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ジョニィへの伝言 / ペドロ&カプリシャス

阿久悠氏が自身で最も気に入っている歌詞だそうです:

ジョニィへの伝言ジャケ.jpg

「ジョニィへの伝言」はペドロ&カプリシャスの4枚目のシングルとして1973年3月に発売され、
オリコンシングルチャートで最高24位(100位内に42週)、24.8万枚の売り上げを記録しました。

この曲からペドロ&カプリシャスにリードボーカルとして参加したのが髙橋真梨子さん。
その髪型からか「歌う紫式部」などと言われていましたが(^^;)、当時は高橋まりを名乗っていました。
時は天地真理さんの全盛期で、所属事務所の渡辺プロとしては同じ「マリ」の方が覚えられやすい、
と考えたのかどうかは定かでありませんが(^^;)、
何年か後にソロ歌手になるとどんどんイメージが変化し、今では大歌手の一人ですね。


作詞は阿久悠氏、作曲は都倉俊一氏。
前々年(1971年)には「昨日・今日・明日」(井上順之)、「天使になれない」(和田アキ子)、
前年には「どうにもとまらない」「狂わせたいの」(山本リンダ)など、
すでにヒット曲を量産し始めていたコンビによる作品です。
「ジョニィへの伝言」では、都倉俊一氏は編曲も行っています。


映画を観ているようなドラマティックな歌詞については、これまでも色々な記事・書物で語られて、
歌詞それだけでも文学的な価値を持っていると思えるものです。

「ジョニー」「Johnny」がつく曲は他にもいくつかあって(芸能プロダクションのジャニーズは
Johnny'sですから、本当はジョニーズ…しかしアメリカ英語の発音だとジャニーに近いんですね)、
私が知っているのはオールディーズの「Johnny B. Goode」「Johnny Angel」、
邦楽では「硝子のジョニー」(アイ・ジョージ)、「ジョニーの子守唄」(アリス)…
と言ったところですが、タイトルに「ジョニィ」と綴られるのはこの曲だけであるようです。

しかしこの曲、歌を聴いている分には「ジョニー」なのか「ジョニィ」なのかは全く判別不能ですし、
他の作家にしても、例えば「わかれうた」(中島みゆき)の歌い出し「みちに倒れて…」が、
歌詞カードには「道に倒れて…」ではなく「途に倒れて…」と書かれていますし、
「青春」「時代」「季節」などに強引にルビを振って「とき」と読ませてみたり。
それはそれで面白いですし、ただ音として歌を聴くだけでなく、レコードなり買ってそれを知ると
歌詞の発想元が判ったり、新しい世界を感じたりすることもあるものです。
作品によっては、作家のただの自己満足のような気がするものもありますが(^^;)

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「ジョニィへの伝言」は曲全体の構成も洋楽のように変則さを呈していて、
イントロ→A→A→サビ→A(但し前半がインスト、実質間奏)→サビ→A'→コーダ
…と、単純な2ハーフのような構成ではないので、テレビ出演時で時間が限られる時に
端折り方が難しかったのではないでしょうか。

リズムはややスローな8ビート。
キーはFメジャーなのですが、内容は同じでEメジャーに近いピッチのカラオケが存在するので、
元々はEで、マスターを制作する際にテープ速度を半音分速める操作をした可能性もあります。
全体の音が明るくなるからか、他の楽曲でもそのような操作はたまに行われていたようです。


都倉氏の作品では、筒美京平氏等同様にイントロが歌メロとは別メロで作られる事が多いのですが、
「ジョニィへの伝言」はAメロの後半をそっくり持って来ている、珍しい例と言えます。


この曲でちょっとこだわって解析したいのがコード進行です。
例えばピンク・レディーの「カルメン'77」や「UFO」など、都倉俊一氏の作・編曲作品は
コード進行が凝っている曲が散見され、それが大きな効果を上げているのですが、
氏の初期の作品は「あなたの心に」「昨日・今日・明日」「どうにもとまらない」など、
構成やコード進行については比較的シンプルな曲が多かったので、
「ジョニィへの伝言」は、後に凝った展開の楽曲を生み出す布石となった作品かも知れません。

では歌メロ部分のコードを並べてみますね(説明のため、Cメジャーに移調して書きます):

Aメロ: ①ジョニィが来たなら伝えてよ C→F→G7→C
    ②二時間待ってたと Dm→Em→F→G→Am→Bdim→C→Dm→E7
    ③割と元気よく出て行ったよと お酒のついでに話してよ Dm7→Fm6→CM7→A7
    ④友だちならそこのところ うまく伝えて Dm7→Fm6→CM7→A7 Dm7→G7→C

サビ: ⑤今度のバスで行く 西でも東でも Fm6→C Fm6→C
    ⑥気がつけば さびしげな町ね この町は Dm7→Em7→Dm7→F#dim→Dm7→G7

まず①で全く定石通りのI→Ⅳ→Ⅴ→Iと始まり、またその繰り返しかと思いきや、
②でベース音と歌メロが同じ音、
そしてそれに伴う3和音を1音ずつ上に平行移動させる暴挙(?)に出ます。
これで掴みはバッチリ、ですね(ベースと歌メロをユニゾンさせる手法は、「渚のシンドバッド」等の
ピンク・レディーの楽曲にもよく使われています)。

そして②やその後の同じフレーズでは、♪待ってたと…♪♪私は大丈夫…♪ とリズムブレイクとなる時、
わずかにタメが入って(ブレイクが長めになっていて)、「…」を強調しているんですね。
この曲の、意外な聴きどころではと思います。

③、④は4和音を多用した美しいコード進行で何気ない歌メロが乗っていますが、よくチェックすると
♪割と元気よく♪ はレ・ファ・ラの和音の上を、その構成音にない音も使ったミドドラド…
が乗っていたりします。
舗装された道路上をまっすぐ走らずに、その脇の歩道を気ままにスキップしているのに似て、
不協和音を生じさせない配慮よりも自由な流れを大切にした作りと言えます。
それは従来の歌謡曲よりも、より洋楽に近づいた音使いですし、
都倉氏が当時において新感覚を持った、柔軟なメロディーメーカーであった一つの証とも思えます。

さらに④の ♪友だちなら そこのところ♪ はもっと凄い!
その最後の「ろ」で、コードの構成音がラ・ド#・ミ・ソのところにシ、
即ち音楽用語で言うところの9thの音なので本来は不協和音なのですが、
それが聴いていて全く自然なんですね。
私はこの事、10年以上前に自分でピアノで弾いてみた時に初めて気づきました。
やはりいい音楽は流れのいいメロディーありきだな、と思い知らされる一例です。


長調の楽曲の場合、サビは明るくⅣの和音を中心に進行するものなのですが、
この曲では⑤で示す通り、そのⅣがマイナー(短音階)の和音になっています。
今度のバスで行く!西でも東でも、楽しけりゃいいや!…ならばそのような音は使わないはずで、
この歌詞の主人公が胸の奥に悲しみを抱えて出発する事を表現するために、
陰りのある響きのFm6が使われているわけです。
この曲のように、長調の曲でサビの頭でⅣのマイナーコードが出てくる曲は、私は他に知りませんし、
♪今度のバス…♪ の音はそのFm6の"6"の音(構成音がファ・ラ♭・ド・レである中のレ)を連打で
使っている事も含め、この曲は詞先で作られ、それに合った音使いで歌メロを構成したと思われます。

そしてもう一つ、⑥の ♪この町は♪ のコードにF#dimが使われているのがとても新鮮です。
ここは従来通りならばF6あたりが使われるのですが、それを差し置いてF#dimの響きを用いる事で、
気分は暗いがその先に新しい展開があるような気がしてくる、わずかだが期待が持てる…
私にはそんなイメージが湧いてきますが、如何でしょう。

都倉氏が時々そのような、ある意味突拍子もないコードを用いて最大限の効果を上げる事があるのは、
以前「若さのカタルシス」(郷ひろみ)の記事に書いたと思いますので、よかったらご参照を…。

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オケの構成は比較的シンプルで、左にフォークギター、右にピアノを配置してコードを演奏し、
中央にはベースやドラムス、タンバリンとリズム関係をまとめて置いています。
サビではさらに中央にカプリシャスのメンバーによる3パートコーラスが加わります。

加えてほぼ全篇に厚みのあるストリングスが入っているためコード感は十分であり、
リードボーカルの良さを邪魔しないように楽器の編成を意識的に少なめにしたのでしょう。


イントロはストリングスの中の楽器がソロで演奏されて始まりますが、
これは音色からするとビオラと思われ、そのすぐ脇にチェロの音も確認できます。
やがてストリングスが総出となり、弦楽4重奏のような格調高いイントロが展開されます。

全体のサウンドは洋楽、それもアメリカではなくデビューしたばかりのアバのような、
中欧~北欧、しかしそう寒くはない季節のイメージが感じられます。

2回あるサビでは、終わりのほうが少々リタルダンド(徐々にテンポを遅くする)していて、
都倉氏がオケを指揮している様子が目に浮かびます。

高橋まりさん(当時)の歌唱は力強く、しかし清潔感と潤いがたっぷりで耳に残りますね。
都倉俊一氏は高橋さんのボーカルについて「カレン・カーペンターのように、息が効率よく
全部声になるような発声だから、無理なくレンジの広い、しかも説得力のある歌声になる」
と語っていて、それは専門家ならではの、興味深い分析です。

「ジョニィへの伝言」の頃はまだ低い音域が十分でなかったのか、
♪ジョニィが来たなら伝えてよ…♪ の「よ…」の音程が下がり切っていないのが、
何となく初々しく感じられますね。

声質は現在も若い頃と比べ大きな変化はないようですが、健康面が心配です。
今後も無理のない範囲で、長く活躍してもらいたいものです。


「ジョニィへの伝言」
作詞 : 阿久悠
作曲 : 都倉俊一
編曲 : 都倉俊一
レコード会社 : ワーナーパイオニア(アトランティックレーベル)
レコード番号 : L-1108A
初発売 : 1973年(昭和48年)3月10日

そしておまけ…。
10年ほどに、今ではすっかり制作がストップしている「オリカラでピアノ」の1曲として
YouTubeにアップした、私がピアノ演奏している「ジョニィへの伝言」です
(この映像ではキーはEで演奏しています):
https://youtu.be/dMZUGnCsj5M

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すみません! お知らせが遅れましたm(_ _)m
次回は来週日曜(29日)に更新します。

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コメント 4

もとまろ

ぽぽんたさん、こんばんは。

この前はありがとうございました。

生前、父は高橋真梨子さんの歌が大好きで、たしかコンサートにも行きました。
真梨子さんの代表作として長年歌っておられますが、ペドロ&カプリシャスとしての歌ということを忘れてはならないと思います。若い歌声には勢いがあります。それとシングル盤の弦楽器が響くカラオケもスケールたっぷりで良いですが、紅白で見たメンバーだけの伴奏がとてもかっこよくて、語るように歌う真梨子さんの良さを際立たせていて惹き込まれます。

真梨子さんは、当時子供に人気があった…と古い歌集のエピソード記事にあり、「五番街のマリーへ」を歌ったときは、「歌に出てくるマリーは、あなたのことですか」とのファンレターをたくさんもらい、返事に困った…と書かれていました。

阿久悠先生がなぜこれを気に入っておられるか…レコード大賞作詩賞受賞作品だから、でしょうか。昭和45年には、「真夏のあらし」で作曲賞を受賞された川口真先生に、「(編曲賞が良かったと言うけど)くれると言う時に貰わないと、欲しい時にくれないよ」と受賞を勧めた…と「歌謡曲の時代 歌もよう人もよう」に書いておられます。
あ、それより詳しく、「NHK人間講座 歌謡曲って何だろう」に以下のように書いてありました。
歌の主人公である元踊り子の思考や行動は、「女」ではなく「女性」であると信じている。ジョニイを「女」として待ち、友だちに伝言を頼む。しかし最後、過去の見切り方や人生の選択に、男に依存しない「女性」の決断があったように思える…と。
初期の阿久先生がこういう詞を書きたい…と箇条書きにされた中の一つに、男が抱きしめたい「女」を描くのではなく、男にすがらない「女性」を描く、ということがありました。そういう歌は「誰も手掛けていない死角」と考えた阿久先生でしたが、書こうにもなかなかうまくいかず、やがてリンダさんの一連のヒット曲を経て、この歌で現実と重ね感じてみるリアリティを持った詞として描くことができた…ということだったそうです。
シングル盤では最後「友だちなら そこのところ うまく伝えて」をちょっとタメながら歌うところが好きです。「女」と「女性」が入り乱れるようなところを絶妙に表しているように思います。

それと、静岡の高校生だったときのピンク・レディーがヤマハにレッスンに通い始めたとき、面接(だったかな?)でケイちゃんが歌ったのが「ジョニイへの伝言」だったと聞いたことがあります。ミーちゃんは麻丘めぐみさんの「アルプスの少女」だったそうです。
by もとまろ (2020-03-15 00:27) 

ぽぽんた

もとまろさん、こんばんは!

私が本文で書かなかった(書けなかった、かな(^^;))歌詞についての深い考察を
ありがとうございます。
今思うと、阿久悠氏がこの曲を書いたのは36歳の頃ですが、60歳を過ぎて
過去を語れる年代になった人が書いているような感じのする歌詞だ、と私は感じます。
高橋真梨子さんはデビューした頃はかなりユニークなルックスだった事もあり、
子供が目を着けるのもうなずける気もします(って、その当時の子供は私も
含まれますが)。 当時は高橋まりでしたから、「五番街のマリーへ」の「マリー」
が歌っている本人だ、と子供が思うのも無理はないですね(^^)

確かにこの曲はペドロ&カプリシャスなるグループの楽曲ですが、レコードを聴く
限り、バンド感が殆ど無いんですよね。 サウンドに、グループの持ち味である
はずのラテンの雰囲気も希薄ですし、私はこの曲は高橋真梨子さんのために
書かれた曲のような気がしています。 それは「別れの朝」も然りで、
その曲のボーカルは前野曜子さんでしたが、サウンドは歌謡曲そのものです。
もう少しバンド寄りな音作りで「ジョニィ」「マリー」並のヒットが出ていれば、
グループのネームバリューもうんと高くなったのに…と少々残念です。
それでも「別れの朝」「ジョニィへの伝言」「五番街のマリーへ」の3曲は
今や、永遠のスタンダードですし、きっと今後も生き続ける事でしょう。

by ぽぽんた (2020-03-16 23:19) 

ゴロちゃん

ぽぽんたさん、こんばんは!

「ジョニィへの伝言」、素晴らしい歌ですね。私はイントロの出だしのストリングス(ビオラ?チェロ?)のところがたまらなく好きです。都倉さんの歌の中ではいちばん好き、と言っていいほどの歌です。
歌詞の中では最後の方の、♪サイは投げられた もう出かけるわ わたしはわたしの道を行く♪のところが大好きです。リアルタイムの中学生の頃は特に思わなかったのですが、大人になるにつれてこの女性の強さや潔さを感じるようになりました。「サイは投げられた」という言葉もこの歌で知りました。

私がこの歌詞から思い描く画は「アメリカの田舎(というか郊外)の町のバーで飲んでいる女性」です。このバーのマスターがジョニィの友達。カウンターでジョニィを待ちながらバーボンなんかを飲む女性(なぜか真梨子さんの姿です)がいて、時々そのマスターとぼそぼそっとしゃべっている。そして2時間ほどたって「じゃあ、行くわ。」と伝言を頼む彼女。バスはニューヨークのような都会ではなく、舗装されてない道を走って遠い遠い町にいく。そんな風景をずーっと思い描いていました。私の中では、ちょうどこの歌がヒットしていた頃に日本で大ヒットしたドラマ「刑事コロンボ」の中のアメリカの風景と重なるのです。当時の真梨子さんの風貌はこの主人公に見事にマッチするのです。(私の中では。)こんなふうに自分なりの画を想像しては、この歌を聴いています。

久しぶりにぽぽんたさんのピアノ、聴かせていただきました。とても素敵でした。お顔もちらりと見えてよかったです。もう6年くらい前、「大河ドラマ『軍司官兵衛』に出てくる、岡田准一さん扮する黒田如水に似ています。」と書いたことがありましたが、憶えていらっしゃいますか?ピアノの動画を見て、「やっぱり似てる!」と改めて思いました。

by ゴロちゃん (2020-03-21 23:13) 

ぽぽんた

ゴロちゃん、こんばんは!

このイントロは、作曲した本人にしか書けないフレーズかも知れませんね。
ストーリーの始まりを告げる、汽車の汽笛にようなものでしょうか。
「賽(サイ)は投げられた」もそうですが、当時の歌謡曲の歌詞には文学や歴史など、
知識が広いとより深い意味も考察できるように書かれているものが多くあるようで、
何とも奥の深い、知的な音楽でもあったんですね。
それがよりストーリー性を高めている、とも言えると思います。

動画を観て下さってありがとうございます(^^)  …そう言って頂くと
岡田さんに申し訳ないです(^^;) 私は芸能人に似ていると言われる事が殆どないので、
ちょっと恥ずかしい、でもウレシイような気持ちです。 
これを機に少しは外見にも気を遣おうかな(*^^*)

by ぽぽんた (2020-03-22 23:53) 

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