぁと思います。ただ、口ずさむときどっちを歌おうかなぁと迷うところではありますね。

「同じ音に着地」といえば、弘田三枝子さんの「枯葉のうわさ」、♫すてましょう〜〜おぉ〜♫の「おぉ〜」のあのユニゾンが迫力あるなぁと思います。コーラスに歌ってもらうよりも、二重唱にした方が味が出る好例です。

ミックスの段階で「線が細い」とされ二重唱になった…というので思い出したのが太川陽介さんの「Lui−Lui」です。
没テイクを使ったのかまた録音したかはよくわかりませんが、太川さん本人が近年話してました。都倉先生から言われたそうで、とても悔しかったそうです。
レコードでは、「ルイ!ルイ!」の部分が男性コーラスの声だけで太川さんの声が聞こえなかったり、テレビでは毎回やってる歌終わりの「ルイ!ルイ!」がなかったり、何回も、しかも踊りながら歌うことでますます良くなっていろいろバージョンアップしていったのかな…と想像します。

めぐみさんの「わたしの彼は左きき」のあんまり声が重なってない部分、あの機械的じゃない人間味みたいなところが好きです。それと美代子さんは最初に聴いたのがテレビだったので、レコードのあのハモりに「歌、そんなに言うほど下手じゃないのになぁ」と思ったものでした。
by もとまろ (2021-01-15 10:04) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは!

最初が三橋美智也さんの曲だとは知りませんでした。
洋楽の影響と思われる一人二重唱を最も歌謡曲らしい三橋美智也さんの楽曲で行われたのは、
きっと当時は画期的なことだったでしょうね(^^)

弘田三枝子さんの楽曲にも一人二重唱は結構多用されているんですよね。
特に例を挙げて下さった「枯葉のうわさ」以後、筒美京平氏が作・編曲した楽曲では、
まるで実験でもしているかのようにボーカルに色々な効果をかけているのがわかります。

太川陽介さんのそのエピソードは私も何かで読んだ記憶がありました。
確かに線が細い声なのかも知れませんが、その分、ダブルにすると効果的だったりして、
それは寺尾聰さんと共通する特色だと思います。
でもあれですね、作曲家から直々にそう言われると、歌手の資質に欠けていると
言われているも同然なので、ショックだったことでしょう。

麻丘めぐみさんは、「芽ばえ」のBメロもダブルなのですが、それはよく聴かないと
気づかないほど、きれいに重なっている一例ですね。
私も浅田美代子さんのデビュー当時は大ファンだったので、何かにつけて
「歌がヘタ」と言われているのがとても残念だったものです。
確かにテレビの生歌だと外しすぎのこともありましたが(^^;)


by ぽぽんた (2021-01-16 23:12) 

TAKABOU

お久しぶりです。当時、ひとりハモリ沢山ありましたネ。全般に歌番組でのボーカルはレコードのような重厚さがなく軽薄に感じていました。特に印象が強かった浅田美代子さんの「ひとりっ子甘えっ子」、ヒットしていた当時から、ひとりハモリが凄いなと思っていました。今改めて聴いて、ハモリの完成度の高さに関心します。浅田美代子さんは音程はずしとか言われていたけれど、レコードで聴く限りはそんなことはなく、実はキャラ作りだったのではと思いたくもなりました。
by TAKABOU (2021-01-17 07:49) 

ぽぽんた

TAKABOUさん、こんばんは! お久しぶりです(^^)

そうそう、レコードの音に慣れてしまうと、歌番組での歌唱が何とも物足りなく
思えたものです。 今のように簡単にエコーをつけたりも出来なかったですし。

私は「ひとりっ子甘えっ子」のレコードを買ったのはちょっと遅くて、
次の「わたしの宵待草」が新曲だった頃にその曲と2枚一緒に買ったんです。
そしてレコードを聴いてびっくりしました。 「赤い風船」以上に難しい二重唱をしてる!と(^^;)

私もTAKABOUさんと同じで、あの頼りない歌唱は演技なのでは、
と当時思ったものです。

by ぽぽんた (2021-01-18 23:37) 

マコジ

お久しぶりです(^^
ハモリではないですがヒロリンの一人コーラスと言えば「あざやかな場面」を想い出します!
歌番組では副旋律の方を歌ってましたよね。
春の温かい陽気にぴったりですよね~。
あの当時ファンクラブにも入っていたし、たぶんヒロリンにガチ恋してたんだろうなあ笑
by マコジ (2021-03-20 13:18) 

ぽぽんた

マコジさん、こんにちは! お久しぶりです(^^)

「あざやかな場面」は私も大好きな曲です。
1978年夏に発売されたベスト盤でそれを聴いた時は感激しました(当時高2でした)。
エンディングの、2パートが交わっては分かれるようなボーカルは素晴らしいですね。
その年の9月に町田の小田急デパートに「シンデレラ・ハネムーン」の
キャンペーンで来た時のこと、今も大事な思い出です。

by ぽぽんた (2021-03-21 11:30) 

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