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Romance / 松田聖子

このブログ、岩崎宏美・ガロに続く3曲目の「ロマンス」です:

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「Romance」は松田聖子さんの7枚目のシングルで1981年10月に発売された「風立ちぬ」
のB面に収められた楽曲で、洗顔フォーム「エクボ」のCMソングに使われていました。
と言うより、いきなりサビで♪Look at me 私を見つめて…♪ と始まるあたり、
最初からそのCMソングとして企画・制作された楽曲なのでしょう。

B面曲ながら、CMソングだったからか「夜のヒットスタジオ」などでも披露されていました。

作詞は1981年7月発売の前作シングル「白いパラソル」から長く作品を提供していた松本隆氏。
正確には同年6月に発売された3rdアルバム「Silhouette」に収められた「白い貝のブローチ」から、
ですね。

作曲は、後に「瑠璃色の地球」を作曲し提供する事になる平井夏美氏。
平井夏美とは「少年時代」(井上陽水と共作)等のヒット曲で知られる作曲家、
川原伸司氏の変名です。

編曲は、松田聖子さんの楽曲では初めての起用となった船山基紀氏。
翌年夏に発売されたアルバム「Pineapple」の収録曲でも特に名曲の誉れ高い 
「ひまわりの丘」も氏のアレンジです。


先述の「エクボ」のCMでは、歌い出しの ♪Look at me 私を見つめて 息も止まるくらいに♪
が使われていましたが、
1拍ずつリズムを刻むピアノの和音とコード進行(C→Em→F→A7→Dm…)が印象的なんですね。
この曲を知っている人の多くは、ボーカルと共にそのピアノの音も一緒に記憶しているはずです。

その ♪息も止まるくらいに♪ の譜割りも特徴的で、
私は最初聴いた時「いき・もとまる??」と、とっさに意味がつかめなかったものです(^^;)

「Romance」のキーは調号に何も付かないCメジャー(ハ長調)ですが、
コード進行については、サビが終わり ♪(白いテニスコート…)視線感じる♪ の部分の
(Dm→G7→)Em7-5→A7(→Dm)も大変効果的で
それが先述したサビのコード進行と共にこの曲がただ明るいだけでない、
どことなく陰も感じさせる仕上がりにしています。
このようなコード進行の場合、A7の次にはDmに移るのが最も自然であり、
その流れでごく一瞬、明るいCメジャーから暗い感じのDマイナー(ニ短調)に転調する
錯覚を起こすから、なのかも知れません。


1981年の松田聖子さんの楽曲のオケで印象的な音だったのがシンセサイザーのキラキラ音で、
「夏の扉」のイントロでのその音は特によく知られていますし、
他にも「花一色」、少々音色は違いますが「花びら」、
さらには翌年の「レモネードの夏」(「渚のバルコニー」B面)でも使われています。

「Romance」のイントロや間奏で使われているシンセサイザーの音は、
それらの中でも特に存在感のある音にセッティングされているように感じられます。
そして打ち込みではなく、明らかに手弾きによるゆったりとしたその演奏は、
この楽曲全体に大きな安定感をもたらしています。

同じような音色はこれより7年ほど後にコルグから発売され大ヒットしたデジタルシンセ、
M1にもプリセットされているようですが(残念ながら私は試した事がありません)、
1981年当時だとFM音源のシンセすらまだ登場しておらず、アナログシンセ全盛だったので、
松田聖子さんの楽曲で使われていたのはシーケンシャルサーキット社のProphet-5あたり、
でしょう。

そのようなキラキラ音に限らず、
電子音であるシンセサイザーと生音のオケとの調和が最もとれていたのが、
この時代の楽曲であったように、私には思えます。
それ故に、当時の作品にはサウンドに厚みのあり、豪華なものに聴こえる楽曲が多いのでしょう。


さて、聖子ファンならば誰でも知っている事ですが、
1981年後半の松田聖子さんは、声が絶不調でした。

YouTubeにこの「Romance」のボーカルを抽出したものがアップされていましたが、
それには頭サビの後にウ・ウン…と咳払いのような声が聞こえます。
「Romance」は全体にボーカルが荒れ気味で、特に最後のサビ ♪Look at me
あなたが好きだと…♪ の部分では、声が思うように出なくて悔しい…とも言いたげな、
叩きつけるような歌い方になっていて、よくこれをOKテイクにしたな、
と変な感心をしてしまいます(他のテイクはもっとひどかったのかな)。
松田聖子さんの作品では最も不出来なボーカル、かも知れません。

その代わり、それまでには聴けなかったような低音ボイスが聴けるんですね。
♪白いテニスコート 金網の影で…♪♪前から好きだった 本当はあなたを でも…♪
での低音は大人びたものに感じられ、それはそれで魅力がありますし、
それこそ近年の「SEIKO JAZZ」を予感させるものでは…
と、これは今だからそう思えるのですが(^^;)


「Romance」を含め、歌謡曲史上で松田聖子さんほど、多くの「良い曲」に恵まれた
歌手はいないのではないか、と思います。
シングルA面は当然として、シングルB面、アルバム収録曲などにも、
特にファンではないが知ってる…と言われそうな曲がこれでもか、とありますよね。
率直に言って、私は松田聖子さんについては1985年までのキャリアにしか興味がないのですが
(とは言っても1986年発売のアルバム「Supreme」は大好きです)、
その間に発売されたシングル、アルバムに収められた楽曲は駄曲・捨て曲が殆どない、
と思っています。 勿論好き・嫌いはありますが…。

でもその後、自作に走ってからはやはり、いただけない。
聴き込んだわけではないのですが、時折耳に入ってくる曲だけで判断しても、
どれも同じような曲にしか聞こえてこないんです。
大ヒットした「あなたに逢いたくて」も、歌詞だけ読むと逢いたい・愛してるばかりで、
幼稚な印象を持ってしまいますし。

ただ、ただですね、この「Romance」に関しては、歌メロやアレンジは素晴らしいものの、
歌詞は何だか「企画が持ち込まれて仕方なく作りました」感が満載と感じられるのは
私だけでしょうか。
当時の若い人ならば誰でも知っていたと思われる、その数年前のヒット曲のタイトル
「Love Is Blind」(「恋は盲目」ジャニス・イアン)が唐突に出てくるのもその原因ですし、
全体に言葉がストレート過ぎて奥行きがない気がするんです。
故意にそのような作りにしたのかも知れませんが。


…それはそれとして、やはり、松田聖子さんは歌手であってほしいし、それに専念してほしい。
シンガー・ソングライター聖子を望んでいるファンはそう多くないと思いますし、
しかしそのボーカルも近年は何となく歌い方がおどおどしていて不安定に感じられるので、
還暦を迎える前にまっさらな歌い方に戻ってくれればな…と、
聖子さんと同学年の私は思ってしまうんです。


「Romance」
作詞 : 松本隆
作曲 : 平井夏美
編曲 : 船山基紀
レコード会社 : CBSソニー
レコード番号 : 07SH1067
初発売 : 1981年(昭和56年)10月7日

次回は12月22日に更新予定です。

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追記(12月8日)

私ぽぽんたがクリスマス向けに2年前に作った1曲(インスト)です。
"Children On A Snowy Day"


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White Autumn

ぽぽんたさんこんにちは。すっかり寒くなりましたね。
最近、コードネームについて少し勉強しようかなと考えています。
このブログのお話をもっとよく理解するために…はもちろんですが、将来時間ができたらただ引きこもるのも何なので、ポピュラーピアノ・キーボードを覚えてみたいと考えています。取ったこと(小学生の頃すぐに飽きて親をがっかりさせたクラシックピアノ)さえも忘れるほどの昔の杵柄ですが。
今回のお話はまさに最適でした。

手始めに、自分の好きな楽曲のコード進行をいくつか調べています。このお話に出てくるC→Emで始める進行は、大滝詠一さんがよく使っています。C→Em→Fは「恋するカレン」「すこしだけやさしく」など。サビ後のDm→G7→Em7-5→A7→Dmは「風立ちぬ」の♪今日から私は心の旅人~(Dmの後はFm→Cと続く)で使われているパターンです。(注:比較のため、いずれも原曲キーをCに移調しています。)ぽぽんたさんがおっしゃる「明るいだけでない、どこか陰も感じさせる仕上がり」という感覚は、まさにここから来ています。

大滝さんの曲は、Aメロの最初のフレーズをCキー(ハ長調)とすると、次のフレーズでDmから始めるパターンが多く、必殺技に近いものがあります。すなわち大滝さんが大好きだった60’sアメリカンポップスの魅力の核心です。川原さんもそれをよくご存じだったのでしょう。

聴く人の心を最もグッとつかみやすい、明るさの中に翳りを感じさせるメロディーに、ぽぽんたさんご指摘の「生音オケとシンセサイザーの調和」が加わることで、1980年代前半に上質のポップスがたくさん作られたと見ています。

余談ですが、川原さんは当時ビクターに籍を置いていらしたゆえ、松田聖子さん(CBSソニー)、井上陽水さん(フォーライフ)など他社の人への仕事を引き受ける際は、女性名を使えばまずバレないだろうと見込んでいたでしょうか。服部良一さんの外国人風ペンネームと同じ発想ですね。

「Romance」はタイトルからして、よくつけられたものと思います。既に別の曲のイメージが固まっている状態で。ご存じのとおり、「エクボ」の前年のCMでは聖子さんの「裸足の季節」が流れて、映像には別のモデルさんが登場する形でしたから、聖子さんが大人気を博したことで、資生堂はどうしてもリベンジしたかったのでしょう。その後「Rock’n Rouge」でカネボウのCMに出るのですから、資生堂との相性は結果的にそうよくなかったかもしれません。

大滝さんは自分で短いCMソングを作ることはライフワークにしていて、それを条件にレコード会社を選んでいたほどですが、最初からタイアップがついていて、その条件に合わせたフルサイズの楽曲を作ることには関心がありませんでした。「君は天然色」は、タイアップに合わせて詞を変える提案を断り、松本さんが書いた通りに歌って出したといいます。(発売後に改めてCMに使われました。)松本さんにとっては「作詞家として再起する一作」ですから、大滝さんが目先の利益にとらわれるはずがありません。「熱き心に」も「小林旭さんにこの曲を歌ってほしい」という希望が先で、完成してからCMタイアップがつけられています。「Romance」で川原さんにお鉢が回ったのも、案外そういう事情が隠されているように思えます。

一方松本隆さんは「セクシャル・バイオレットNo.1」でタイアップの条件に立腹したものの、筒美京平さんに割り切る考え方を伝授されて開き直ったとおっしゃっています。「Romance」も、そういう注文だからとドライに考えていたのでしょう。

松田聖子さんは、次第に美空ひばりさんの晩年のような存在になりつつあると見ています。年齢は既にひばりさんの享年を超えていますね。ひばりさんも1970年代後半から1980年代はほとんどヒットに恵まれませんでした。ただし大きく違うところがあります。ひばりさんはヒット曲が出なかった時期、様々なジャンルの膨大な数の楽曲をレコーディングしました。歌いたかったというジャズや、阿久悠さんの提供がかなわなかった「舟唄」も含まれています。(ひばりさんが、もともと自分のために書かれた曲だというエピソードを承知していたかどうかまではわかりません。)対して聖子さんは、毎年多くのファンをがっかりさせながら、箸にも棒にもかからない自作曲に20年近くこだわり続けています。「Romance」の頃に喉を壊しかけたことがよほどこたえているのか、最も信頼していた大村雅朗さんが亡くなってから、音楽面でサポートしてくれる才能に恵まれなかったのか。既にひばりさんと同じく、後世の“伝説”になるに足る実績は残していますから、これから歌手生活の結びまでどうしていくか、考えてみるべき時期に来ていると思えます。

by White Autumn (2019-12-02 11:39) 

ぽぽんた

White Autumnさん、こんにちは! お返事が大変遅れてしまい申し訳ありません。

私の記事がお役に立てて何よりです(^^) コードネームは慣れると非常に便利ですね。
ピアノでは通常2段のスコアが用いられますが、メロディーしかない1段の譜面でも
コードネームが書いてあればそこそこ音楽らしい演奏ができるものです。
何だか「カッコいい」と言うのもありますし(^^;)
「風立ちぬ」のその部分は、レコードではEm7-5でなくストレートなEm7ですね。
しかし-5(♭5)にすると何だかモヤモヤ…と独特の雰囲気になるのがとても面白く、
もしかしたらライブなどではそのようにした事もあるかも知れませんね。

自作自演のミュージシャンだと、仰るような大滝詠一さんのコード進行などの、
手癖に近いパターンを用いる事が多々あるのは確かですね。
対して筒美京平氏や都倉俊一氏などの職業作曲家だと、やはりいくつものパターンを
駆使するのが本分!と言ったような気概を感じます。
…とは言ってもそういった方々にも好きなパターンはあるようで、例えば私が好きな
(C7→)F→B7→Em→A7→Dm→Fm→G7…と言うパターンを、筒美氏は南沙織さんの
「哀愁のページ」「愛の序曲」(「夏の感情」B面)、麻丘めぐみさんの
「悲しみよこんにちは」などで使いまわしています(^^;)
自分で楽器をして色々な曲にアプローチすると、そういった事も次々にわかってきて、
それもまた楽しいんですよね。

あとは転調、かなぁ。 「Romance」では歌の部分は転調はありませんが、
間奏で一旦CからDに移りますよね。 転調にもいくつものパターンがあって、
例えば欧米の楽曲だとさりげなく、いつ転調したのかわからないものが多く、
日本人が作った曲だとあからさまに「転調したぞ!」といいたげなものが多い、
と言うのも面白い現象です(^^)
大滝詠一さんも独特のパターンをいくつか持っていて駆使していましたね。

私も「平井夏美」とは女性だとずっと思い込んでいました(^^;)
どうも昔から作家と言われる人はいくつも名前を持つのが当たり前のようですね。

近年の松田聖子さんの楽曲は、やはり自分が好きなタイプで歌いやすい…が
最優先なのかな、と思えます。
「Seiko Jazz」にしても、決して上手いわけじゃない。 ただ年齢なりに
そういったものに手を出しておきたい、という程度に感じます。
今の歌唱力では若い頃のような勢いは出ないし、それを期待するのも無理
ですから、そろそろプロデュース側にまわっても良い頃かな、とも…。
私はファンとしては、やはりデビューから最初の結婚までの5年間で十分です(^^)

by ぽぽんた (2019-12-07 15:05) 

widol

ぽぽんたさん、こんにちは。

松田聖子さんの曲は最初の5年間で十分というのは本当にそう思います。曲としては結婚後の松本隆作詞・大江千里作曲の「Pearl -White Eve」あたりまでは何とか聖子らしさを保っていたと思っています。
自分でセレクトプレイリストを作る時は『SUPREME』までのセレクトになります。唯一、それから10年以上後の大村雅朗氏追悼の「櫻の園」が入るくらいでしょうか。

さて聖子さんの声ですが、「白いパラソル」アルバム『シルエット』あたりからかなり不安定になりますね。「風立ちぬ」のカップリング「Romance」とアルバム『風立ちぬ』まで続きます。「流星ナイト」
もかなり荒れています。
ただ、翌年の「赤いスイートピー」になると少し戻して、秋の「野ばらのエチュード」アルバム『Candy』の頃になるとキャンディーボイスが完全に戻ってきます。

突然売れてテレビにレコーディングに休む暇もないほどになって、声が荒れることは他の歌手にもありますね。聖子さんはよく休んだりせずに戻したものだと感心します。
太田裕美さんは「九月の雨」を歌い始める少し前から喉を痛めてファルセットが出にくい状態になり、その後調子がいい時はあまり多くなく悪い時が多くなっていったと思います。半年でも休んで喉を休めたら良かったのかもしれませんが、当時の状態ではとても無理でテレビにライブに休むことなく歌い続けたことで調子の悪さが常態化してしまいました。85年の結婚休養後は結果的に喉を休めることとなり。98年の本格復帰の際には以前の声を戻したばかりか伸びのあるファルセットに美しいの大人の声になっていましたので、休むことは大事だとその時は実感しました。
天地真理さんや小柳ルミ子さんくらいになると多少は調子の良し悪しはあっても、声をつぶす、ようなことはなかったように思います。基礎を学んだ人たちの違いだとも思いました。喉の強い弱いももちろんあるのかもしれませんが。

最近の聖子さんのライブは、キーを落として歌うので、以前のキャンディーボイスは聞かれないものの、アコースティックコーナーで生で歌う姿は好感は持てるものだと自分では思います。歌にきちんと向き合ってるなとは思います。また、ショーアップしたエンターテナーとしてもまだまだいける、そういったところでしょうか。
キャンディーボイス松田聖子は80年代後半で終わり、自分にとっても松田聖子もそこで終わっていることは確かですが、還暦が近づいた今でも歌い続ける、そして少なからずファンもついて行ってるというのはすごいことですね。


by widol (2019-12-08 18:05) 

ぽぽんた

widolさん、こんばんは!

私も「5年間で十分」と言いながらもアルバム「Supreme」は大好きな1枚です。
洋服店で流れていた「蛍の草原」を聴いて一発でやられました(^^;)
そのCDを買った時に松本隆氏のコメントなども記載された、CDジャケットサイズの
ディスコグラフィをおまけにもらって、それも今も手元にあります。
それを聴いていても、やはり聖子さんは歌手だなぁ、と思います。

アルバム「風立ちぬ」はA面とB面とで歌い方が全く違うのが、結構話題になりましたよね。
最後の「December Morning」も荒れた声をしていますが、それはそれなりに味みたいなもの
があって、私は結構好きです。

太田裕美さんも声の調子が悪かった頃の事を語っていますね。 キャンセルになった
コンサートもあったそうで、今もそれが心残りのようです。
しかしそうですね、考えてみると毎日毎日何回も何回も歌う生活を1年以上も続けると、
普通に考えても喉の具合が悪くなっても不思議でない気がしますね。
しかし仰るように正式に勉強した人とそうでない人とは、どうしても差がついてしまうのも
事実であるようで、それは歌手本人よりもプロダクションなどのサポートの問題かな。
ただ今も不思議なのが、河合奈保子さんが声の調子を悪くしているのを、私は一度も
耳にした事がないんです。 不思議なほど、いつも同じように歌える人でしたよね。

松田聖子さんは歌のイメージとは違っていつもハキハキしていてトークも面白いですし、
ファンを楽しませる事については今も一流だと、それは同意します。
今年も紅白に出場するようですが、ここ数年の紅白での歌唱はお世辞にも良かったとは
言えないものだったので、そんな大舞台でこそ、デビュー時のような芯のある歌唱を
聴かせてもらいたい、とつい、思ってしまいます。

by ぽぽんた (2019-12-08 23:06) 

もっふん

あちらこちらで時代遅れの男、もっふんです。

実はこの曲のコード進行については書きたい事が山ほどあって、収拾が付かなくなってしまったので投稿を控えておりました。ですので今日は身も蓋も無いほど簡単に片づけますが、「♪白いテニスコート~」の部分は日本ポップスの黄金進行である「ニーゴーイチロク(Dm7-G7-Cmaj7-Am7)」を下敷きにして代理和音を充てたものと解釈出来ます。Em7はコード機能上はトニックですからね。Dm(7)の前のAm7 を A7 にするのはセカンダリドミナントの考え方と同じで常法と言っても良いでしょう。同様に A(m7) をにらんで Em7 を E7 とする進行を含めてそれらを「ニーゴーサンロク」と呼ぶことも一般的です。

奇しくも同じエクボの先代CMソング「裸足の季節」もキーこそ違えど「♪白いヨットの影~」の歌い出し部分は「ニーゴーイチロク」。Key=C で書き直すと最初の「Dm7-G7」の部分を「Dm-Dmmaj7-Dm7/G-G7~」と飾り立ててはいますが背骨は同じです。

本楽曲では頭サビを聴かせるスタイルを取りながらも、その後の通常であればAメロとなる部分に「ニーゴーイチロク」を忍ばせる事によってコンセプトが前作から余り遠くに行かないように計算されたのだと思います。

私がこの進行を意識したのはユーミンの「12月の雨」からですが、それは「12月」ではトニックの弱起無しでドミナント(Ⅴ7)からいきなりⅡm7の主題部が始まる作りが珍しかったからです。自分が馴染み深いもので恐縮ですが「涙あふれて」のサビに見られるように浜田省吾作品にも多くみられ「王道」と呼ぶにふさわしいほど多用されて来たコード進行です。

一方でまた、16ビートで延々と繰り返すと誰でもサンバが作れてしまう進行でもあり「スプリングサンバ」(大場久美子)のサビとかは「まんま」ですね。

「ニーゴーイチロク」がサブドミナントから始まるのに対してトニックから始める「イチロクニーゴー」もかつての王道進行であり、音楽的な事が苦手な方でも「ひなげしの花」(アグネスチャン)のイントロ冒頭「ドーラーレーソー」がそうだと言われればイメージは簡単に得られると思います。

個人的には「イチロクニーゴー」はもっと古くは「イチロクヨンゴー」だったのではないかと思っており(Dm7 は F の代理となり得ます)、「スタンドバイミー」やら「ダイアナ」のようにサビも含めて最初から最後まで同じ循環コード「イチロクヨンゴー」で済ませても「名曲」となってしまうほど耳障りの良い進行なんですね。

さて。

そんな中、記事にもある通り本曲では二回目の「ニゴーサンロク」の「サン」に Em7-5 を持って来ているのですが、これはかなり珍しい部類と言えるでしょう。7th 以外の構成音に B♭を含みますから Key=C/Am のダイアトニックコードではありません。B♭があってEが♮と言うのは、同主調からの借用、セカンダリドミナントや裏コードや減三和音を除くと Key=F の Ⅶ、Key=Dm のⅡのダイアトニックであると感じるのが普通です。E が♭であればブルーノートを強調しただけとも解釈出来、実際都倉作品にはそうした E♭(7)が頻繁に現れますが、それとも違います。

思考のお遊びに過ぎませんがこの部分の「ニーゴーサンロク」をこうも表現出来ます。

 Dm7-G7-Gm/E-A7

「G(7)→Gm」のシーケンスで4度上に転調するのは良く使われる手法でもあるので、ぽぽんたさんが書かれたように「Dmに転調するのではないかと言う錯覚」と言うよりは、これはもう「部分的に一瞬ではあるが転調している」と考えた方が早いかも知れませんね。

大元の骨格が使い古された「ニーゴーイチロク」であっても、上手く代理となるコードで置き換えて行く事でまた新しい表現が可能となるあたりが音の面白いところでもあると思います。
_
by もっふん (2020-02-21 21:47) 

もっふん

事故レスです(汗

>「ひなげしの花」(アグネスチャン)のイントロ冒頭「ドーラーレーソー」

これは「草原の輝き」でしたね。うっかりミスです。m(_ _)m
_
by もっふん (2020-02-22 00:42) 

ぽぽんた

もっふんさん、こんばんは! お返事が遅くなり申し訳ありません。

レクチャーをありがとうございます。 私、以前にも書きましたが理論を追うのが苦手
なので、とても参考になります。
私も細かい事を書き始めると収集がつかなくなるので(^^;)、また機会をみて
改めて書かせて頂きます。 よろしくお願い致します。

by ぽぽんた (2020-02-24 23:26) 

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